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青石の精霊術士  作者: 下町
本編
34/46

お茶の清涼感

 トントン、と扉を叩く音がした。ル=トゥがそちらを見て、席を立つ。座ったままトルクは扉が開くのを見ていた。

「これは、いらっしゃい。」

 ル=トゥは声をかけながら扉を大きく開ける。自然と、トルクにも入り口の向こうが見えた。

「おや。」

開いた扉の向こうにいた人物も、すぐにトルクに気付く。

「やあ、トルク君も来ていたのか。」

片手を挙げた。バイスだった。その反対の手は、後ろに居る誰かと重なっている。

「それじゃ、私は木の実拾いをしてくるから。」

涼やかな声が通り、女性はバイスから手を離す。ル=トゥが声をかけた。

「お茶を飲んでいってくださいな。」

バイスの後ろに立ったまま、女性はうふふと笑う。ぱっと身を翻した。

「ありがとう。でも、早くしないと森の子達に囓られちゃう気がして。」

「そんなの、今でも後でも変わらないだろう。」

バイスも振り返る。いいのいいの、と走っていってしまった。

 ル=トゥは元の席に戻る。

「先ほど、バイスの話もしていたんですよ。」

やれやれとバイスは肩を竦めながら中に入った。トルクは呆気にとられて、扉を見ている。

「あの……今の方は?」

「ん?」

バイスが顔を上げた。空いている椅子を引いて、腰を下ろす。ぽりぽりと頬を掻いた。

「ん、ああ。私の妻だ。」

「へ?」

トルクがぽかんと口を開けると、ル=トゥが続ける。

「新婚さんなんですよ、バイスは。」

「へっ?」

さらに口を大きく開けて、トルクは顔をル=トゥに向けた。バイスも驚いて、ル=トゥを見た。

「新婚なんて言葉、ル=トゥが知っているとは思わなかったな。」

あはは、とル=トゥは軽く笑う。

「この間、バイスが教えてくれたんじゃないですか。結婚した後ここに来た時に。新婚さんなんだって。」

バイスはまた、頬を掻いた。

「そうだったかな。」

「そうですよ。」

何故か誇らしげにル=トゥは胸を張った。そこで一度席を立ち、もう一つコップを取り出す。茶葉を浮かべて、バイスの前に置いた。

 自分の分のお茶を思い出し、トルクは一口飲む。

「バイスさんって、結婚してたんですか? 奥さんいたんですか?」

喉を通る爽やかな風味を感じつつ、やっと言葉が出た。お茶を出された事に礼をしていたバイスはトルクに向き直る。少し照れて、にへらと笑った。

「まあなー。」

「あっ、その幸せそうな顔。なんかすごい悔しいんですけど。」

トルクは口の端をへの字に下げた。嬉しそうにバイスは顎を上げた。

「いいだろう。」

「あっ、よく分からないけどなんだこの敗北感。」

 トルクとバイスのやりとりを横目に、ル=トゥは肩を震わせて笑っていた。

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