執着心の末路
転生?憑依?によって狂わされた令嬢とその周りのお話。
最初は主人公が好きだった令息からの手紙、その後は主人公の独白になります。
拝啓 話の通じない元顔見知りの方
この手紙がそちらに届いているならば、私は貴女との関係性を全て断ち切り、私が真に愛する彼女と婚姻をしていることでしょう。
貴女が私に激しい執着を持ち、私の周りを無理矢理うろつき、私と私の周りとの関係性にひびを入れ続けてくださったお陰で、真に大事にする相手を浮き彫りにしてくださったことには感謝を致します。
そして私は貴女に対する好意が何一つないことも明言致します。
えぇ、むしろ嫌っております。
ですがこれ以降は無関係で関心すら持たない相手になるでしょう。
貴女が死のうが生きようが私には関係ないので、死んだとてその知らせすら届きません。
そうして頂く様に周りの方々に計らってもらっております。
貴女は私を仲の良い幼馴染だと言い、婚約する相手だと宣い、私の周りの人々に激しい憎悪を撒き散らしていたのはただただ醜悪でしかありませんでした。
私にとっては両親を介して幼少期に少し交流があっただけの存在で、私にとっての幼馴染は別におります。
そして私の愛する彼女もまた幼馴染と呼べる存在です。貴女とは違って。
私は本当に貴女のご両親が不憫でなりません。
まともで真面目な方々できちんと教育もされていたと言うのに、貴女ときたら…
私の家からそちらの家に抗議を入れたのは1度や2度ではなく、その度に貴女には叱責と再教育を施されたとお聞きしています。
貴女のご両親は子どものやったことだと言い訳せずに毎回平謝りで、見ているこちらが辛くなる様子でした。
ですが、その甲斐なく5度目の抗議の後は貴女は領地に押し込められたのに、自分の周りの者に同情心を煽って抜け出すのを繰り返し、貴女が一人娘の嫡女であったことをいい事に色々と画策したことで、貴女のご両親は貴女を“斬り捨てる”事をお決めになられました。
貴女の言動のせいで周りに敵ばかり作り、そのせいで貴女の家に領地にまで影響を及ぼしたことで、領民の方々からも抗議が殺到した結果ですので甘んじて受けてください。
まぁ痛みは長くはないでしょうから、それまで恐怖と反省をして頂けるといいのですが。
貴女が今日まで生き延びたのは貴女が執着した私が貴女には一生手に入らないと言うことを知って頂くためです。
より深い後悔や絶望を持って頂けたら私の苦しかった日々が多少は報われることでしょう。
それまで最低限の食事で生かされているとはお聞きしていますが、まぁ貴女の近況などどうでもよろしいので、絶望を抱えて私のいないところに勝手に“堕ちて”ください。
最後に、改めてお伝えしますが、貴女を好きになったことも、貴女に好意を抱いたことも、貴女との婚約や婚姻を望んだこともありません。
初めて会った時から向けられる訳の分からない激しい執着に嫌悪と恐怖は持っていても、好意的に思えるものは何一つありませんでした。
そしてその執着心から私や私の大事な方々を傷つけようと画策する姿はあまりにも醜くく、見るに耐えず、その顔は悍ましさしかありませんでした。
私が関わらなければ比較的まともに対応できるのに、私が少しでも関わると豹変する姿は恐怖しか与えませんでした。
貴女が私への執着心を少しでも殺すように心を砕き、貴女のために奔走されたご両親のために反省を少しでもすることは願っております。
そして反省したのちに絶望と後悔を抱いて消えて下さることを遠くから切にお祈りしています。
敬具
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あぁ、私は何てことをしてしまったのだろう。
私に今残っているのは両親や親族、家の使用人、領民への申し訳なさと激しい後悔と絶望だ。
私の中の執着心は絶望から奥の方に引っ込んだ。
消えた訳ではない。消してはいけない。
だってその執着心にも死ぬ恐怖を味わってもらわないと割に合わないからだ。
執着心の大半は、前世と呼ばれる記憶もしくは私の心に住むもう1人の私だ。
彼を前にすると彼に関することに触れると彼女が心の表面に現れ、私の恋心と交わっておかしなことになってしまうのだ。
彼女の名前は聖羅、今の私の名前はセーラ。
聖羅は同担拒否と呼ばれる人種で、彼に関するものは自分だけにしたいタイプだった。
そのくせ、自分には甘ったるい考えの人でなしだった。
