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03

あああ、こんなに有る。

粗大ゴミに出す訳にも行かない段ボールを見てため息が出る。

初日の短剣を初めとして。

弓、矢、大剣にどう見てもバトルアックス。

これは双剣と云うのか、そっくり同じ二対の華奢な剣。

鞍に鐙、皮鎧。

アクセらしき物は、好みとは云いかねるチョーカーとピアス。

やけに仰々しいバングル。

日常着ける事は難しそうだ。

コスプレと云う言葉ぐらいは知っている。

だぶん痛い人扱いになるだろう事も。


それ以外は今日貰った皮袋ぐらいしか用途が判らないが。

段ボールが一杯になったと云ったら呉れたのがこの汚い皮袋だった。


此処まで危ない武器関係を持ち帰っているにも拘らず、弓月は一切の不審者尋問は受けていない。

当然だ。

160cmに満たない小柄な躰に三つ編みの黒髪。

スクーターでの通勤はおされな服を着る間もないし、お金がもったいないからバイト如きで洒落る気もまったく無い。

チビちゃい未成年の女の子がまさか大剣など持っていよう筈もない。

明らかに背中に背負われた剣の柄がはっきり見えていても。


大丈夫なんだろうか、日本の警察は。

失礼ながら思わず呟いてしまった。



とにかく片付けよう。

このキチャナイ皮の袋に段ボールの中身をざらざらと押し込む。

あら不思議。

結構な重さが有ると思っていたのに、袋の重さは変わらないようだ。

ならば、

ベッドの下に転がしこんである長物を試しに入れてみた。

おおおっっ!

30×40程度のショルダータイプの汚い皮袋にみるみる吸い込まれて行くでは有りませんかっ。

一番長い大剣も、一番邪魔だった馬具も、槇割しか用途の思いつかない斧も。

うん。

これはあれだ。

魔法の袋だ。

さすが人外店長と、ヲタク魔導師。

とにかく荷物が片付いて良かった良かった。

空になった段ボールにお役立ちな汚い袋を入れてベッドの下に蹴りこんで。

はい。

御片付け終了。




「生物は容れることは出来ない。」

「はぁ。」

「時が止まるからだ。」

「そうですか。」

「生肉は腐らないがな。」

「結構なことで。」

うっかり聞かなきゃよかった。

今日のお持ち帰り品は黒猫。

お腹の毛を掻き分けて名前?を書き込むと大人しく膝の上に座っている。

ペットは飼った事が無いから、あの汚いお便利皮袋に容れたいと云ったら魔導師君に説教喰らってます。


背中から慣れ親しんだ唸り声が人語を操っている。

「名前を決めてやれば呼んだ時に出てくる。必要が無ければ消えたままだ。」

あらまびっくりだ。

単語以上喋れないと思ってたのに。

まあ良いか。

では早速。

名付けの儀式をば。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・九郎。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・にゃ。」

おお、賢いぞこやつ。

ちょっとお返事が遅かったようだけど。

ともかく、金色の眼の真っ黒九郎がお供に加わった。

何のお供だ。

あ、クロスケの方が良かったかな。

帰りに猫缶を買って帰った。



「魔法の猫だと?」

魔導師君は如何にも見下したように同じ目線でのたまった。

「魔法の猫ではない。九郎が魔法を使うんだ。」

ではあれだ。

ヲタク魔導師の弟子と云う事だ。

「そうだな、弓月の兄弟子だな。」

はいはいはい。

私は猫以下で御座いましたね。


九郎は実に手が掛からない。

普段は何処に居るのか姿も見せないのに、呼べば出てくる。

自室でも、風呂場でも、トイレ・・・・では呼んでないが。

こっそり学校でも呼び出したが、用が無いと知ると豊かな表情で厭そうな顔をしてくれた。


九郎は細身のくせに良く食べる。

お気に入りは黒缶とカニカマ。

安売りの時にまとめて買い込んでお便利バックに溜め込んでいる。

缶詰はともかく、カニカマは傷むかと思いきや。

時を止める出木杉君。

味をしめて大好きなプリンもざっくざく。

なんだか重さも変わらないから最近はこればっかり使っている。

汚いのに超便利。

良いんだ。

女子力は本番で発揮すべし。




その本番がやって来たのは秋も深まった頃。

別の意味だけど。


出勤すると何時も変だけど今日は更にその上をいっている人外店長が立っていた。

何でしょう、この形は。

綿のシャツは判る。皮のパンツも・・・まぁ良いだろう。

でもそれはおかしい。

皮の鎧にフードつきのマント。

まして腰には大振りの剣を刷いている。

いやいやいやいや、それは無い。


「九郎を呼べ。」

小学校の先生に習いました。

おかしな人には逆らっちゃいけません。

唸る人外店長に言われて呼ぶと、するっと現れた。

現れて一言。

「行くか。」

驚くもんか。

腹話術を使う猫がいたって。

猫に返事をする人外がいたって。

「ガイの魔力がやっと満ちた。これ以上は時が惜しい。」

「やはり弓月か。」

「これほどの逸材、見過ごしには出来ぬ。放したらランスロットに呉れてやる様なものだろう。」

「やれやれ気の毒に。」

疲れが溜まったんだな。

そうだ、今日は早く寝よう。

猫と人外店長の会話は見なかったことにしよう。

有る訳ないし。


ゆっくりと下がる。

一歩。

二歩。

三歩目で後ろから両肩を掴まれた。

「私たちに着いてないと飛ばされるぞ。」

ヲタク魔導師が妙に機嫌よく囁いた。




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