裏口
それぞれが思案にふけり、言葉のない間が開く。食堂の調理場で何かを切っているのか、微かにシャリシャリという音が届いた。リトの父親が料理をしているのだろう。
リトが肩を落とした。
「でも、ごめんね、早とちりだったかも。」
ラフィが片眉を下げて、失笑する。
「そうだな、しっかりと聞いたわけじゃないだろ。それにいくらなんでも追放は言い過ぎなんじゃないか。……他に誰かに話したかい?」
リトは頭を横に振った。
「まだ、ラフィにだけ。すぐにトルクに確認できて良かったよ。みんなに聞いてみようかと……。」
顔を起こしたリトの言葉を、ラフィは手を振って遮る。
「まてまて、確証のない事を言い触らすんじゃない。」
トルクは頷いた。小さく笑って、肩をすくめる。
「そうだな。危うく事実上の追放にされるところだった。」
椅子を立ち、横の方にあるカウンターへ足を向ける。そこに置いてある水入れを手に取り、並んでいたコップを1つ選んだ。水を注ぎ1杯分、一気に喉に流し込む。
そこでトルクは、手元のコップに視線を落とす。喉が渇いていた事に気付いた。
「属性の影響、かな。」
口の中で呟く。もう1杯分、水を注いで今度はゆっくりと飲んだ。ふう、と力を抜いてコップを置く。
先ほどまでの席に戻ってきたトルクを、ラフィが見上げている。
「よく飲むなぁ。水。」
トルクはすとん、と腰を下ろす。首を傾げて見せた。
「まあね。喉が渇いていたんだ。」
あ、とリトが両手の平を合わせた。水入れを振り返る。
「そうだ、水入れてこなくっちゃ。2人とも、手伝って?」
素早く、リトは調理場から5つの桶を運んでくる。2つずつ、ラフィとトルクに渡した。桶を抱えて、ラフィとトルクは顔を見合わせる。
「外の井戸に向かいまーす。はい、しゅっぱーつ。」
自身も1つの桶を脇に抱えて、リトは食堂のドアを開けた。
水の入った桶2つを運ぶのは重かった。
食堂の傍に、精霊宮の裏側へ出る裏口がある。そこから外に出れば畑や井戸に近い。精霊宮の正面へ回るよりはずっと近道になる。それでも、やはりたっぷりの水は重いものだった。
ラフィは今日は運ぶ仕事が多かったとぼやいていた。精霊宮内の見回りや畑など外で使う道具を点検する当番だったのだが、鍬を運んだり野菜を運んだりしていたらしい。
リトは一度にたくさん運べて良かったと、笑っていた。
水を運んだ後トルクは2人と別れ、自分の部屋に戻る事にした。リトは夕食の支度の手伝いを再開し、ラフィは事務係の部屋へ今日の当番の報告に行くという事だった。




