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青石の精霊術士  作者: 下町
本編
43/46

ひとまずの、決断

 翌朝、廊下掃除の終わったトルクは事務係の部屋の扉を叩いた。


 応接用の机の前で、事務係のロントは腕を組む。一呼吸の間を置いて、口を開いた。

「……そうか。」

一度頷き、続ける。

「出発は、祭の後でも良いか? それまでには紹介状も用意しておこう。」

引き締めていたトルクの表情が緩む。ぺこりと頭を下げた。

「はい。よろしくお願いします。」

ゆっくりと、顔を上げる。

 西の街の精霊宮に行きたいと告げるのに、予想外に緊張した。息を吐いて、体に力が入っていた事に改めて気付いた。

 ロントは苦笑する。

「目前の祭が片付かないと、落ち着かなくてな。準備も手伝って欲しい。」

組んでいた腕を解き、肩を竦めた。トルクは小さく笑う。

「あ、それはもちろんです。こちらに居るうちは、ここの仕事をやりますよ。」

ロントは腰を浮かせた。机越しに手を伸ばして、ぽんとトルクの肩を叩いた。

「……祭が始まったら、存分に楽しむと良い。」

穏やかな笑みで、トルクを見ている。トルクは一度、しっかりと頷いた。


 事務係の部屋を出て、食堂へと向かう。

 まだ昼食には早いが、食堂は賑わっていた。トルクと同じ従位と、その上に当たる中位の精霊術士が集まっている。それぞれに祭礼用の衣装や新しい肩当てを手にし、体に合わせていた。

 食堂の扉が開いても、特に気に留める者はいない。トルクはカウンターへと足を向けた。水入れを手に取り、コップに水を注ぐ。水を飲んでいると、声をかけられた。

「よう、トルク。なんか随分久し振りじゃないか?」

ロビーが服を腕にかけて、立っていた。遺跡に行く前の畑当番で一緒になって以来だ。

「そういえばそうだ。久し振り。」

トルクは片手を挙げて、軽く笑う。ロビーもカラカラと笑った。

「服合わせは済んだか? まだだったら、奥の方にあるから持ってこい。」

親指でぴっと指し示す。それを視線で追うと、一つのテーブルの上に服が積み重ねられていた。たたんである物もあれば、丸めて置いてある物もある。新しく届いた祭礼用の衣装を、実際に身に着けたりして確認しているところのようだ。

「ロビーは? 終わったのか?」

視界の隅にラフィが見えたが、ちょうど部屋を出るところだった。トルクには気付かなかったようだ。

 ロビーは頭を傾ける。

「まだだ。適当に選んだんだが、これは俺には短かったんだ。他に良いのがないかまた見て、なかったら仕方ない。」

腕の服を持ち上げて見せた。なるほど、とトルクは手を打つ。

「ロビーは背があるからなぁ……。」

服と肩当てを見るために、2人は服の積んであるテーブルへと向かった。

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