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青石の精霊術士  作者: 下町
本編
25/46

遠い時間

 手の平に乗るような大きさの妖精が、湖の上を走っている。台座の方へは向かわず、精霊の立つ場所を避けるかのようにくるりと体の向きを変えた。その動きに顔を向け、水の精霊は独り言のように呟いた。

『本当に、本当に久し振り。ここに人が来るなんて。』

ゆっくりとバイスとトルクの方へと目線を戻す。

『完全に、ここの事は忘れ去られたのだと思っていました。もう訪れる人はなく、来るのもあの子達くらいだろうと。』

水で遊ぶ妖精達へ微笑を向けた。

『ずっと私がここに居たので、他の精霊力の干渉もほぼ届かなくなりましたし。』

はっとして、トルクは精霊を見上げる。

「だから、ここに来る途中に他の妖精を見なかった……?」

『ああ、ここの外の調和も乱れていたんでしょうか? 気の遠くなるほどの時が経ちましたし、水の影響力が大きくなったんですね。他の子は居づらくなってしまったんでしょう。』

水の精霊は頷いた。トルクは姿勢を正した。

「ずっと、ここに居たんですか?」

手の中で、先ほど台座から取れた石がひんやりと冷たい。

『ええ。そう、契約してしまったものですから。』

バイスは腕を組んでいた。腕を解き、手の平で自身の顎を包む。

「この遺跡は、ラカラの街ができる前に造られたもののはず。という事は、百年以上は経っているんじゃないか?」

 誰も来なくなった祭壇に、居続けた精霊。その時間と孤独を想い描き、トルクはぞっとした。水の妖精が遊びに来る事が、どれほど慰めになったのだろう。

 おずおずと、控えめに精霊は指を組む。

『あの……。』

バイスとトルクは仕草で先を促した。

『私はこの祭壇を守るために、ここに居ました。この場所に留まり、恵みの水を満たす事が人間達との約束でした。ですが、ここはまだ、必要とされているのでしょうか?』

バイスがちらりとトルクを見た。首を小さく横に振る。

「……残念ながら、この場所を知る者はほとんどいないと思われる。ここを祀っていた方々の村も、すでになくなっている。だからこの場所を調べるのに少々時間がかかったんです。」

すっと、精霊は目を細めた。

『そうですか。』

 ぱちゃん。

 水の落ちる音が響いた。

『そちらの方は、精霊術士ですね。』

言葉の内に鋭さを含ませて、精霊はトルクを見詰める。ほぼ反射的に、トルクは肯定した。

「あ、はい。」

一呼吸置いて、精霊が続けた。

『お願いしたいのですが、私を解放してもらえませんか? そうすれば、私は自由の身となり精霊界へと帰る事ができます。』


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