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旅塵を落とした私達が通されたのはごく細やかな部屋だった。

ゼルに云わせると此処は王様のプライベートな書斎だそうだ。

うん、良いね。

べべリアみたいに金ぴかの中でこれみよがしな対応はどうも苦手です。

グレィス王国もトーリア王国も感じが良いです。

きっとご飯も美味しいでしょう。

あ、いらしたみたい。



「・・・良い、顔を上げなさい。」


うわ――、良い声だ。

お顔を見てまたびっくりだ。

金茶色の短い髪に、トーリア王国の海のような紺碧の瞳。

高い鼻筋、楽しそうな口元。

しかもその全てが見事に整っている。

イケメンなんて言葉じゃおっつかない。

正真正銘の正統派美男子。

お父さんと同じくらいの歳だけど。


「ゼラフィス、久しいな。」


おお、感動のあまりあのゼルが声も出ないぞ。

頑張れゼル。


「お久しゅうございます、無沙汰を致しました。どうかお許しください。」


「何を云っておる。そなたのお蔭で国の危機が未然に防げたのだ。

礼こそすれ、責める気など微塵も無いぞ。良く来てくれたな。」


聞けば聞くほど良いお声でいらっしゃる。

ついうっとりと聞き惚れてお言葉を賜ったのに気付かない処だった。


「黒魔導師ガイ殿と、弓月殿・・・・・お美しい姫だ。」


いやあ、それほどでも。


「お二人にもこのたびは大層お世話になった。私はトーリア王国、国王ア―サ―・セプテンと申す。

大まかな処はこのランスロットから報告を受けているが、ぜひ直接伺いたく無理を言ってお越し願ったのだ。

大層なご活躍でさぞお疲れであっただろうが、お呼び立てした事を許して戴きたい。」


何と礼儀正しいお方だろう。

顔良し、声良し、性格も良しで。

揃っちゃったよ、三拍子。


枯れ切ったウェール様や、耳が遠くて虚弱体質のヨシュア様とは云っちゃ悪いが比べ物になりません。

うーん。

これぞまさしく、誰憚る事の無いnice middle。

こうして見るとゼルにしろ、ランスロット様にしろ、ア―サ―王にしろ、ハリウッドからスカウトが来るほどの美男子が揃っている。

トーリア王国のお国柄は麗しいのであるな。

眼福とは正にこれじゃぁっ!

こっそりガッツポーズはお許し願いたい。


はい?

あ、私の話をしていらっしゃった。

いえいえ、とんでも無い。

私なぞ何のお役にも立てず。

むしろ騒ぎを大きくしただけで御座ろう。

あ、べべリアの御座る騎士団長がうつっちゃった。

失敬。


ええ。

ゼルとは日本で初めて会いまして、ランスロット様とも。

何の因果か気に入られ、今じゃこの地で雇われ女神。

北のグレィス、南のべべリア、果ては何処まで行くのやら。

流れ流れて三度笠、母さん恋しい旅がらす。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?


お笑いになられますか。

ですよね。




そしてお食事会は最高だった。


うおっ、何だこりゃ。

この白身魚の唐揚げ、うまっ。

ぷりっとしたこってり魚は脂と相性ばっちり。

トマトソースで煮込んだエビも最高っす。

あ、イカもタコも食べるんだ。

これはオリーブオイルとパセリが効いてますぜ。

このソースでパンを食すと・・・泣けてきます。

ふるふる・・・


あれ。

ねえガイ、ゼルと話している別嬪さんて誰?

ほえ―――、王女様か。

うん、ちょっと忙しくて聞いてなかった。

へえぇぇぇ、綺麗な人だねぇ、珍しく楽しそうに話してるねぇ。

ゼルも顔は良いんだからこうしてみるとお似合いだね。



うーむ。

そう来たか。

何とも悉く予想を覆すやつよのぅ。

まあ、何と云ってもまだ子供。

まして自覚の無い相手では致し方ないが。

二人ともうっかりしておると浚われてしまうぞ。

私としてはお互いに自覚した際の慌てふためく様を見て嗤いたいだけなのだが。

楽しみはいま暫くお預けと云う処じゃな。



ガイったら何をぶつぶつ言ってるんだろ。

まぁ、どうせ訳の判らない腹黒魔導師、放っておこう。

それにしても本当にお顔の良いお国柄で実に嬉しいですな。

眼もお腹も喜びに小躍りしてますぞ。


今ゼルと話してるのはランスロット様のお父様、壊れかけたゼルを繋ぎ止めたお方。

日焼けした肌に傷跡がいくつも残り、武人らしい鋭い眼つき。

そうか、ゼルのもう一人のお父さんなんだね。

怖そうな眼はゼルに向けられるとき、自慢の息子を見る父親のように緩むね。


このトーリア王国に来て本当に良かった。




客棟の中庭から見下ろす城下町は向こう側に広がる暗い海のせいで、余計にキラキラと光って見える。

ランスロット様に一見の価値が有ると云われて出て来たけど本当だ。

潮の匂いはするけど、磯臭くない。

海藻が少ないのかな。

あれ、若布のお味噌汁が飲みたくなっちゃった。

ん?

誰か来る?


「弓月殿、お散歩ですか。」

げっ、なんでこんな処に湧いて出た。

とにかく、

「これは陛下、綺麗な夜景に見とれて居りました。」


客棟にわざわざ御出でになるとは、おそらくゼルの処にでもいらしたのだろう。


「ゼルはそちらのお部屋ですよ。たぶんまだ起きてると思いますが。」

「・・・・・いや、私は貴女に会いに来ました。少々お時間を下さい。」


・・・・・・・・・左様ですか。



う―――――ん。

この状態は何でしょうか。

つい先ほど会ったばかりの御方と肩を並べて夜景を眺めているなんて。

まるでデートしているカップルみたいじゃありませんか。

ちなみに実際は肩は並んでないですが。

此方の人はやたらデカくて、この陛下もゼルと同じくらいの高身長。

つまり、私の頭の天辺が脇の下と云う不甲斐なさ。

おかしいな、好き嫌いなく食べて来たのに。


ああ、すみません。

つい考え事をしてまして。

で、何でしょう。


見上げた正統派美男子は色気たっぷりに微笑んで告げた。



「弓月殿、突然だが我が妻となって戴けないだろうか。」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?




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