噂先行
街の大通りを抜けたトルクは精霊宮に入り、入り口からまっすぐ続く広い通路を逸れて奥へ続く通路へと向かう。まっすぐに、食堂に行った。
食堂の手前で、ばったりとラフィに会った。ちょうど食堂から出てきたところのようだ。
「トルク!」
トルクが声をかける前に、ラフィが大声を出した。トルクは驚いて、上げかけた手を後ろに引いてしまう。
ツカツカツカ、と足早にラフィはトルクの前に歩み寄った。背の高さは若干ラフィの方が高いくらいなので、目線はほぼ変わらない。鼻がぶつかるのではないかと思うほどの勢いで近付いてきたので、トルクは思わず身を後ろに引いた。
「な、何?」
がしっとラフィはトルクの肩を掴んだ。
「トルク……追放って、本当か!?」
思わず、トルクの顎が下がる。
「へっ?」
小さく首を横に振り、ラフィは両手を離した。息を吸い、ふうと吐いて気持ちを落ち着かせようとしているようだ。少しばかり離れたラフィの横顔に、トルクは疑問の声をかける。
「誰が? 何を?」
ラフィは視線をトルクへと戻した。
「トルクが。ここ、精霊宮をだ。違うのか? それなら良いんだが。」
トルクはぽかんと佇んでしまう。数回の瞬きをして、改めて驚いた。
「俺が? ここを追放? いや、知らない。初耳だ。」
ごくりと唾を飲み下す。首を傾けた。
「誰に聞いたんだ、そんな事。」
苦笑を浮かべ、ラフィは後ろを指し示す。
「リトだ。」
後ろ手で、食堂の扉を開いた。
リトが大きく首を振ると、黄昏色の髪が横に揺れた。
「だって、だって、そうなのかと思って! わたしも焦ったんだから!」
リトは食堂の手伝いをしている娘なので、昼食に遅く夕食にはまだ早いこの時間に食堂に居ても不思議ではない。ラフィは食堂に野菜を運びに来て、そこでリトに話を聞いたらしい。
食堂の入り口に近いテーブルに、リトとラフィとトルクが座っていた。
「俺も慌てて、ちゃんと聞かなかったな。どこでそんな話になったんだ?」
ラフィがテーブルの上で指を組む。ふー、と長く息を吐いた。肩の力を抜く。トルクもラフィの言葉に続いて、身を乗り出した。
「そうだ、どこからそんな話が出てきたんだ?」
リトは拗ねたような目付きで、二人を見ている。口をすぼめた。
「ロントさんがね。」
ぽつり、と名前を出す。一度深呼吸をして、先を続けた。
「昼ご飯の時に、頭を抱えてたの。トルクが……精霊宮に居られないのか、とかそんな事を口走ってたから、てっきり。」
「ロントさんが。」
ラフィが呆然と口の中で繰り返す。トルクは視線をずらし、腕を組んだ。




