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女神様はべべリア王国のご招待を受けて旅立たれた。

我がグレィス王国の危機を、天災にも等しい国難を、見事な手腕で救われた女神様は。

城下の集落では女神様の加護が無くなる、と酷く心配しているが。

確かにそれは判る。


ほんの数日前に聖騎士伯ゼラフィス様と、黒魔導師ガイ様に伴われてグレィス王国にやって来られた弓月様はどこか幼く愛らしいお方であった。

考えてみれば不思議な事だ。

聖騎士伯ゼラフィス様はグレィス王国の至宝と云われる剣豪で、常に王宮内外でそのお姿をお見かけするが、黒魔導師ガイ様はおよそ人前には現れず、銀髪紫眼に黒ローブだと云う話しか聞かない。

姿を見たという者も多くは無いほど。

実際、私も初めてお目にかかったし。


噂では魔導師の魔力は人と関わると発散してしまうと云う。

だが、

弓月様が来られてからガイ様は常にお傍について居られる。

まるで護る様に。

もちろんガイ様だけでなくゼラフィス様もだが。

そしてエルダ様も弓月様を大層お気に召したようだ。

弓月様を最初に見た時、エルダ様の奥方様になられる御方かと思ったほどだ。

それが大きな間違いと気付いたのは大して時間は掛らなかった。


ふつか。

僅かふつかで思いさらされた。

眼の前で繰り広げられる信じられない光景に、このままではいけないとうっかり口を出したが運の尽き。

その後の怒涛の展開に翻弄されて、気が付けばいつの間にか異界の料理を作り続けていた。

まる三日間。

満足に寝る時間も無いまま。

やっと仮眠を取ればとんでもない爆音に叩き起こされ、厨房で働くコックや手伝いの者に泣きつかれ、衝撃で散らかった片づけをして、再び異界の料理を作り・・・・・その繰り返しだった、この三日。


ようやく平和な日常が戻ってくる。

そう思った。

天に感謝の祈りをささげる耳に入った言葉は、


『帰って来るまでに教えた料理マスターしておいてね。』


何を教えて戴いたのか判らないのは我が身の不徳の致す処だろうが。


・・・・・・・・・・・・・・・・女神よ 私に死ねと云われるか。





どうやら南に向かっているらしい。

魔道具のお蔭で暑さ寒さは感じないけど、グレィス王国は北国だったんだ。

少し西寄りに南下して行くと野菜の畑から花畑に変わった。

町や村は多くない。

だから当然、野営が主になる。

マークビル卿の従者は確かに美味しいご飯を作ってくれたが。


飽きたと云っては悪いから言わないでおこう。



七日目に国境を超えると起伏の緩やかなグレィス王国とははっきり違ってくるのが判る。

山は山らしく、谷は深く・・・ああ山脈が有るんですか。

その合間を伝う一本の細い道が唯一の街道なんだ。

此処を馬車で行くの。

凄く傍迷惑じゃない。

お供の人が苦労してるし。


ねぇ、ガイ。

こんなに遠いし結構険しい道なのに戦とか有りうるの。

有るんだ。へえええ、何でしょその熱心さ。

他にあるよね、やる事なんか。

よその国を攻めるなんて馬鹿げた事をやってないで貿易でもすれば良いのに。

キャラバン組んで、ようは行商。

有る物を無い処に運べばみんな嬉しい、楽しい、お金にもなる。

だってほら、グレィス王国には胡椒が無かったでしょ。


あっあ―――。

ガイってば相当長生きしてるのに貿易とか知らないの?

それって人としてどうかと思うけど。

左様ですか。

人じゃ無かったですか。

うんうん納得でs

痛いでひゅ・・・・・

危ないでひゅよ、馬に乗っひゃままひゃと。


何だかだんだん引っ張る力が強くなってくみたい。

きっと魔力が満杯状態なんだな。

だからどこかで発散したいんだろうけど。

たまにはゼルでも良いんじゃない。

そりゃぁゼルの堅そうな顔面よりは柔柔な私のほっぺの方が良いでしょうけど。

私を甚振った後のいい笑顔がチョーむかつきます。



あ、久しぶりの街だ。

小さいけど山に張り付くように石造りの街並みが広がっている。

おお、文明圏に入ったぞ。

う――ん。

これは確かに同じ国とは言えない。

完全に異国でしょ。

山あいの小さな街なのに開けた土地が少ないせいかどの建物も三階以上の高さがある。

それだけの技術が有るって事ですね。

グレィス王国は町は大概二階建て。

宿屋でさえ三階建ては数えるほどだった。


石畳の道をポクポク登ってゆくと・・・お城?

へえええ、領主様のお館でしたか。

知っている唯一のお城より僅かに小さいけど実に堂々とした館が在った。



「ようこそ、グレィス王国のお使者方。べべリア王国、北の領フィランドの街へ。」

北の領主、ドナルド・マクガバン伯爵は禿げ・・・・頭髪の寂しい代わりにお肉が余計に付いた年配の御仁だった。





マークビル卿とマクガバン伯爵は内密の話があるようで、晩餐が済むとそそくさと姿を消した。

まぁ当然だろう。

弓月の魔力に知識、更に相手を舐めくさった言動は顔だけ見る分には想像もつかない。

グレィス王国に滞在中に手紙を書き送っただろうが、直接状況説明はするべきだと俺でも思う。


さて、俺たちも動くか。

弓月の部屋をノックするといかにも怪訝な顔が現れた。


安心しろ。

お前のロールキャベツを狙って来たのではない。

だいたい今喰ったばかりだろう。

部屋を取り換えるだけだ。

≪皮袋出木杉君≫を持って俺の部屋で休め。

いざと云う時はクロウを出せ。


弓月を追い出して俺は扉の陰に長椅子を移し、そこに横になった。

俺の部屋にはガイが障壁を施してある。

俺たちは何が起こるか知っている訳では無い。


万万が一にも弓月の身に害が及ばぬように。

あの笑顔が消えぬように。

それだけを考えての行動だった。






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