森の祭壇
のんびりです。進んでいるような、そうでもないような。
門をくぐり、町の外へと出る。壁に囲まれた街の中とは異なり、ぐっと視界が開けるので突然の開放感を味わう事ができる。広い草原、そこに伸びる街道。街の近くまで森が広がっているとはいえ、その森ともそれなりに距離がある。
トルクは躊躇いなく、森へと足を向けた。街道ほど立派ではないものの、一応森へ続く道もある。その道を軽い足取りで進んでいった。
木漏れ日が優しく辺りを照らしている。上へと伸ばした枝葉を通した光が、影を揺らす。歩きながら、トルクは辺りを見渡した。目に留まっては見えないが、確かに妖精達の気配を感じる。その気配だけでも、トルクの口元は緩んだ。街の中では得られない感覚。精霊術士としての資質があればこそ、感じられる気配だった。
やがて、道は行き止まりとなった。少し開けた空間に、祭壇が佇んでいる。
トルクの住むラカラの街にある精霊宮。そこでは様々な精霊を祀っているが、特に炎の精霊を重要としている。ラカラの街を治めている王が炎の上位精霊と契約し、繁栄を約束されているためだと聞いた事がある。そのために王族には体のどこかに炎のような形のアザがあり、炎の王と呼ばれているのだと。
この森にある祭壇は、この辺り一帯の平穏を願う形で建てられたのだという。土色の岩で組み立てられ、下側は草で覆われている。中には花も混じっている。
よく見れば、花の横に指先ほどの小さな妖精が座っていた。
驚かなさいように、ゆっくりと近付く。
「やあ、花の精かな?」
背中に、花びらの形の羽が見える。妖精はトルクをじっと見て、羽を揺らした。薄紅色のくるくるとした髪にくりくりとした瞳が動く。
「そうよ。あなたはニンゲンでしょ?」
小気味の良い返事に、トルクは思わず吹き出した。妖精はすましている。
「ふーん、ニンゲンに話しかけられるなんて思わなかったわ。」
ちらっと一瞥をくれると、横の花びらに手を伸ばした。
「ここに、新しい子が咲いたから見に来たの。じゃあね。」
花びらの中程にちょん、と触れると花が揺れる。そうして素早い動きで飛んでいってしまった。