一休み
『ありがとう。』
声だけが、静かな水面に落ちてきた。上を見上げ、トルクの膝から力が抜ける。ぺたりとその場に座り込んでしまった。
「大丈夫か?」
バイスが駆け寄り、トルクに手を伸ばす。トルクは苦笑してその手を掴んだが、体に力が入らない。
「……あー、動けなさそうです。」
上方から入っている外の光。それを受け、内に包み込み輝く湖。澄んだ空気がその場に満ちている。
トルクは掌を開いて見た。ほんの一部、青い石が顔を覗かせている。親指の先ほどしか表面に出ていない。手の中に異物感はない。明らかに入る前の石よりも薄い手の、どこに入り込んでいるのだろうかと思える。ゆっくりと、握りしめてまた開いてみた。
そうして、バイスを見上げる。
「しばらく休めば、多分大丈夫なんで。」
そうか、とバイスは安堵の息を吐く。
「いや、そんなに大変な事だとは思っていなかった。私も軽く考えて、君に勧めてしまった。すまない。」
不安の残る表情で、頭を下げた。トルクは手を横に振る。
「ああ、俺の力不足です。気にしないでください。それに、できる事ならあの精霊も早く解放したかったし……。できて良かった。」
ごろり、とその場で体を倒した。腕を台座にぶつけそうになり、頭に乗せる。水の傍の、冷たい空気が心地良い。すう、と大きく息を吸い込むと途端に眠気が湧いてきた。
ランタンの中で、心細そうに灯が揺れていた。辺り一面が音のない暗闇に覆われている。
がばっとトルクは体を起こした。ランタンのすぐ横に座っていた、バイスが振り返る。
「お、目が覚めたかな。」
逆光で表情は分からない。トルクは自分の頬を撫でた。
「……俺、寝てた? すいません、どれくらい経ちました?」
小さく笑い、バイスは上を見上げる。
「そうだな、日が沈んでしばらく経つくらいかな。」
よっと飛び跳ねるように立ち上がった。その腕には、台座の前に置いてあった像が収まっている。水の精霊に似た姿の、青白い像だ。
「動けるか? とりあえず、外に出て改めて休もうか。ここは冷えてくる。」
荷物に手をかける。トルクは腕を回してみた。普通に動く。地面に手を突いて、腰を上げた。
ランタンの明かりを頼りに、外へと出る事にした。
外は空気が柔らかく感じた。洞窟の中が、水で冷えて感じたせいだろうか。頭上は木々に覆われ、未だ鬱蒼と暗かった。来る時に掻き分けた道を引き返していった。




