花の奥さん
バイスが片腕を机に乗せた。半身を乗り出す格好になる。
「私の話が出ていた、という事は遺跡に行った話でもしていたのかな?」
ル=トゥは小首を傾げた。手の平を上に向け、トルクの右腕を指差す。
「遺跡の、というよりはトルクの石の話をしていたんです。」
トルクは飲んでいたお茶のコップを置く。コトリ、と控えめに音が立った。
「石?」
バイスは顔を傾けている。トルクは両手を合わせて、指を組んだ。
「そういえばバイスさん、遺跡の物は受け取ってもらえそうですか?」
ん? とバイスは顔だけでトルクを振り返る。ぽんと手を打った。
「ああ、そうだ。精霊の像は王への献上品にする事になった。王自身が使わなくても、飾りとして置いておく分には問題ないだろうという事だ。それと、水の精霊の石は精霊宮に回される。精霊宮で役立ててもらえたら、とね。」
口元をきゅっと引き締め、愛嬌のある笑みを浮かべる。トルクもほっと息を吐いた。
「良かった。行った甲斐がありましたね。」
バイスは頷いた。
雑談をしているうちに、女性が帰ってきた。
「ミリィ、お帰りなさい。」
ル=トゥが入り口に立ち、出迎える。バイスも椅子を立ち、そちらへと体を向けた。
「ただいま、ル=トゥ。お待たせ、バイス。」
身軽に入り口を潜り、女性はバイスの横に立つ。机の上に、腕にかけていた籠を置いた。
「おかえり、ミリィ。」
横からぎゅっとバイスが抱き締める。そこでトルクはやっと、女性の名前を知った。籠の中には、色とりどりの木の実が詰まっている。ミリィはバイスの背中に腕を回し、ポンポンとその背中を叩いた。
「バイス、人前よ。」
「それもそうだ。」
さっとバイスは腕を離す。さっと、これまた素早い動作でトルクにミリィを示した。
「改めてトルク君、私の奥さんだ。」
ぺこりとミリィは頭を下げて、にこりと微笑んだ。ぱっと花の咲くような笑顔だった。
「はじめまして、ミリィです。よろしくね。」
慌てて、トルクも椅子から腰を上げる。
「は、はじめまして。トルクです。」
ル=トゥは机に置かれた籠の中を覗いている。1粒2粒、指先でつまんで見た。
「たくさん拾ってきましたね。」
ミリィはうふふ、と肩を竦める。
「つい、夢中になっちゃった。思ったよりたくさんあったわ。持って帰って、ジャムにしようかな。」
バイスが部屋の奥から椅子を運び出した。自分の席の横に並べる。
「それは楽しみだな。」
口元がほころんでいた。




