石の影響
ル=トゥの手が、テーブルの上に伸びた。トルクの右腕を指差す。
「?」
首を傾げながらトルクが右手を出すと、掴んだ。ル=トゥの左手が、トルクの右手の甲を包む形になる。ル=トゥの視線はただ、トルクの手に留まっている。
「……水の精霊力ですね。」
落ち着いた表情で、ぽそりと口にした。指を緩め、トルクの手を離した。
「え? あ、ああ。遺跡に行って来て、そこで。」
唐突に触れられた細い指先に、トルクはドキドキしてしまった。机の上で、手の平を開く。そこには、青い石が埋まっている。水のように透き通った、艶やかな表面が顔を出している。
ル=トゥは人差し指を立て、自分の頬にポンポンと当てた。考え事をしている様子で、視線が泳ぐ。
「バイスが一緒に行く事になったって言ってましたっけ。」
視線をトルクに戻した。バイスとトルクが遺跡に行っていた事を示しているようだ。
「トルク自身の精霊力が、ずいぶん落ちてますね。それに、その石。」
ル=トゥが区切った言葉に、トルクはごくりと唾を飲む。指差された手の平を見た。
「その石が必要とする水の精霊力を吸収……というか回復、になるんでしょうかこの場合。そうしないと出てきませんね。」
ル=トゥの言葉に、トルクは顔を上げる。
「取れるの? これ。」
ル=トゥは頷いて肯定した。でも、と口を開く。
「この森ならまだしも、街の中では回復しないでしょうね。あの周辺は、火の精霊力が強くて水の精霊力の回復には向いてないと思います。その石が出てこないと、トルクも精霊術はまともに使えないのでは。どうしても干渉しますし。」
トルクは天井を見上げた。うーん、と唸ってみる。
「力不足なのに上位の術を使ったからかなぁ……。他に何か、この石の影響ってあるんでしょうか?」
顔を傾けて、ル=トゥはトルクの開いたままだった手の平を見た。すっと目を細める。にこ、と口元で微笑した。
「いえ、日常には支障ないのでは? 綺麗に収まっていますし、特に気にならないでしょう?」
トルクは指を曲げる。指先で石の表面に触れてみると、つるつるとしていた。
「うん……痛くもないし、今のところ何かにひっかかるといった事もないし……。気になってつい指先で触ってるくらいかな。」
「よほどその石と相性が良かったんですね。同化するのが一番精霊力を引き出せる方法なんだと思います。でも、そうそう他の物と同化なんてできませんよ。」
しみじみと、ル=トゥが頷いた。トルクは天井を見上げた。
「ああ。でも、精霊術の使えない精霊術士かぁ……。」




