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「お前たちまで行く必要はない。此処で待つか、グレィス王国に帰るか好きにすれば良い。」


与えられた部屋に着くとゼルはそう云うなり扉を閉めてしまった。

ねえ、ガイ。

つまりどう云う事?

混戦状態の戦場に割って入るのは危険だよね。

油断していた盗賊団をやっつけるより大変だよね。

でも、ゼルはそれをしようとしているんだね。

それも独りで。

え・・・・・と。

怒ってる?


「当然ではないか。これが怒らずに居れようか。ゼラフィスの馬鹿たれが。」


あ、そっち。

話を振ったヨシュア王じゃなくてゼルなんだ。


「ヨシュアの小僧などこの際どうでも良いわ。」

どうでも良くは無い。あやつの首を捩じ切ってしまいたいほどだ。

だが今は、あの馬鹿者を何とかせぬと本当に単身で乗り込んで行くだろう。

乗り込んだ先にあるは、死じゃ。

べべリア軍は今現在でおよそ五万、魔術師部隊は二百。おそらくトーリア国と拮抗して居る筈。

その勢力同士でぶつかれば・・・考えたくない悲惨な結末になろう。

まして全軍を投入したなら、最悪両国ともに壊滅する。

どちらが勝つにしろ、負けるにしろ。

ええい。

人は馬鹿じゃ。

こんな事も判らんで、毎度同じ事ばかり繰り返しおって。

先の大戦の悲惨さも、たかが百年で綺麗さっぱり忘れるなど阿呆ばかりじゃ。

忌々しい。



ドッカンって大花火を打ち上げたら?

真ん中で、手を引くまで何発でも、派手に、けたたましく。


「今何と云った。」


だから花火。

特大の火球を打ち上げ・・・・きゃっ。

ごめんなさい、ふざけた訳じゃな・・・・え。

良いのか、それで。


「良いのだ、それだ。弓月、私と共に行ってくれるか。戦場に。」


何言ってるのさ、今更。

要は戦を止めれば良いんでしょ。

だから、放して。

胸倉掴んだこの手を放して。




見送りの中にヨシュア王は当然いなかったが。

代りに奇妙なほど固い表情のマークビル卿と近衛騎士団長が並んでいる。

そこに苦虫を噛み潰した様なゼルを入れると、魔のトライアングルだ。

おお、なんと恐ろしい。

あんなに懐いてたエルフィも怖がってます。


うんうん、放って置きなさい。

機嫌の悪い人に近づいちゃいけません。

八つ当たりなんかされてる場合じゃない。

なにしろ時は一刻を争います。

此処から戦場となっている西の地、デロア平原まで馬を駆って通常十日は掛かる。

ん、何ですか。ガイ。


「ゼルに離されるな。相当に飛ばして行くはずだ。」

了解です。

全力でくっついて行きましょう。



私とガイが一緒に行くと云った時、ゼルは今まで見た事が無いほど怖い顔をしていた。

ガイが戦を止めさせるだけなら作戦が有ると、言葉を尽くして言わなければきっとうんとは云わなかっただろう。

ガイと私を護るために、故郷に住む人を助けるために、一人で行こうとしたゼル。

駄目だよ。

何の為に私を呼んだの。

一緒に頑張る為じゃないの。

これが片付いたら一緒にグレィス王国に帰ろう。

きっとウェール国王様とエルダ様が待っている。

料理長が美味しいご飯を作って待っている。

三人で帰ろう。絶対に。




十万規模の戦の只中に立ってどれほど大きな声で和平を叫んでも誰が聴くものか。

俺はべべリアの兵士を後ろから倒そうと考えていた。

一人でも多くののべべリア兵を。

依頼を受けたはべべリア、ならば俺は裏切り者となろう。

例え裏切り者の烙印を押されようとも。

見たくは無い。

それでも俺は見たくは無いのだ。

蹂躙される故郷を。

俺を育み慈しんでくれた七才までの故国。

全てを取り上げ憎しみを根源として力を携えた十五までの故国。

目的を果たし、だが血濡れた我が身のおぞましさに逃げ出した故国。

故郷を離れ既に倍の年月を過ごしていても、あの国はまだ俺の故郷だ。

故郷と云える唯一の国だ。

それを護るために独りで行こうと思ったのに。


何の関係も無いガイや弓月を危険に晒すなど許される事ではないが、ガイは死なぬだろうし弓月はクロウが護るだろう。

たとえ本人の意思を無視しても。

弓月が自国に帰るにはガイ一人居れば良い。

俺がここで死んでも、何の痛痒も無い。


では行くか、最後の旅へと。




呆れた事だ。

普通で十日の道を、替え馬を乗り継いで旅慣れた俺でもきつい五日で駆け抜けたにも関わらず、ガイはともかく弓月がぴたりと追走してくる。

子供のような幼い顔を引き締めて。

黒髪をなびかせ、黒瞳を輝かせ、馬を駆る姿は思わず眼を奪う力強さが溢れている。




「昼にはデロア平原に入るぞ。」

耳に届いたのはガイの声と弓月の返事。

「終わらせたらご飯食べよう、奇妖軒のギョウザ弁当は美味いぞぅ!」


心なしか馬の脚がよろけたようにも感じる。

だが、そうだな。

美味い弁当は楽しみだな。




そしてデロア平原を見下ろす丘の上に三人は立っていた。


向かって右手にはべべリア国軍五万が居並び、左にはトーリア国軍五万が対峙していた。

幸いな事に戦闘はまだ始まっていない。

弓月が、≪皮袋出木杉君≫から取り出したグレィス王国旗を高々と掲げる。

俺はその旗のもと、大音声で呼ばわった・


「べべリア王国軍、並びにトーリア王国軍の両軍勢に申し上げる!!」





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