04
参った参った。
誰かに云ったら可哀想な子認定確実だ。
有段者になる自信が有る。
如何に人外な店長でも九郎(猫)と会話が成立することは無い。はずだ。
とんでもな夢だった。
そう思いながら両手を伸ばす。
あんな夢を見たのはこの固いベッドの寝心地が悪かったせいさ。
なんたって手も足もはみだしてる。
はみだしてる。
何で・・・・?
あんまり勢いよく起きるものじゃない。
転がり落ちた先は固い地面だった。
地面は土。
土で出来ているのが地面。
薄暗いテントのような中にへたり込んでる自分がいる。
此処は・・・云いたくないけど・・・何処?
いきなりシャッと布が開かれた。
逆光の中に現れたのは黒ローブ。
動きを止めて暫し。
そして噴出した。
「弓月、落ちたか。」
くつくつと嗤う声は知ってる。
ヲタク魔導師の長瀬君だ。
「食事が出来たぞ。我は黒缶を所望する。」
こんな声は知らない。
真っ黒なつやつや毛並みは知ってるけど、サイズが違う。
ヲタク魔導師の横から現れたのは人が乗れそうなほどデカい猫。
じゃないあんた何者。豹?
「ああ、驚いたか。私たちはこちらでは外見が戻るからな。」
魔導師君、驚くとこ違ってます。
外に出て改めて驚いた。
人外店長と思しき身なりの金髪碧眼のイケメンマッチョが鍋を掻き廻している。
「腹が減っただろう。とりあえず喰え。」
もう驚きすぎて何から突っ込めば良いのか教えて下さい。
いろいろと説明されて周囲を見渡した。
燦々と晴れ渡る青空。
煌めく木洩れ日。
冷たく透き通る小川。
ヨーロッパを彷彿とさせる深閑とした森。
行った事無いけど。
完全に現実逃避が入った。
つまりだ。戦況が不利で異界の戦士を調達しに地球へ来たと。
戦士は調達できたけど、帰るための魔力が溜まるまで日本に居たと。
頷いた二人と一匹を見る。
イケメンマッチョ人外店長はゼラフィス。ゼルと呼べと仰せられた。
グレィス王国の聖騎士伯で在らせられるそうな。
銀髪紫眼で美少年のふりをしたメガネ無しの黒ローブヲタク魔導師はガイ。
グレィス王国はウェール国王の秘蔵魔導師とな。
小さい猫サイズで黒缶ご飯を平らげた九郎は特大サイズでもクロウだそうです。
何しろ契約したからと、実に満足そうに喉を鳴らしています。
そうですか、それはそれはご苦労さまで御座いました。
で?
調達した戦士とやらは何処にいらっしゃる。
緑と紫と金色の眼玉が揃って此方に向けられた。
気を失っても良いですか。
自分が強い子だとは思っていなかった。
明るく素直でごく普通の子でしょう。
もうすぐ19歳の唯の女子大生です。
ええ。
誰憚る事の無い一般人で御座いますとも。
多少の知識は有りますよ。
勇者様が召喚された異世界で活躍されるのも知ってます。
良くある話です。
うっかりどこぞのドアを開いて向こうの世界に転がり落ちちゃうのもアリですね。
実はチートって言葉も最近知りました。
ヲタク学友のお蔭です。
さて、真面目に聞きましょう。
罠にはまって調達される戦士で良いのか貴様ら。
そこに直れっ。
力は無い。
金も無い。
可愛いだけが取り柄の女の子で本当に良いんだな。
グレィス王国の東の森から王都まで歩いて七日。
旅は順調らしいです。
取り敢えず着いて来たのは必ず送り返すと約束してくれたからで。
そうじゃなくても放り出されても困るんです。
自力じゃ帰れないし。
特別ボーナスに惹かれた訳じゃ有りませんよ。
まして時給+アルファなんてとんでもない。
銀髪紫眼国王秘蔵のヲタク魔導師が嗤って云うには。
「私の魔力が減らないようにお前が頑張るんだな。」
了解です。
お師匠様。
何をどうすれば良いか仰って下さいませ。
金髪碧眼人外イケメンマッチョ店長は唸った。
「午後に着くケララの街で馬を手に入れる。乗りこなせ。」
了解です。
聖騎士伯。
何をどうすれば良いか教えて下さいませ。
黒豹猫のクロウはいない。
銀髪紫眼・・・・以下略。ガイが云うには、
「猫は寝る。契約したお前の影に入って寝てるのさ。」
人がてくてく歩いているというのに良いのか。
何の契約だ。
ドコでもベッドか。
解約するぞコンチキショウ。
森を抜け、丘を越え、谷を下って初めて思った。
疲れない。
二メートル近い身長のゼルと同じペースで歩いているというのに。
「当然だ。身に着けた品は総て魔力を封じ込めてある。チョーカーは常に疲労を回復させる。」
ガイお師匠によれば。
皮鎧は防御力アップ。
バングルは攻撃力アップ。
ピアスは反射力アップ。
膝下までの皮ブーツは速度が上がり、マントに至っては体調管理全般。
全ての武器は潜在能力を100%底上げだそうだ。
その為に相当な魔力を消費したんだと頼んでもいない親切の押し売り。
云いたかないけど、そんな事してないで早く帰れば良かったんと違う?