新しい友人 o
さわさわと、風が流れた。木々の葉が擦れ、囁きが漏れる。
「ル=トゥ……さん?」
トルクが名前を口の中で繰り返してみると、ル=トゥは頷いた。
「ええ、言いにくいかもしれませんがそのまま呼んでもらえたら。」
トルクの後ろにある祭壇に視線を移す。じっと見て、おやっと口を開いた。
「へえ? トルクはここの精霊に気に入られてるんですね。」
「えっ?」
驚いて、トルクは後ろを振り返る。サクサクとル=トゥは足を進め、トルクと並んだ。
「精霊が、楽しそうですもん。」
トルクはル=トゥの横顔を見た。
「ル=トゥは精霊が見えるんですか?」
ル=トゥも顔をトルクに向ける。
「ええ。精霊種なんで。普段こちらにいない精霊が、わざわざ顔を見に来るなんて。そうないと思いますよ?」
くるりと体を回し、来た方へと戻り始めた。トルクも駆け足気味に、後を追う。
「ちょ、ちょっと待って。詳しく聞きたい、教えてください。」
ル=トゥは一旦足を止めた。祭壇を振り返り、トルクを待つ。トルクももう一度祭壇を見て、ル=トゥとその場を後にした。
トルクにとって、精霊種というのは初耳だった。
人間でも精霊でもなく、かといって妖精でもない。それらの間くらいの存在ではないか、という事だった。
妖精や精霊は元々、こちらの世界にいない。いわゆる精霊界というこちらの物質的な世界とは理の異なる世界がある。精霊界とこちらの世界は重なっていたり外れていたりしていて、重なっているところで妖精や精霊は行き来ができるのだという。
精霊種はその重なりを見る事ができても、行き来はできない。こちらの世界で生まれたからだという事だ。ル=トゥはラカラの森に集まった力の中で生まれ、ずっとここに居るらしい。
森の出口まで来ても話しを止めがたく、しばらく立ち話をしていた。会話の途切れた所で、トルクは切り出した。
「あの、ぜひまたル=トゥに会いたいんですが。」
軽く目を開いてから、ル=トゥは小さく笑う。
「ええ、構いません。あちらの方に家があります。よろしければ遊びに来てください。」
すっと指を伸ばし、森の中の方を指し示した。