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青石の精霊術士  作者: 下町
本編
26/46

精霊の解放

 トルクの反応も、一瞬遅れた。

「……開放?」

やった事がない。精霊との契約やその解除は、精霊術士の中でもかなりの力量を持った者でなければできないものだ。

 バイスがぽんとトルクの背を押す。

「そうだ、その方が良いな。」

特に疑問も抱かず、賛同している様子だ。トルクはバイスを振り返った。

「いや、俺もできるものならやりたいんですが。俺にはまだ……。」

慌てて、手の平を左右に振る。

『本当に、運の良い事。水と相性の良い精霊術士だったようです。』

 ゆらゆらと水の髪を揺らす精霊。指を伸ばし、トルクの手元を指した。

『あなたは水と相性が良いのです。その石は水の精霊力を高める石。その力を取り込めば、私の解放も可能なはず。開放されればここにある物は私には必要ありませんし、お持ちいただいても構いません。』

「え? ……えっ?」

トルクは握り締めていた石と水の精霊とを交互に見比べる。台座と精霊との間には、精霊に似た姿の像が立っている。視線を往復するたびに像が目に留まる。膝より下の高さの、小ぶりな像だ。

 像を見て、それから手の中の石にじっと視線を落とした。青い、透き通ったひんやりとした石が、しっとりと手の平に馴染んでいる。

「……俺に、できるのなら。」

ごくりと、唾を飲んだ。もう一度、今度は顔を上げて同じ言葉を口にする。

「俺にできるのなら。」

ニコリと精霊は笑顔を浮かべた。トルクの手の平がひんやりと、一層の冷たさを感じた。思わず手を見ると、青い石が手の平に埋まっている。

「ぅえっ!?」

驚いているうちに、手の中に溶け込んでしまった。すると体の奥からふわりと持ち上がるような感覚が走る。周りを見回しても、特に変わった事はない。体が浮いているという事もない。しかし、頭の芯から冴えているような気がした。

 ぐっ、とトルクは右手を握り締めた。その手を台座に置く。

「じゃあ、やってみます。」

バイスが一歩、後ろに下がった。邪魔にならないよう、離れて見る事にしたようだ。

 トルクは指先で台座の模様をなぞり、水の精霊術のための呪文を口の中で繰り返す。真っ直ぐに伸ばした2本の指で、さっと正面に佇む精霊を示した。

「私はトルク。水の精霊式と私の力、そして名前に於いて。ここに固定した精霊を開放する。」

『私の名前はカウム。契約を解除し、精霊界に帰ります。』

精霊は右手を左の肩に置く姿勢をとり、俯いた。全身が細かな水滴となり、霧散する。

 跡形もなく、その姿がなくなった。水面に波一つ立っていない。遊んでいた妖精達も何言か囁き合い、水の中へと消えていった。

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