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07

国王様を初めとした偉いはずの方々は実にざっくばらんな性格をしていらっしゃる。

特に王太子のエルダ様は、様を着ける事さえ憚られるほどざっくばらんだ。

ざっくばらんすぎて立ち眩みがしてきた。

この分じゃお姫様も同じなんだろう。

居ないだろうけど。



「なあ弓月、聞いてるか?」

はい聞いて居りますとも。

隣の大国、べべリアがこの小国グレィスを併呑しようと日々ちょっかいを掛けているんですね。


「この国は何の取り柄もない。農業と牧畜でやっと食ってるんだ。

当然、金も無い。俺たち王族や貴族と呼ばれるゼルだって贅沢などしない、出来ないんだよ。」

でもそれは良い事でしょう。

国民から搾り取って贅沢三昧な国に未来は無いし。

「確かに贅沢をしようとは思わんさ。大国になろうという気も無い。

俺たちの望みはこのまま静かに平和に暮らしていければ良い、唯それだけだ。」



お城なのに夜会など無い。

煌びやかなドレスを着たお姫様も居なければ、見目麗しい騎士様も居ない。

あ・・・・一人だけ騎士様はいるけど、ちょっと違う。

歓迎の宴と云うのも大げさではない程度に豪華なご飯をみんなで食べるだけで、ダンスも音楽もない。

良いと思います。

ご飯を食べながら歌など歌ってはお行儀が悪い。

金色のワインは未成年なので水で割ってくれた。

美味しゅう御座います。

お肉も柔らか、蕩けるようです。

お魚も香ばしく焼けています。

美味しゅう御座います。

有り難く戴いて与えられたお部屋に戻ると、エルダ様がやって来て今回の事情説明となったのだ。



聞いて良いですか。

そんなに何も無い国を、大国と称されるビビリア国は何故欲しがるんでしょう。

え・・・べべリアですか。はい。


「百年前に大きな戦争が有ってな。アーリィア大陸全土を巻き込んだ。

当時グレィスはべべリア王国の一地方だったんだが、カツカツの収穫しか望めないほど地味に恵まれず、さしたる産業も無いお荷物領で、護る価値も無いと切り捨てられたんだ。

元々土地全体が弱い処に、戦争だ。荒れきった畑には雑草さえなかったそうだ。

生きる為に必死になって居たらいつの間にか戦争は終わったけど、救いの手は何処からも無いまま。

当時の領主だった爺様は、大国に着いていても意味は無いと独立を宣言したんだ。

良く苦労話を聞かされたよ。親父も満足な飯も食えずに育ったそうだ。」


今は豊かみたいですが。

途中の村も街も作物が生っていたし、牛も多かったし。


「実は秘密が有るんだ。

民と一緒に苦労しながら働いて頑張って、それでもまだまだ大変だった時、三十・・・もう五年前になるかな。一人の黒魔導師が流れ着いた。

ああ、黒魔導師は騒乱を起こすと云われてるんだ。どこの国でも排斥される。

魔力は凄まじいが、戦争が収まったら追い出されるのが普通だ。

彼らも大概が山に籠ったりして滅多に現れることは無いが、その黒魔導師は変わり者だった。

『この国に豊かな実りを約束しよう。代わりにこの国に置いて欲しい。』

ちょうど親父に代替わりする時で、親父は藁にも縋る思いで受け入れた。

約束は守られて翌年から収穫量は増え続け、牧草も質が良く牧畜も盛んになったんだよ。」


なるほど・・・・あ――、ちなみにその黒魔導師様は何処に?

ああ。やはりそうですか。途中からそんな気がしてましたし、今更驚きませんとも。

我がお師匠様が只者じゃないのは知ってましたよ。

おそらくブブリア国にその秘密が漏れたのでしょう。

狙いは国ではなくガイです。

え。

何故判るかって?

こんなものお約束です。

全く鉄板です。

どんな話でもそうなってます。

あぁ、べべリアでしたね。

お待ちください、今ガイを呼びました。



これは面白い。

実に面白い。

常に上から目線の俺様ヲタク魔導師が苦り切っている。

何ですか。

私に見破られたのがそれほど悔しいですか。

ヘヘ―――んだ。

それでどうする心算ですか。

お国の為に身を投げ出しますか。

ごねて逃げて戦に突入しますか。


「そう苛めてやるな。これでも責任を感じて見知らぬ異界へと自ら出向いたんだ。」


ほほう。

さすが店長と在庫管理責任者。

仲が良くて宜しいことで。

呼んだのはガイだけなのに、金魚の糞状態で庇っちゃって。


「ガイの事はごく限られた者しか知らないが、時が経てばどうでもおかしく思われる。

この国の天災率が異様に少なく、土壌も肥え続けるなど誰が見ても何かしらの力が振るわれていると気付くはずだ。今まで知られなかったのは何処の国もグレィスなど見ていなかったからに過ぎない。」


うんうん。正しい見解です。

ちょっと気になったんですが良いですか。

私が云う事じゃないかもだけど。

まず考えなきゃならないのは。


1、どこから漏れたか。 例え何とか手を打ったとしても穴は塞がないといけません。

2、ガイをどうするか。 ガイ自身は此処に居たいんですね。じゃ、お断りの方向で。

3、戦の回避。     だって出来ないでしょ。一応ざくっと対比の数字を出してください。

4、ボーダーライン。  最終ラインをはっきり認識しておきましょう。

5、交渉役。      張ったりが効いて面の皮が厚いお方が良いです。


こんな処かな。


ええっと、ちょっと待った。

云っておきますけど私は女の子です。

異世界の戦士ではなく。

異世界の女子なんです。

知らないお国の交渉なんて出来ないでしょ。

聴いてましたか?

面の皮も厚くないし、張ったりなんか効きません。

おい。

おぉぉい。


だから、聴けってんだ。この野郎――――――――――っっっっ!!!!!!






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