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02

『黄金の剣』は裏通りにある。

なんでこんな処に店を出すかと思われるほど裏である。

商売っ気がまるで無い。

なのに、客はそこそこやって来る。

一つ目の不思議だ。


店長は人外だ( 弓月目線で )。

どうしても堅気な店舗経営者には見えない。

ガタイが良いし背がやたら高い。だけじゃなく、異様なほど五感が発達している。

犬並みの嗅覚、鷹並みの視覚、ウサちゃん並みの聴覚に、イケメン面。

鋭すぎる眼つきと低くて良い声をしている。唸ってなければだが。

もはやヒトの皮を被った獣にしか見えない。

何でヒトに化けてるんだか。

二つ目の不思議だ。


ヲタ・・・長瀬君は弓月自身と大差ない身長、160cm前後。

黒縁メガネのガラスが常に反射していてどんな眼だか判らない。

職業は魔導師。だそうだ。

在庫管理でPC入力に勤しむよりも、本職の魔法使いに力を入れたらどうかと言ったら鼻で嗤われた。

使いっぱと一緒にするなと云う事らしいが。

そんなに凄い魔法を使えるならパソコン要らないよね。

これが三つ目の不思議。


『黄金の剣』の営業時間は10:00から19:00。

30分休憩を二回取って、時給は900円。

つまり一日働いて7200円×月8回=57600円也。

ええ、頑張りますとも。

例え人外な店長とヲタクな魔導師に挟まれていても。


ちなみに親が呉れる小遣いは消えた。

いったいどこへ行ったのでしょう。



憧れの長い長い夏休みがやって来た。

高校時代の仲良し三人組で企画した北海道旅行のために頑張って貯めていたお給料でワンピを買った。

つまり、北海道は遠かったと云う事。

友達は二人で行ったらしい。

親の許可が下りなかった一人に遠慮してこっそり行ったらしい。

こんな時は大人しくて素直、反抗期も大して問題なく過ぎた性格がうらめしや。

どうしよう。

いつか溜りに溜まったうっぷんが大噴火したら。

しそうな予感なら有る。


人外店長がニヤニヤ笑って良い声で囁く。

「どうした。まだお子様扱いか。」

北海道のお土産まで聞いて居たから完全に自爆なんだけどね。

悔し紛れに魔導師君をいたぶってみた。

「師匠、うちの親に子離れの魔法をかけて下され。」

いつの間にか弟子にされた身としてはこれぐらい御願いしても良いでしょ。

帰ってきた言葉は、

「そんな些末なことに( 貴重な魔力を)使えるか、たわけが。」

たわけ。

良いよ。あんたの弟子はたわけさ。

けっ。



「いらっさいましー。」

「なんだ、やさぐれてるな。」

あ、しまった。

久し振りの高ポイントマンだ。

バイトを始めたころはよく来ていたお兄さんはメチャかっこいい。

どう云う訳か人外と魔導師は気に入らないらしいが、今はそれさえナイスなお客様様だ。

ちょっとハーフっぽい茶髪がゆるふわに縺れていて素敵だ。

それを云うと、

「弓月ちゃんの黒髪の方が良いよ。滅多にないでしょ、そのクリクリ癖毛。」

云わないで欲しいな。

黒髪はストレート、ツルピカの天使の輪がベストでしょ。

三つ編みにしてもやたらぶっといおさげが二本。

可愛げ無いよね。

「そんなことないよ、解いて見たら?」

いやいやいや。

そこらじゅうに絡まるだけだから。


「何してる、冷やかしなら返れ。」

うわっ。人外が冷気纏う声と表情変えずに威嚇してる。

お客様ですが、こちらは。

茶髪ゆるふわお兄さんは苦笑いを残して帰ってしまった。

「店長。」

使用人の立場は承知してますが一言云わねば。

「此処はお店で、お客様は「うるさい。」・・・」

「お客様は神さ「黙れ。」・・・」

何なんだ、この人外が。

さすがに剥れていたら魔導師君が嗤う。

普通に笑え、普通に。

「あれはトーリア王国の聖騎士だ、譲る気は無いとの意思表示。良かったな。」

そうか、良かったのか良くないだろ。

そう云えば温暖化による異常気象で、猛暑日が続いている。

うちの在庫管理が壊れたら誰が見るんだ、この店。

頼むから頭冷やしてくれ。




やっと暑さも収まり風が気持ち良くなってきた。

人外店長も、ヲタク魔導師君も夏を乗り切ったみたいでほっとした。

「お疲れ、今日はこれだ。」

「有難う御座いま・・・・す?」

手の上に乗せられた小汚い皮袋を眺める。

うーん。何時にないレアアイテム。


バイトを始めた初日から驚いたのは、日々何かを呉れることだった。

初日は完全に引いた。

『これを持って行け。』

綺麗な金色の鞘に納まった短剣は確かに素晴らしい物だったが。

まさかの現物支給???

とか、思ったのは即座に撤回された。

『これは店からの感謝の気持ちだ。給料はきちんと出す。』

戴きましょう。


以来それが習慣となった。

店の習慣だろうが、村の掟だろうが、事務所の方針だろうが。

取り敢えず戴いて自室の段ボールに一直線。

面白いと思ったのは受け取りのサインをする事だった。

出されるのは常に羽ペン・・・・・?

赤茶色のインク・・・・・・・・・?

しかも、魔導師君が滑らせて寄越した紙に書かれた文字は。

何語か判らないのたくった文字。

『弓月と書いてある。』

しかも貰った物品に直接書けという。

良いでしょう。

書きますよ。

この際、恥だろうが、背中だろうが、書きまくってやろうでは有りませんか。




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