10
「べべリア国軍はおよそ十万、対して我がグレィス王国は二万。
内訳はべべリアが歩兵七万に騎馬が二万、その他一万。
グレィス王国は歩兵一万と騎馬が一万。
魔術師軍に至ってはべべリアは五百、我がグレィスは五十。
ざっとこんな処だな。」
エルダ様の出した数字にくらくらしてきた。
彼我の戦力に差が有り過ぎてもはや笑いごとだ。
「情報の出所は?」
妙に冷静なゼルの問いにエルダ様はうーんと唸った。
「今のところ解かっていない。この数年は王城で新規採用は無いし。」
「スパイの入り込んだ形跡も無いか。」
エルダ様とゼルの会話にくらくらしていた頭を切り替える。
他にも在るでしょ。探す処。
入った人じゃなく出て行った人。
土地や家屋、対人関係や取引でもめ事を起こした人。
不本意な裁定を受けて納得してない人。
性格も考慮に入れないとね。
短気な人はうっかり洩らす。
執念深い人は計画的に洩らす。
自分が一番な人は嫉んで洩らす。
後はババリア国に縁の深い人も。
親戚や友人関係、グレィス王国がなくても困らない人。
外因だけじゃなく、内因も考慮に入れて。
範囲は広い処から徐々に絞って行かないとね。
表向きは今まで通りの捜査をしつつ幅を広げて見ましょう。
あらエルダ様、なんてお顔ですか。
お口が開いてるとお間抜けさんですよ。
ところでガイはグレィス王国が無くなったらどうする心算ですか?
え。
縁起が悪い?
いま此処で縁起かついでどうするんですか。
向こうの最終目的がガイなら、ガイ自身が武器になるでしょう。
これだけの兵力差なら何したって大丈夫。
気に入らなきゃ山に籠るとか、天岩戸に籠るとか、異界の雑貨屋に籠るとか。
向こうが『御免なさい』っていう切り札を探しなさいよ。
それで、最終ボーダーラインはどの辺りでしょうか。
併呑されては意味ないですね。
一国として堂々と渡り合った方が良いと思います。
そのためには事業です。
ウェール王国の目玉となる事業が必要です。
他国には無い物、此処だけの物を考えて下さい。
国家レベルで利益を出せれば非常に強いです。
得意分野の農業と牧畜の数字を出してください。
その間、少々休憩と云う事で。
「これは何だ。」
如何にも不審そうなエルダ様に、ガイが黙って食えと偉そうに言っている。
仕方ないよね。
プリンなんて初めて食べるんだから。
ガイだって最初は胡散臭そうにかき混ぜていたじゃない。
ゼルは残りの数が心配ですか。
あと二十個は入ってますよ。
何しろ買い占めましたから。
このモーモー印の焼きプリンが何と云っても一番美味しいんです。
新鮮で濃いミルクと取り立て卵とお砂糖の見事なコラボレート。
これこそまさしく、good jobです。
思わず指を立ててしまいます。
もちろん、親指。
え、お気に入りましたか。エルダ様。
お代りは駄目です、一日一個にしてください。
こっちでは売ってませんから。
・・・・・・・・・・・・・・・・・あら?
「プリを作るぞ!!」
「プリンです。」
「そう、それだ。そのプルンを作れば売れる。産業になる。」
「食品加工です。」
「何でも良い。プルンがウェール王国を救うんだ!!!」
「・・・・・・・・・・・・だから、プリンだって。」
良いのか? これで。
良いのだ。 これで。
クロウが宥めたせいか今日の弓月は元気を取り戻し・・・よりパワフルになっていた。
あれほど格好良く決めた昨夜のゼルが気の毒になる。
もっとも弓月の多角的な見解はこの田舎王国には無かったもので、エルダ様さえひどく驚かれていた。
今にして思えば彼の地の生活は非常に有意義だった。
もっと学ぶべきことは有っただろうに、私も視野が狭くなって居たのだろう。
致し方あるまい、図らずも終の棲家と決めた心優しき地の人々を苦しませる原因となったのだ。
この八か月は血を吐く思いで生きて来たのだから・・・
だが、今からでも遅くは無い。
さあ、弓月。
プリンを作るのだ。
それでこの弱小田舎王国も大国と渡り合えるだろう。
え、知りませんよ、プリン作った事無いもん。
て、云うか。
お料理知らないし。
えええええええええええっっっっ!!!! 無理!
だからお師匠、無理だって!!
そんな怖い顔したって、無理ですぅぅぅ・・・