12
ウェール国王様の下に集まった顔ぶれは。
エルダ様を筆頭に、
内務大臣のロリア様。
外務大臣のバース様。
農産大臣のカリリン様。
畜産大臣のクロス様に、
聖騎士伯ゼラフィス・オーガスタと黒魔導師ガイ。
おまけが私。
いらっしゃったんですね、大臣職。
しかも微妙なネーミング。
農産、畜産って何処かの大学みたい。
北海道とかの。
行った事無いけど。
あら、そういえば景色は確かに北海道してたか。
行けなかったけど。
それにしても、皆さん質素な衣服を着用なさってますね。
国王様はともかく、綿や毛織物に革のベルト。
ファンタジーな世界では絹や毛皮がバンバン出てくと云うのに。
どう見ても農閑期に集った農協組合員でしょう。
明るい農村か森林組合です。
ゼルに至っては聖騎士伯どころか旅の傭兵です。
豊かじゃ無いと云うか、はっきり本当に貧乏なんですね。
こうしてみると一般国民の方が豊かみたい。
そですよね。
王宮は維持費が掛かりますもんね。
だからこその国家事業を考えなくては。
えーと、それで何でしたっけ?
ああ、ボボリア国の使者が来るんでしたね。
何しに?
「約一年前から毎月のように恭順するよう親書が届いていたのだが、とうとう使者が直接来ることになった。のらくら躱していたがさすがに堪り兼ねたのだろう。」
ため息交じりのエルダ様の言葉に内大臣のロリア様が蒼い顔を上げる。
「いかに致しましょう。」
「戦は出来ませんぞ! 叩き潰されるのが眼に見えている!!」
大きな声で怒鳴ったのは外務大臣のバース様。
「相手は何と云っても大国、大人しく恭順をされた方が民の為ですっ。」
あれれ。
外務大臣ってそんなに素直で良いのか?
普通は丁々発止と渡り合うのがお仕事なはずでしょ。
エルダ様、頷いてどうするよ。
しかも農産、畜産の二人は下を向いたり横を向いたりで会議に加わる様子も無いし。
何だかおかしな会議ですねえ。
さっきからチラチラとエルダ様が見てるけど。
今日は止めておきます。
ですから先に進んでください。
エルダ様のお部屋に呼ばれたのはゼルとガイと私。
椅子に掛けた途端。
「なんで発言しなかった?」
如何にも機嫌の悪いエルダ様に応えたのはガイだった。
「どうも私たちの考え方は直情過ぎる様に思う。此処は弓月の思う通りに任せた方が良かろう。」
確かに。
あの場では言えなかった事を今こそ云おう。
会議の内容を聞く限り、エルダ様任せのロリア内大臣はともかく、相手が大国だからと云う理由で恭順一本やりのバース外務大臣はおかしいでしょう。
少なくとも一国を背負う外務大臣ならば、まずは自国の利益を計るもの。
表向きは民の為と云いながらも、その他を考慮にも入れない思考はこれ以上なくおかしいです。
エルダ様は静かに穏やかに今のまま暮らして行ければ良いと仰った。
その考えはグレィス王国の皆が同じ意見ですか。
もっと発展してお金もがっぽがっぽと欲しい人も居るんじゃないですか。
考え込んだエルダ様が応えるより早く、耳に届いた低い声。
『我に考えが有る、適当に流すが良い。』
了解、クロウ。
あ。
エルダ様、ごめんなさい。眠くなっちゃった。
『阿呆。馬鹿丸出しではないか。』
ううううぅぅぅぅっっ・・・
こんなにはっきり言われた事は無い。
しかも待ち構えていた様な間髪入れずの見事な突っ込み。
確かに馬鹿丸出しだった。
うっかり眠いとか言ったせいで晩御飯抜き状態。
実情を探りに超小型猫になったクロウが出かけてから自室でしばし呆然としていたが、仕方が無い。
高級品だし数も多く無いから手を付けなかった取って置きをば、いざ此処で。
今出さずして何時出す。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
云いたいけど止めておこう。
素敵な四次元ポケット『皮袋出木杉君』から取り出したのは。
デリデリ本舗のローストビーフサンド。
モモンガ堂のカフェラテ。
デザートはチーズケーキ。大好きなモーモー印の最高級品。
うう、よだれが・・・見ただけでよだれが・・・
なのに、何故ここでノックの音が・・・
「まったく抜けておる。時々思いっきり馬鹿に見える。」
客棟に向かいながらガイがプンプン怒っている。
「せっかく話しやすいように振ってやったと云うにあの馬鹿者は何故途中で止める。しかもやるならばもっと旨く躱せばよいものを云うに事欠いて眠いだと?何処をどう見ても眠い顔ではないしあのがっつき大喰らい腹減らしが夕食も喰わずに寝るなどいったい何処の誰が信じると云うのだ。まったくもって馬鹿者だ。とんでもない大虚けだ。信じられない阿呆小娘だ。」
まぁ確かにその通りだ。が。
「そう怒ってやるな。ああ云う性格だから良い事もある。」
綺麗な紫の眼を光らせてフーフーと毛を逆立てんばかりのガイが振り返った。
「呑気なことを云う。明日にはべべリアの使者が来るのだぞ。
何一つ方針が決まってないと云うにいったいどうすれば良いのか。」
カラリとゼルが笑った。
「それを聞きに行くのだろう。飯まで持って。」
ゼルの手には大きな盆が乗っていた。
弓月が退出した後、二人は気を削がれたエルダ様に取り繕って部屋を後にした。
向かったのは厨房。
今日二度目の奇襲を受けた料理長は真っ青になったが、そこに弓月が居ないことでやっと顔色が戻る。
信号機のような顔色の変化を見るとゼルは気の毒になったが、とりあえず簡単に食べれるものを用意させて弓月の部屋に向かう途中だったのだ。
罵倒しながらも此処まで面倒見てやるガイもなかなか厄介な性格だろう。
何と云っても可愛い弟子だからな。と、顔にも出さずに弓月の部屋をノックする背中を見ていた。
「・・・お、お、お前と云う奴は・・・眠いと云ったではないか!何ゆえ寝て居らん!!
呑気に飯など喰いおって、この馬鹿者が!!!!!」
死者も飛び起きる程の罵声が響き渡った。