直近の予定
2人は互いに顔を見合わせ、小さく笑う。手を離して、また歩を進める。
ラフィは腕を組んだ。少しだけ考える素振りを見せ、口を開く。
「……今朝の事なんだけどさ。」
トルクは顔を横に向けた。ラフィの横顔を眺める。ラフィも、トルクの方へと正面を向けた。
「リトには言ってないよな?」
「今朝の事?」
トルクは顎に指を添えた。記憶を辿り、朝の市場でラフィに会った事を思い出す。
「……ああ。別に言ってないよ。」
言ってはまずい事なのか、と首を傾げた。ラフィはほっと息を吐く。言い訳のように付け加えた。
「いや、あいつってここの関係者全員と面識あるだろ? まあ、変な事言いふらすとは思わないけどさ。」
「ふーん、そういう意味でか。」
顔の向きを前方に戻してトルクは鼻からふー、と息を流す。
廊下の高い位置にある窓から、傾いてきた光が入っている。反対側の壁にその光と影が映っている。その色で、外もだんだんと夕刻に近くなってきている事が伺えた。
ラフィはポンと手を打った。
「そうそう、今度祭りがあるだろ?」
廊下の壁に描かれた模様を目で追っていたトルクはそのまま気のない返事をする。
「へ、祭り?」
ラフィは苦笑した。トルクの視線の先へと回り込む。
「おいおい。王の誕生日だよ。城では儀式的な祭礼だけど、街ではただの祭りになるだろ。」
トルクはまた顎に手を当てた。
「……あ。あー、そういえばそんな話があったな。」
考えているうちに、指先が口の上に乗る。ちらっとラフィを見た。ラフィは何かを含むような、にやりとした笑みを浮かべている。ゆっくりと、口を開いた。
「その祭りまでに。南の遺跡に行ってくるという話があるらしい。」
トルクは手を下ろす。無造作に腕をぷらぷらと揺らした。
「へえ?」
「精霊に関する昔の遺跡らしくてな。トルク、お前興味ないか?」
話している内に、廊下の突き当たりに辿り着く。金属製の縁で覆われた扉が閉まっている。精霊宮の正面玄関側へ通じる廊下と繋がる扉である。ラフィはその取っ手に手をかけた。金属が擦れてキシシと微かな音を立てる。
先に扉を潜りながら、ラフィはぴっとトルクを指差した。
「お前の事、推薦しといたから。」
「へ?」