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「何でガイはいつもと同じ格好なの、ズルいじゃない。」
顔を見るなり不機嫌に云いおって。
魔導師がローブ以外のどんな格好をすると云うのか。
彼の地のラノベとやらにも正装と称されて居るではないか。
まして私は黒魔導師。
黒色が基本である。
あでやかな桃色ローブなぞ間違っても着用せぬぞ。
虚け者が。
だが、
これは存外に・・・
「おお、綺麗に仕上がったな。まるで別人のようだぞ。」
なんとこの男は口の聞き方を知らぬ無粋者。
一声がそれでは・・・・ほれ見よ、膨れてしまったではないか。
今更慌てても遅い。
その膨れっ面、宴までに責任もって直しておくが良い。
機嫌を損ねた弓月は、マジに恐ろしいぞ。
ううう、だから嫌だったんだ。
こんなドレス、ちんちくりんの私に似合うはずが無い。
ガイには虚け者呼ばわりだし、ゼルには別人扱いだし。
コンチクショウ、思う存分に喰い倒してやる。
「どうやら機嫌は治ったようだな。」
ガイの言葉に弓月を見てゼルが笑う。
「やれやれ、弓月も女の子だな。褒めそやせば手のひらを返したようにニコニコ顔だ。」
「お前が治した訳ではあるまい。マークビル卿や近衛の騎士団長が真面目に褒めたが故だ。」
如何にも不本意そうにゼルが唸った。
「お前だって虚け者と云ったじゃないか。」
「私は褒めようとしていたのだぞ。」
「何が褒めるだ、存外にって云い掛けたのを俺は聞いたぞ。」
二人の間で果てしなく底辺の会話が続くが、弓月は気にもしていなかった。
「ご臨席を賜って本当に光栄です。常の弓月殿も凛々しく可愛らしいが、団長殿、今宵の弓月殿はまた格別とは思われませんか。」
「全くで御座る。このように美しい美姫はべべリアどころか、アーリィア大陸中探しても徒労に終わるだけで御座ろう。」
いやいや、云い過ぎですってば。
照れますよ、全くお口が御上手で。
ふひゃひゃひゃひゃ。
それにしても、ヨシュア国王様は如何なされました。
「お気遣い恐れ入る。陛下には少々体調不良の為、欠席させて戴くとのこと。どうか弓月殿には存分にお楽しみいただくよう申し付かっております。」
あらま、大変ですね。
御耳も遠くていらっしゃるし、御身体も弱いなら国王様と云うお仕事はさぞお辛いでしょう。
これだけ心強い御家臣方が居られるならごゆっくり療養なさるが宜しいかと。
そうそう、にこやかに。
国家間の摩擦を一つでも無くす様に。
親善大使として頑張りましょう。
ほら、マークビル卿も近衛騎士団長も心配そうでいらっしゃる。
取り敢えず、優秀な家臣団を持ち上げましょ。
王様が寝込んでもダイジョブだぁ。
問題なんかno problemさっ。
その調子だ、行け行け弓月。
何と云う事だ。
弓月殿は簒奪を示唆しているのか。
弱ってきた王を倒し、このべべリアを我が手にせよと仰せあるか。
確かに考えなかったとは云うまい。
グレィス王国のウェール王の如き統治が理想なれば・・・
何と云う事だ。
いや、正に国王様はかなりな御歳。
しかも辺り構わず常に戦を仕掛けておいでなさる。
事実、多くの民は泣いて御座れば。
そしてマークビル卿は血筋も確かで・・・
うひゃひゃひゃひゃ。
楽しい宴で御座いますな。
マークビル卿も団長殿ももっとお飲みなされ。
飲むか、団長。
御供仕る、マークビル卿。
「あたま痛---・・・」
二日酔いだ、この馬鹿者が。
子供の癖に調子に乗って酒など飲むからこうなるのだ。
この阿呆め。
「大きな声出さないで・・・」
そうは行かぬぞ。
ヨシュア国王より召喚だ。
しかも王の私室に招かれて居る。
着衣を整えて御前に出るゆえ早く支度致せ。
なんてこった。
美味しいジュースだと思って飲んでたのがお酒とは知らなんだ。
北城弓月、異界にて人生初の二日酔い。
未成年に酒を飲ませちゃいけないんだぞ。
それにしても。
ヨシュア国王様は元気になったのか。
良かった良かった。みんな心配してたもんね。
王様の話をすると顔色が変わったし。
仮にも一国の主、慕われてるんだな。
良くわかんない人だけど。
「グレィス王国ウェール王ははどの国とも戦はせぬと仰る。おそらく王太子エルダ殿も同じご意見であろう。我がべべリアはグレィス王国の友情の盾を期待しておったがそれはどうやら敵わぬようだ。
なれば、今現在西の大国トーリアとの戦を収めなくては我が国は立ち行かぬ。
だがしかし、戦況は混戦状態と聞く。」
一息入れてヨシュア王の視線は器用に弓月を避けてガイとゼルに向けられた。
「手をお貸し願えまいか。我が方だけでなく、トーリア王国も退いて貰えるように。」
ゼルが黙ったままなのでガイが応える。
「国王に申し上げる。
よもや混戦の最中、対話が成り立つとは思われまい。つまりトーリア王国を完膚なきまでに叩けとの御指示と推察するが、ヨシュア王にはご存じであろう。
このゼラフィス・オーガスタがトーリア王国を故国としておる事を。」
思わず息を呑んだ弓月を置いて会話は続く。
「如何に他国にその身を委ねていようと、ゼラフィスの血肉は彼の国に起源している。その故国を切って捨てよと仰せあるか。」
低い声は高ぶるでもなく、荒げるでもなく淡々と流れた。
「王には人の故国を思う心がお判りにならぬか。僅か十五までとは言え親族も友もいよう、ましてゼラフィスの過去からその関わりは通常とは大きく異なる。その繋がりさえ断ち切れと云われるか。」
ぞくりと背筋が震えたのはヨシュア王だけでは無かった。
怒っている。
弓月でさえ一言も挟めぬほどの怒りがそこに有った。
「如何に下賤の身では有れど、我らはお招きを受けて参じた。目的は国交回復の一点のみ。はっきり申し上げてべべリアの尻拭いなど興味もござらぬ。バース外務大臣が着かれたならその時点で帰国いたす。」
くるりと、踵を返したガイにヨシュアが叫んだ。
「それなれば、我がべべリアの全勢力を挙げての攻勢となる!」
ぴたりと足を止めたのはゼルだった。
胡乱な眼つきのガイと、喰い入る様に見つめる弓月の前でゼルがヨシュア王を振り返った。
そのゼルに、
「ゼラフィス殿ならば御分りであろう。此度の戦では小競り合いが続いて居ったが、今は混戦、けりを着けるには近衛騎士団以外の全力を投じなくてならぬ。
幸い。
グレィス王国側に兵力を割く必要も無し。
後顧の憂いなき今、全軍を投入するのみ。」
「我らを脅されるか。」
唸る様な低い声にべべリア王国ヨシュア王は口の端を僅かにあげた。




