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『ロリア、この計画で動く。力を貸せ。バースもだ。

何としてもこのグレィス王国を護って皆で生きて行こう。』


クロウの情報を弓月が開示してもエルダ様はロリア内大臣とバース外務大臣を切り捨てることはしなかった。

その度量の広さは、さすがウェール国王の後継と感服した。

情報を流したとはいえそれは最低限。

黒魔導師ガイが何やらやったようだと言葉尻を濁したし、もとよりロリア自身もべべリア王国に惹かれている訳では無い。

これを国家事業として多少なりとも儲け、借財を返すことになった。

泣いて詫びたロリアにガイも太っ腹に許した。

どうやらデリデリ本舗のローストビーフサンドで特大に機嫌が良くなっていたようだ。


人の意思の疎通が図れれば後は実行あるのみ。

弓月の大雑把な計画を煮詰めるのに僅か一時間。

手配した中で一番大変だったのは、やはり料理長だっただろうが。


『同じには無理、近い処まで持って行って。』

向こうに有る香辛料は此処には無い。

だから仕方が無いとは思う。

だが弓月の言葉はいろいろ省略しすぎだ。

第一次襲撃時に心身ともに多大なるダメージを被り未だ立ち直っていない料理長はそれでも雄々しく立ち向かった。と、思う。俺は。

何より幸いだったのが弓月のアーティファクト(弓月曰く皮袋出木杉君)から多大なるサンプルが出現した事だろう。


奴は給料をいったい何に使っていたんだ。

バイトは女の子らしく衣服や装飾品や遊行の為の資金つくりと云って居た筈だが。

出てくるのは食い物ばかりじゃないか。

だいたいこの城に中に居ても用意されているドレスも着ないで相変わらずの皮鎧にマントでうろつき回っている。

魔道具系は楽チンで良いとは世に云う女子とは一線を画しすぎだろう。

例え何処の世界であってもだ。


まぁそれでも今回ばかりは役に立った。

弓月の食い意地がグレィス王国を救ったとは如何に何でも情けないが。



サンド類から始まってパスタグラタンたこ焼きに、サラダや飲み物その他もろもろ。

デザート類に至っては店が開けるほど。

もう一度云う。

店が開ける程、出てきた。


『まだ有るだろう。』


ガイ、その眼は止めろ。

このそうとは思えない、実は頑固な娘が、お前に脅されたぐらいで素直に出すと思うか?

へらへらと笑って誤魔化す弓月にはどんな脅しも効かない。


農産大臣のカリリンは王宮の周囲にある畑からあらゆる野菜を集め、畜産大臣のクロスが牛豚鶏と卵を調理場へと運び込む。

サンプルからメニューを決めて、弓月の誰が聞いても適当だと思う作り方から想像し、試行錯誤しながら出来上がったデリデリ本舗の足元にも及ばないローストビーフサンドと野菜サラダ。

コンソメもどきのスープにフライドポテト。

幸いマヨネーズなる物品を≪皮袋出木杉君≫から発見した弓月は自慢げに高々とそれを掲げる。


『どうせ容れたまま忘れていたのだろう。』

ガイの台詞は完無視だった。

デザートはプリンとチーズケーキで迷ったが、

『これ美味しい。』

弓月の一言で、戦い抜いた料理長の苦労が実を結んだ。

彼の努力に心の中で酒杯を揚げよう。





そして、べべリア王国、魔導伯爵マークビル卿に弓月が笑う。


「チェックメイト。」


なぁ弓月、調子に乗るな。

仮にも相手は大国の使者だぞ。



カタッとマークビル卿が席を立つ。

真顔で脚を踏み出すとゆっくり弓月に近づいた。


「ご心配あるな、おふた方。」

マークビル卿の言葉に初めて自分の後ろにゼルが立ち、ガイが控えている事に気付いた。

物理攻撃も魔法攻撃も万全の護りが敷かれている。

だが、マークビル卿は弓月の前で膝を着いた。


大国べべリアの使者、おそらく自国の王以外の者に膝など着かないであろう男が礼を取った。

椅子に掛けたままの弓月に。

燦々と輝く陽光が満ちる食堂は、時間が止まったように深閑と静まり返っていた。


「魔女殿。

戦はこの身に変えても止めて見せよう。

その代わりに一つだけ願いを叶えて戴きたい。

このマークビルの御招待をお受け願えないだろうか。」

「良いですよ、遊びに行くだけなら。あ、この二人も一緒ね。」


あらエルダ様、口が開けっ放しですよ。





この魔女だ。

何処から降って湧いたのかは判らぬが、この魔女が全ての鍵を握っている。

それは瞬間の理解であり判断であった。

魔力を込めずに願い出る。

おそらく迂闊に力を使えばガイが干渉するであろうし、この魔女も黙っては居まい。

だからこそ泥臭く実直に願った。


そして・・・勝った。





「常々お前は馬鹿だと思っていたが、これほど馬鹿とは思わなんだぞ。

何の真似だ、あれは。べべリアを回避するために奔走してきた今までが全て水泡に帰したではないか。」

「まったくだ。俺たちはお前もガイもべべリアに渡す気は無いぞ。」

気炎を上げるガイとエルダ様を留めたのはウェール国王様だった。

「そう怒るでない。弓月には何か考えが有ろう。」


うん、さすが国王様。

考えと云うほどでも無いですが、主に直感ですかね。

マークビル卿は戦を止めると云いましたよ。

ならばそれを見届ける必要はあるでしょ。

向こうの王様の考え方を知るいい機会だし。

大国と云われるドドリア国の内情も知・・・・・

痛いじゃないのゼル!

何でぶつの。


あ、べべリアね。

ええええ、これから間違えたら毎回ぶたれるの?

何で今更。



決まっているだろう。

これから赴く国の名を間違えるなど有り得ん。

ああ、そうだ。

俺はお前が何処に行こうとついて行く。

お前が為すことを成せる様に全力で護ろう。

お前は後ろなど気にせず、前だけ向いて行くが良い。






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