夕食を食べたら
トルクは1人で夕食を摂っていた。食堂では、他にも何人か席についている。それぞれに食事を進めていた。2人で会話をしているのは1組だけで、特に相手がいないのがトルクを含めて3人ほど。食堂に来た時間もそれぞれで、特に用事がなければ普通に会話もなく食事をする事は珍しくない。親しい相手と雑談をしている事も、よくあるのだが。
食器の音や、会話の声が慎ましく流れている。
食堂の扉が開き、事務係のロントが入ってきた。すぐにトルクに気付く。すたすたとトルクの横へやってきた。
「トルク。」
トルクは手を止めて、ロントが来るのを待った。サラダの葉物が乗ったスプーンを、皿に下ろす。横に立ったロントの顔を見上げた。
「明日の朝の掃除は、精霊術士部屋の前廊下だ。掃除が終わったら、事務係の部屋へ来るように。」
穏やかではあったが、真面目な表情だった。ロントは精霊宮の事務という仕事上か、常に真面目ではある。その口から冗談の類を聞いた事もない。
ただ、今のロントの表情には硬さもあるように感じた。
「分かりました。明朝の掃除が終わったら、行きます。」
トルクが頷くと、ロントもこくりと頷いた。そうして、トルクの傍を離れた。食堂のカウンターに食事を取りに行き、空いた席に座った。
リトが空いているテーブルを拭いている。トルクの様子を伺っていたのか、食事を終えたところで目が合った。さり気なくトルクの方へやってくる。
「ロントさんに、何か言われた?」
トルクは席を立ち、食べ終わった食器を持った。軽く首を傾げて見せる。
「明日の掃除の場所と、その後に来るようにってさ。今のところはそれだけ。」
「……そっか。」
リトは肩をすくめた。トルクが空けた場所をさっと拭く。それじゃ、とトルクは食器をカウンターに運んだ。食堂を後にして、自分の部屋へと戻った。
自室のベッドに横になった体勢で、トルクは自分の手の平を見ていた。右の手の中に、石が入っている。遺跡から帰った後と変わりはないように見える。
こうして目で見ないと、そこに石がある事を忘れてしまいそうだった。異物感はない。皮膚と違ってつるりとしているが、体の一部になってしまっているようだ。
ごろりと転がり、体の向きを変える。仰向けから、横向きになった。
頬が、布団に触れる。顔をうずめるようにして、トルクは目を閉じた。手の力を抜いて、下ろす。
「うーん。どうにかなるんだろうか……。」
ぼそりと口の中で呟いているうちに、眠りに落ちていった。




