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ごめんなさい。
ガイとクロウが被るけど、頑張って区別して下さい。
m(__)m
え・・・・と。
今何とおっしゃいましたか?
聞き間違えじゃなきゃ、妻とか云いませんでしたか?
あ、間違いない。そうですか。
おふざけじゃないですか?
くどいようですが、まさか本気じゃないですよね。
はぁ、本気で妻ですか。
では。
謹んでお断りします、御免なさい。
ついでにお休みなさい。
って、何ですか。手を放してください。
私は未成年の学生で異界の女子なんですよ。
つまり私から見ると貴方は遥かに年上で、異界人で、王様なんです。
何処も接点が無いでしょう。
まして貴方と私は今日初めて会ったばかりで、趣味も性格も年収も何一つ知りません。
釣り合わない結婚は不幸のもと。
王様ならきっと素敵な方が現れる筈です。
きっとそうです。保証します。
なに笑ってんですか。
「貴女の明るさは実に好ましい。
話だけを聞けばとてつもない魔女と思ったのだが実物は可愛らしく美しく微笑ましい姫だった。
妻を亡くしてもう二十年になるが彼女以外に私が惹かれたのは貴女だけだ。
飾るだけの煌びやかな女性に興味は無い。貴女のような人を待っていた。
もちろん事を急ぐ気は無いし、私と云う人間を知って貰いた・・・」
『その辺にして置かれよ、トーリア国王よ。』
声が響いた途端、ア―サ―王はパッと跳び退った。
弓月の影からするりとクロウが現れる。
「お前は・・・・魔獣レパード・・・口が利けるか。」
『左様、口は達者な方だな。
弓月は帰らねばならぬ身ゆえ王との婚姻は不可能じゃ。諦められよ。』
ア―サ―王の右手が左腰を探るがそこに剣は無い。
それを見てクロウはくくっと嗤った。
『案ぜられるな、我は弓月と契約しておるゆえ、弓月に無体を働かねば爪は出さぬ。
それと同時に弓月の自由をも守る誓いを立てておるのでな。
御身もお判りであろう、人も獣も躰と同じに精神も束縛出来ぬことを。』
「・・・・・確かに、口は達者のようだ。」
ふっと、空気が変わった。
「そうか。レパードの契約か。弓月殿には全く意表を突かれる。だが、我が眼の確かさを知るに、此処は退かせて戴こう。
ただ弓月殿、私は本気である。
何時か貴女を娶る日が来るのを待ってこれからを過ごそう。」
良い夢を。と云ってア―サ―王は背中を向けた。
クロウ、ありがとう。
『・・・良かったのか? 王には真剣な妻問いと見えたが。』
うん。
プロポーズなんて初めてされたから驚いた。
でも判るでしょ。
私はまだまだ子供で、こっちの世界の現実に着いていけないんだ。
ゼルやガイやクロウが一緒に居て呉れるから呑気に構えて居られるだけで。
情けない・・ね。
ちゃんと向き合えないのは・・・
『焦らずともよい。もう寝め、あまり考えぬが良いぞ。』
ごく僅かな蝋燭の灯や、遠い篝火が無くてもクロウの金色の眼は、弓月の頬を濡らす涙を見逃すことは無かった。
いつぞやのグレィス王国での夜も泣いていたが、これはそれとは全く違う。
子供の弓月が大人になろうとしている葛藤なのだとクロウは知っていた。
子供で在りたい自分と、子供ではいられない自分。
大人を要求する周囲との狭間で、脚が躊躇う瞬間。
その一歩が踏み出せない。
踏み出せない自分の戸惑いに、泣くのだろう。
小さな背中を見送って呟く。
人とはなかなか辛いものだと知ってはいるし、獣の身を悔いた事はないが・・・のう弓月、我はなぜだか少し羨ましく思えるぞ。
「これで最後にします。私に望みは無いのでしょうか。貴方の伴侶になる事は叶わぬ夢でしょうか。」
トーリア王国第一王女のロロ姫は鮮やかな紫紺の瞳で真っ直ぐゼラフィスを見つめた。
亡き母の敵。憎き盗賊団をただ独りで叩き潰したゼルは彼女の英雄だった。
その男一人を望み、待ち続けて二十一歳になる。
数年に一度、来るか来ないかの男を。
常ならば嬉しいだけの再会であったが、今回は心のどこかに棘が刺さったかのように落ち着かなかった。ゼラフィス・オーガスタが連れて来た、若いと云うより幼い少女がその原因だとロロは気付いている。
気持ちが急いてしまう。
これでは駄目だと知りながらも自分を抑える事が出来ない。
何度も何度もゼルには断られながら、諦められない想いを抱えて尚も詰め寄ってしまう。
「ゼル、貴方と共に生きたい。どうか私を見て下さい。貴方だけを待って今まで過ごしてきた私を。」
ゼルの表情は変わらない。
それはこの数年と同じに見えた。が、
「盗賊の村はウルシュトル山脈の東端、峻険な山中に在った。後ろを切り立った崖に護られ、前は断崖絶壁。村に入るには一本の細い道が有るだけで厳重な防御と監視態勢が敷かれていた。だが、よくよく調べると緊急用の避難路が後ろの崖に隠されていて、俺はまず其処を潰した。誰ひとり逃さぬようにと。」
唐突な話の内容に驚いたロロ姫が身じろぐがゼルはお構いなしに続ける。
「そこまで半年かかった。
調べに調べ、手を尽くして布石を打ち、ネズミ一匹逃がさぬように、盗賊どもが逃げる可能性を何一つ残さぬようにと。そこまでして乗り込んだ時には復讐などすでに半分は終わっていた。
後は狩るだけだ。
見張りをすべて倒し、村の入り口に立てば獲物は向こうからやって来る。
槍が折れれば斧を使い、斧の頭が跳べば剣を使う。
向かってくる男たちすべてを平らげて俺は裏山の隠し路に踏む込んだ。
自分の家族を逃がそうとする男が数人、他は女子供。
彼らは俺が塞いだ障害を取り除こうと必死になっていたが、後ろから迫った俺に気付き死に物狂いで打ち掛かってきた。
その時俺が何をしたか判るか。」
真っ青なロロ姫の紫紺の眼と、表情の無いゼルの暗い眼がぶつかる。
「男たちを半死半生で生かしたまま、その眼の前で女こど・・・」
「やめて!!」
両手で耳を塞ぎ、蒼白な顔をゆがませて叫ぶ王女のその手を、ゼルは力任せに掴んで耳から外した。
「聞くんだ。最後まで聞け。」
怒鳴る訳でも叫ぶ訳でも無い、静かな、だが強い声に王女の眼から涙が零れおちた。
「奴らが護ろうとしていた女と子供たちを殺した。
ひとり残さず。年若い娘も。赤子も。妊婦までも。
全滅と云う言葉はこれを指す。
良く聞け。
これがアーリィア大陸屈指の剣豪、復讐を果たせし救国の英雄と謳われるゼラフィス・オーガスタの本当の姿だ。」




