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ああ、良いお天気です。
練習日和と云う奴ですね。
昨日は感動の再開に思わずつられて涙してしまった。
エルフィのお母さんはすごく綺麗な人だけど。
う――――ん。
はい、先生、質問です。
耳と尻尾以外は人間にしか見えないのは何故でしょう。
へ、変化するんですか。
それはひょっとすると満月の夜?
違うんですか。ああ、普通に出来るんだ。
じゃぁ、今度エルに頼んでみよう。
楽しみだわん。
あ、はいはい。練習しに来たんです。
忘れてませんよ勿論。
それにしてもずいぶん広い場所ですね。
向こうにたくさん人がいますが何でしょう。
円周・・・・あ、演習ですか。
はい、大丈夫です。
他の人は気にしない。
ではまず火球から、参りましょう。
何だか久しぶりですね。
では行きますか。
「焔よ、此処に具現せしめよ。」
掌の上に、小さく、凝縮して・・・ヴゥゥンン・・・
そして。高く、打ち出す。
出来た。凄いぞ、高いぞ、かぎやだぞ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・ドドンッッ!!!
ああ、これはうっかりした。
既に慣れた身は三拍後に耳を塞ぐ事など知り尽くして居ったが。
彼らに告げるのを失念しておった。
おお、面白いほど右往左往しておるわ。
隊長自ら飛んで来おる・・・ほほう、あれは近衛の制服か。
これは面白い。
小煩いゼラフィスも居らぬし、弓月をけしかけて呉れるか。
何でこうなるんだろう。
良いの?ガイ。
「剣の練習だ。最近して居らなんだしな。」
そう云えば最近ゼルは稽古をつけて呉れないな。
貸してもらった練習用の剣は刃を潰してあったが重さ的には変わらない。
ガイの魔法も掛かってないけど、まぁ良いか。
ブンと一振りすると、
「剣を跳ねあげる技を習ったであろう。どこまで抜けるか試してみるが良い。」
うん、確か・・・習った。
ようし、頑張ってみましょうか。
遠慮は要らぬ、かかって参れ。
なんちゃって。
打ち合わせて刃を滑らせ、鍔元まで落としたら。
手首を捻って、躰全体で跳ねあげる。
えいやっ!
おおっ、出来た!
上手じゃん、私。
よーし、次行ってみよう。comeon、baby
ふっ、調子に乗りおって。
弓月は遊んでる心算であろうが、近衛の衆は蒼然としておるの。
隊長は蒼ざめて、なんとも酷い顔じゃ。
弓月の作った特製はちみつゆず茶を飲ませた方が良かろうか。
どちらにしろ寝込むことは確定だが。
クククッ、これはおかしい。
容赦のない事だが、頑張れ弓月。
やった、やり遂げましたぜ。
勝ち抜き一等賞だ。わ―――い。
あ、ゼル。今のみt・・・・・・・え゛っっっ・・なんでぇぇぇぇ・・・
表情を消したゼルに担がれて退場する弓月を見送ったのは、顔面蒼白の近衛部隊と、腹と口を抑えて笑いを堪えるガイだった。
いけないですか、いけなかったんですね。
はい、判りました。
でもゼル、どうしていけないのか訳を教えて。
ガイは剣の練習と云ったのに。
あ、偉い人なんですか。
近衛兵の小隊なんですね。
なんだ。
それじゃ・・・。
遠慮なんかする事無いじゃない。
王城を死守するべき近衛兵と云うならば、如何に剣豪ゼラフィス・オーガスタの手ほどきを受け、黒魔導師ガイの魔道具に護られていたとしても、たかが小娘ひとりに一小隊軒並み討死は有り得ないでしょう。
揃いもそろって情けない。
それとも、手加減せよと云うか。
わざと負けて華を持たせと云うか。
応えよ、ゼラフィス・オーガスタ。
「そこまでにしておけ、ゼルが怒るはお前を心配しての事だ。」
おお、出たな、腹黒魔導師。
誰のお蔭でゼルに説教喰らってると思ってんだ。
人を唆しておいて今更何を口清く。
ウッキ――――!
悔しいぞ!ウギャァァァァッッ!!
「仰る通りで御座る。誠に情けなき始末、申し開きも出来もうさん。」
へ。
何だ何だ、ぞろぞろと。
あいや、さっきの近衛隊の騎士様たちじゃないですか。
「井の中の蛙で御座った。立場に驕り、他人を侮った結果としてのこの惨敗。真摯に受け止め反省致せば、弓月殿。どうか我らにその鮮やかなる剣技、ご教授願いたく恥を忍んでまかり越しました。
どうか、この通り伏して、伏して御願い申し上げます。」
あ、いや、そんなに平べったくならなくても。
此方こそお願いだから、顔を上げて下さい。
え――――と。
ガタイの良い近衛騎士団長は厳つい顔を近づけて威嚇してくる。
違った、懇願してくる。
どうでも剣を教えよと懇願してくる。
御冗談でしょ。
わたしゃそんな事は出来ないさ。
私より適任が此処に居るじゃないの。
そうだよ、ゼル。貴方だよ。
何その厭そうな顔。
近衛の皆さんがこれだけ真剣に御願いしてるんだ。
男らしく腹くくって面倒見て差し上げなさい。
よしよし、上手く丸め込んだぞ。
やっぱり上達するには外からも見なきゃね。
何と云ってもゼルは私ごときじゃ本気で相手してくれないし。
対複数戦のその奥義、盗ませて戴きましょう。
ケケケ・・・・いかん嗤い方が腹黒魔導師みたくなってきた。
はっ、やばい。
紫色の眼がすっと細められると碌な事にならない。
おおお。
ナイスタイミングでノックの音が。
あ、エルのお母さんだ。
あ、額の奴隷紋が無くなって・・・・
えええええ。
マークビル卿が開放してくれたとな。
偉いぞ、マークビル卿。
good jobだぞ、マークビル卿。
褒めて遣わすぞ、マークビル卿。
では私もエルの奴隷紋を消して・・・・
はい?
いやいや、もう奴隷は要らないから。
ってかお母さんまで来られても困るから。
「ふむ。ただ解放しただけでは、再び災難に会うな。なれば・・・・早馬の後を食料を積んだ馬車が来るゆえ、それに乗せてグレィス王国に送るか。となると、魔除け代わりの弓月の紋を入れた方が良いな。」
なにその魔除けって。
失礼な。
結局、銀狼親子の額には弓月印が入っちゃった。
何が嬉しい、そこの親子。
「ああ、つい嬉しくて失念いたしました。マークビル卿からのお言付けで御座います。
今夕、歓迎の宴が開かれますので、御仕度を整えお待ちくださるようにと。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぎゃっふんだ。




