遅い昼食
食堂の扉が開いた。入ってきたのはラフィだった。
「んっ? なんでトルクがいるんだ?」
トルクは片手を上げた。口の中の物を飲み下して、答える。
「食事中。」
「いや、今食事の時間じゃないだろ。」
後ろ手に扉を閉めつつ、ラフィは首を傾げた。トルクは苦笑する。
「その時間に来るのを忘れてたんだ。あ、悪い。ちょうど食べてしまった。ラフィの分ないや。」
自分の前の、空になった皿に目を落とした。ぷっ、とリトが吹き出した。口元を手で覆うが、頬が笑っている。
ラフィは手の平をトルクに見せた。
「いや、俺は食べたから。今は別にいい。うまかったよ。」
切れ長の目が、すっと動く。トルクからリトへと視線が移動した。
「リト、親父さんは奥か?」
尋ねられて、リトは両手を下ろす。
「父さん? うん、奥で料理してるよ。」
顔を調理場へと向けて示した。特に目立った音は聞こえないが、一応居るようだ。
「そうか、じゃあ持っていくか。手紙が来てたんでね。」
リトに視点を留めたまま、奥へと移動する。奥へ入る直前にちらりとトルクを見た。さっと手を挙げて入っていく。
トルクはリトと顔を見合わせた。肩の力を抜き、席を立つ。
「食べ終わったし、部屋に戻るかな。ごちそうさま、リト。」
リトは首を傾げた。
「どういたしまして。夕飯、食べれる? こんな時間に食べちゃったけど。」
尋ねられて、トルクは自分の腹を撫でる。口の端をぺろりと舐めた。先ほど食べた包み焼きの、具の味が残っていた。
「ん? んー、まぁ入るかな。そんなに量なかったし。」
それじゃ、と手を軽く振って食堂を出る。リトも頷いて、手を振った。
食堂と精霊宮を繋ぐ廊下を歩いていると、後ろから声がかかった。
「おーい。トルク。」
ラフィが駆け足で手を挙げている。トルクは立ち止まり、ラフィが追いつくのを待った。
「どうした、ラフィ?」
歩調を揃えて、再び歩く。
「まあ、用事ってほどでもないんだが。今、暇か?」
軽く顔を覗き込むように、ラフィはトルクに尋ねた。トルクは腕を組んでみる。
「そうだなー、特に何もないよ? ラフィの仕事は?」
ラフィは自分の首の後ろに掌をあて、頭を左右に揺らした。
「さっきので、今日の分は終わり。」
「そっか。おつかれさん。」
トルクはラフィに手を差し出す。一度立ち止まり、握手を交わした。