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何でしょう。

王城に入ってから立派なお部屋に案内されて。

いろんな人がやって来て。

いろんな事しようとして。

全部断ったら、呆れたような顔された。


「ねえ、クロウ。何だと思う?」

するっと出てきたのは九郎のミニマム、チビ九郎。

「ちびはお前だ。」

ふんだ。

声までかわゆくなってる癖に。

「グレィス王国とは違う。このべべリアではすべてが大仰だ。湯に浸かるにも衣服を着るにも女性は特に一人ではせん。」

何だそんな事か。

じゃあさぞかし田舎者だと思われているんだね。


九郎が嗤う。

どうして猫顔で器用に嗤う?

「ドレスは着ないのか。」

冗談でしょ、あんな窮屈そうなもの、御免蒙ります。

旅の間にガイに習った洗浄の魔法を使えば綺麗さっぱりさ。


そうそう、それよりエルのお母さんを探さなきゃ。

ちょっと九郎、見てきてくれない?

拙ければ誰かに聞くけど。

「我では向こうが脅えると思うぞ。我にはエルの匂いもついて居らぬゆえ。まして今は動かぬ方が良いであろう、発覚すれば事は大きくなるだけだ。」

そうか、それじゃ勝手に動くのは止めておこう。

何と云ってもよその国。

人さまのおうちを家探しするのはさすがに拙い。


あら、性懲りもなくノックの音が。

あ。

「・・・ゆつきさま、ゼルさまからです。」

お手紙を届けに来てくれたんだ、良い子だねエル。

横目で見ると既に九郎の姿は無い。

良し良し。

『今日からエルフィを傍に置け。下働きなら出来るそうだ。』

簡潔な事で。

でも良いのかな。

魔力に敏感って言ってたよね。

「ゆつきさまの力は僕をまもる力だとゼルさまから聞きました。」

うううう。

なんて可愛らしいんだろう。

あの二人と一匹がちっとも可愛くないから余計にキュンだよ。

護って見せましょうとも、このおねぃさんが。

任せなさい、エルフィ。

では取り敢えずお茶しましょ。

や――――ん。

眼がキラキラだ。萌えです、萌え。




「弓月はどうした。」

ゼルの部屋には既にガイも待ち構えていた。

「エルとお茶を飲んでいる。」

クロウがくくっと笑った。

「見物だったぞ、女官を片端から切って捨てた。風呂は独りで入れるし、ドレスなぞ着ないと云い切りおった。女官連中は目を白黒させて・・・くく、追い出されて行ったわ。」

思い出し笑いに耽るチビ九郎にガイも笑った。

「相当怒っていたからな、グレィス王国との差にビビる訳も無いが。」


「あまり煽るな。後が大変だ。」

常識の範疇を超えないゼルが諌めるが、ガイは気にもしていない様だった。

「私もだがゼル、お前もこの国にはいい思い出は無かろう。力任せの懐柔に腹が煮えたのを忘れた訳でもあるまい。あの弓月の力をヨシュアが望まぬと思うか。」

横に振られた顔にガイの黒い笑顔が広がった。

「護りは万全よ。後は弓月を見て魂消て貰おう。ヨシュアの間抜け面を拝めるとは実にまったく長生きはするものだな。」




大きな大きなお城の中を歩いて行く。

案内されていなければ絶対迷子になる自信が有る。

昼過ぎについて、呼ばれたのは夕刻。

それだけでも危機感が薄いのが良く判る。

それとも見栄か。


グレィス王宮の客棟と違って、此処のそれはもっと大きく華やかで煌びやかだった。

擦り込ってやつかしら。

グレィス王国の方が真面に感じるのは。

ほんっとうに無駄な金遣い。


王様の謁見の間はこれ以上ないほど凄かった。

馬鹿じゃないの。

国民の食べるものも無いくせに。

何だかふつふつと怒りが沸いてくる。

そこの金ぴかの壺ひとつ売ればかなりの人が助かるんとちゃうか。


え、なに。

奴隷の獣人は入れないだと。


・・・・・・・そこな下郎、控えるが良い。

この子は私の付き人だ、気に入らないならこのまま帰るよ。


「どうか、どうかそのままでどうぞ、弓月殿。」

何だ、マークビル卿か。

躾がなっとらんぞ。



思った通りだった。

謁見室の扉脇で待っていてのは予想がついて居たからだが。

思わず腰が引けるほど魔女殿は魔力を垂れ流している。

おそらく本人は意識もしていまいが。

怖気る程の力に中てられた、魔力に敏感な者が蒼ざめる唯中を黙って進む。

旅埃こそ落としてあるが着替えもされぬ旅姿。

マントを羽織り剣を佩き、気に喰わぬならこのまま真っ直ぐ出て行くと無言の威嚇。

身の内が震える。




『ほぉ、そこまでの力か。楽しみじゃのう。』

事前に拝謁したヨシュア様は相変わらずひどく短絡的だった。

国の力を己の力と過信する愚かさを知ろうともせず、総てを己の下に置く危うさも考えない。

それはついこの間までの我が身と同じ。

さすがに同じ祖父を持つ似た者同士の従兄よ。


如何に言葉を重ねても、世に名高い剣豪ゼラフィス・オーガスタと現存する唯一と云われる黒魔導師ガイを招聘した事実に浮かれあがっている。

まして、そのガイの愛弟子 魔女の弓月殿確保に至ってはいっそ小躍りせんばかりなのだろう。

失敗した。

完全に言い方を間違えた。


急ぎそれを伝えに行った私にガイ殿は平然と告げる。

『さて、弓月はかき回す気満々でな。そこもとは大人しく控えてあるが良かろう。』

良いのだろうか、本当に。

厭な予感しかしないと云うのは滅多に無いのだが。



そして役者が揃った。


べべリア王国、ヨシュア国王の前に膝を着いたのは。

剣豪ゼラフィス・オーガスタ。

黒魔導師ガイ。

ガイの愛弟子にして魔女の弓月。

その付き人、銀狼のエルフィ。


強張ったままのマークビル卿には礼を取ってくれたことが何よりほっとした。





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