初対面
しばらく妖精の飛んでいった方向を眺めていた。森の木々が重なり、どこへ行ってしまったのか窺い知る事はできそうにない。もとより、後を追うつもりもなかったが。
トルクは祭壇に顔を向け直した。
特に予定のない休みで天気の良い時、祭壇を見に来る。休みでない時にも、たまに掃除兼見回りの当番になっている時にも来る。トルクにとって、精霊宮の祭壇よりはこちらの祭壇の方が落ち着くような気がした。相性なのだろうか。炎の精霊よりは、大地の精霊の方が気が合うのかも知れない。
手前まで近寄り、片膝を立てて腰を落とす。祭壇には、気になるほどの痛みや汚れは見当たらない。精霊の力が流れているのか、時折祭壇の上に空気が揺らいで流れてゆくのが見える。
先ほどの妖精が触れたのを真似て、咲いている花にそっと触れてみた。それから、立ち上がる。一度深呼吸をして、来た道を戻る事にした。
足を出しかけて、動きを止めた。
「あれ、先客がいた。こんにちは。」
道の横からひょいと出てきた人影が、トルクに軽く頭を下げる。
「ど、どうも。」
正直、他に人が来るとは思っておらずトルクは慌ててお辞儀をした。
森の木々や草に似た緑色の長い髪に、ほっそりとした体つき。顔の横、耳の前で一筋の髪を三つ編みにしている。女性のようだ。
一見、普通の人間のようだがトルクは首を傾げた。相手も頭を傾けている。指を一本立てて、顎に添えた。
「んん、街の人ですね。ここに来ているって事は、精霊宮の人?」
尋ねられて、トルクは頷く。それから相手の耳が普通とは違っている事に気付いた。上に長く、尖っている。
「そうです。精霊術士の、トルクって言います。あなたは?」
相手の気配が、妖精や精霊に似ているとも気付いた。
「私は、そうですね、ル=トゥです。この森に住んでます。」
ル=トゥはきゅっと口元を綻ばせて、また顔を傾ける。その動きに合わせて、髪が揺れた。
まだ背景が書き切れていないというか、考えていないというか。