人でないから相手をきちんと1人の人として見ておらず、ただ自分のための偶像として考えているので、自分の思った様に進まなければ周りに当たり散らすところがあった。
当たり前の話だが、相手は生きているのだから前世で触れた作品の様に一言一句同じな訳でもないだろうし、そもそもが私と彼女の融合体がおかしな行動を取るから前世の記憶と違うのは仕方ないことだとようやく気づいた。
恋心が暴走するなど生温いものではなかった。
だから私は今一人ぼっちで死を待つだけだった。
最後の手紙で粉々にされた聖羅はただただ涙を流して死にたくないよおと嘆いている。
もう遅いのに。
セーラである私は両親達への懺悔で死にそうになっている。
彼へは懺悔の気持ちすら持つことを許されないだろう。
私と聖羅に唆された使用人はどうなったのだろう。
彼らは平民出身だったから下手をすると生きていないかもしれない。ただただ苦いものが込み上げてくる。
処刑されるのはいつになるのだろう。
今の私はギリギリで生きるところにまで落とされているが、聖羅が咄嗟の時に暴れないかと微弱な毒も盛られ続けている。
その毒は聖羅にとっては恐怖のようだ。
私は中堅の伯爵家の跡取り娘だったから多少の毒慣らしは理解している。
私は経験はしていない。
唯一の直系の跡取り娘だから無理には必要なかった。
だが前世でぬくぬくと両親に庇護されていた聖羅にとって、守ってくれるはずの今世の両親から自身を弱らせるために毒を盛られる、それだけで衝撃的で自分の立ち位置をようやく少し理解した。
その後のあの手紙。
聖羅は壊れてしまった。
だが、彼女を私がなんとか繋ぎ止めて消えないようにしている。
彼女の存在がなんなのかはわからない。
憑依なのか転生なのか、私が作り出した偶像なのか。
だが生きている私の心の奥底で。
それだけで今はいい。
簡単に消えるなど許されないのだから。
私はこの牢の中でようやく落ち着いていられる。
私にとっても聖羅の存在は毒だったのだろう。
もちろん私の恋心が更に加速させた部分も多いにあるが。
専属侍女だった彼女はどうなったのだろう。
彼女は必死に私のことを思ってくれていたのに聖羅が嫌って遠ざけてしまった。
その後はローテーションで世話だけはされるだけの日々だった。
彼女に何一つ報いてあげられなかった。
彼女は男爵家の令嬢でもあったのに。
必死になって身を挺して庇ってくれていたのに。
両親はどうなったのだろう。
聖羅が暴走するたびに憔悴していく姿は痛ましかった。だがどうにもできなかった。
最後まで私に心を砕いてくれていたのに
なのに酷い言葉と行動で傷つけてばかりだった。
でもままならない自分が感じてた焦燥感から出た言葉もあった。
聖羅だけではなかった。
私自身も両親を傷つけた。
もうどんな言葉も意味をなさない。
両親の心も砕いてしまったのだから。
今の状態が終われば両親もまた追いかけてくるかもしれない。
もしかしたら周りのお陰で私を弔って細々と生きるかもしれない。
誰も先のことは教えてくれなかった。
それもそうだろう。
私はもうすぐ死ぬのだから。
あぁ、テンセイシャの記憶なんて欲しくなかった。
例え報われない恋心だったとしても、こんな風に好きな人から死を求められることはなかっただろう。
聖羅は自分をヒロインだと言っていた。
彼の愛する人を悪役令嬢とまで言っていた。
どこまでも自分勝手でどこまでも上から目線でロクでもない人でなしだった聖羅。
そしてその尻馬に乗ってやらかした私。
ただ私ができることは斬首までの間に絶望と反省をするだけだ。
聖羅にもその一端を味わわせて。
もし次に生まれ変わるならこんな執着心を持たないモノになりたい。
こんな強い執着心など周りを傷つけるだけなのだから。
嫉妬心や執着心の全てが悪いわけではないけれど、あまりにも激しいモノは自分も周りをも傷つけると言ったことでしょうか。
主人公は伯爵家の跡取り娘、お相手は同じく伯爵家の嫡男。
彼の相手は侯爵家の長女(但し嫡女ではない)。
彼の伯爵家を起点に四方に隣接する領地の令息、令嬢のお話。
彼は自分の領地にいるのも恐怖なので、侯爵家の従属爵位をもらって彼女と結婚。
侯爵家を盾にした形ですが、断腸の思いで嫡男を降りて侯爵家に尽くすと決めたと言う設定が頭の中にあったり。
他にも幼馴染的な人間もいたけれど、主人公と前世は同担拒否のために視界に入れていなかった。そんなお話。




