迷惑の償い
こんにちは 初めましての葛城ノルンです
「これは 壊れたデータの一部分………」
文章初心者です ド素人なので 文章レベルに関しては
多めに見てください……
自分でも文章に説明癖がついてしまっているのは
自覚しております ただ今の私はまだ未熟で
それを補えるほどの実力を持ち合わせていませんでした
そこについてはおいおい修正するつもりです
ひとまずこの物語は私が初めて完成させた短編でして
ひとつの試しとして投稿させていただくことにしました
この物語は私的には歪んでおり
好みは分かれるかもです
気分が進めば関連作を描きます
気分が進めば挿絵も描こうか迷ってます
<< セカイプログラムからの注意・警告です。この世界には、自殺を教唆するような、それを促すような、それを示唆するような。そんな生命を侮辱する物語が含まれています。
そのような描写が苦手な観測者様、そしてそれに恐怖、憎悪などの感情を抱く観測者様には。この画面からブラウザバックすることを強く推奨します。それでも貴方はこの世界を観測することを望み、このセカイファイルを閲覧しますか? >>
その警告のメッセージに、とある青年は。
「ふむ……………………」
と、ひとつ考え込むように彼は声を漏らすと、右手に携えたマウスを動かし、
そのファイルを開いた。
*
「他人に迷惑をかけてはいけません」
何かと、この世界ではこの言葉がよく使われるようだ。
意味合い的には、「他人に不快な気分、そして不利益を植え付けるような真似をすることは悪です」という風潮である。逆に言えば、他人に何らかの利益のある行動を進んで行う人間であるならば、それだけ世間的に美しいと認められる風潮にあるようだ。もしも世界中の困っている人間の多くを助けてあげられれば、それはもう英雄であると、大喝采ものだ。
そんな中、僕は自分の欲望に忠実過ぎて、逆に人間に迷惑をかける天才と烙印を押されていたのだが、こんな僕が実際どんな行動をすることが正しかったのか、悶々と考えていた。
今思うと、僕はこんな至極真っ当なことに気づくのが遅すぎてしまったようだ。
僕は、何かと自由に生きることが大好きな人間だ。僕の生き甲斐と言っても良い。そこら辺を歩きたいと思えば歩くし、何かが欲しいと思えば少ない金をはたいてそれを購入するし、寝たいと思えば寝る。誰かに命令される、または何かを求められることが本っっっっっっ当に大嫌いだった。言うなれば、僕は自堕落で、ぐうたらで、自分勝手な人間であると。周りにそんな人間であると判別されていた。
僕は今、散らかった部屋の隅に置かれている、大きなベッドで堂々と寝そべっている。この一日、一体何時間眠っていたのだろう。大きな毛布で芋虫のようにくるまっていると、僕の部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「何? おばさん、今僕眠いんだけど。僕の偉大なる睡眠を妨害しないでよ」
と、僕がそう言葉を投げると、僕の自室の扉が開け放たれる。
「ノルー、いつまで寝てんの? もう朝も昼も何もごはん食べてないじゃーん。 学校に行かないのはもう良いけど、何か口に入れとかないと、動けるものも動けなくなっちゃうよー?」
「………いらない。僕は今『食欲よりも睡眠欲が優先されてしまうウイルス』に感染してるからー」
「…………………………」
僕の逆に清々しいほどの御託を並べたこの発言に、僕の目の前にいる若々しい女は心底困ったような顔をして黙り込んでしまった。
「おばさんに移してしまったら大変だから、僕はこのまま静養しなきゃねー?」
「…………………そんなウイルス、見たことも聞いたこともないけど?」
「そーそー、一般に公開されてない恐ろしいウイルスでさー、外国の某研究所から流出してしまったらしくてぇ、その研究所は責任を何一つ取りたくない、って文言でメディアに報道させないよーにしてるんだってぇ」
「…………………………………………」
自分でも恐ろしいほどに口を回らせるこの僕に、目の前の女は呆れたように、
「ノル、こんな状態で私がいなくなっちゃったらどうするの?」
そんな、疑問を僕に投げる。
「………………………うーん」
ひとつ、僕は考える。そうして、考えた結果が、
「死ぬんじゃない?」
あっけらかんと、正直な予想を告げる。
現実的に考えて、パッと出た結論がこれだった。
「………私はできるところまで、君を養うつもりではあるんだけど……。見た目は取り繕ってても私はそれなりの年だから、どう考えても君よりは先にいなくなっちゃうの」
「………ふぅん」
彼女の言う通り、彼女のその見た目は二〇代前半ほどに見えるが、実年齢は四〇代半ばといったところである。普通の目で見れば化け物極まりないような有り様だが、それに比べて僕はまだ中退したばかりの高校生。三〇年ほど生きている期間が違うため、僕に何らかの重大な異常が訪れない限り、彼女は確実に僕より先にその物語を終えてしまうわけだ。
………………そんなことは、僕が閉じこもった時点で理解してる。覚悟だってしてる。だから何だというのか。
「私は君に、幸せな人生を送ってほしい。大切な友達を作って、大切なお嫁さんを見つけて、その人たちにめいっぱいの幸せを分けてあげて。そんな風に君が笑っている世界を、見たい。そんな風に君やその周りが希望に目を輝かせている世界を、創ってあげたい。でも君は………君は、それを望んでいないの?」
「………………………………」
僕は、何も答えない。
「君自身は、自分が幸せに、なることを望んでいないの…………?」
「………………………………………………」
僕は、あくまでも無言を貫く。
そんな僕の状態を見やり、何を言ってもどうしようもないと判断した彼女はこの部屋から去っていった。
*
僕が、何故こんなことになっているのか。
まあ、それは僕の今までのくだらない、愚かな十数年間が原因となっている。
僕が保育園に通ってたような年の頃、だったか。僕の両親は、警察署の前に僕を置いて、行方不明となった。そこでおばさんに拾われて、なんとなく育った。
小学生の頃は、所謂とんでもない馬鹿ガキだった。その頃から、生まれながらにしてありえないくらいに自分勝手な野郎だった。
僕が数々のやらかしたとんでもないものの中で、一番大きかった実例を挙げよう。低学年の頃、珍しく僕と関わってくれた、ずっと笑顔な物好きで優しい男子がいた。
「春薮くん、おっはよー! 今日も一日頑張ろーぜー!!」
「……うん。藺代羽くん、おはよ」
僕の元クラスメイトだ。こんな無自覚に好き勝手にやってただけの僕に、明るく輝く一等星のような笑顔を浮かべて、関わってくれた。でも実際には僕だけじゃなくて、彼が関わる人全てに輝く笑顔を向けて明るく振る舞う、クラスの人気者だった。
そんな彼を見て、僕は純粋に疑問を持ったのだ。『誰にでも明るく綺麗に、輝きながら振る舞っているその子は、実際に泣くことがあるのか』と。純粋に疑問を持って、それを実証するために針を用意した。純粋な好奇心に、純粋なその子への興味に、負けてしまって。
………………その子の左目を、針で突いて失明させてしまったのだ。
「ひゅ、ひゅがッ
ぃ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
そこで今までずっと笑顔だったそのクラスの人気者は、その発狂するような痛みに悶え苦しみ、見事に赤色の混じった大量の涙を浮かべながら、喉が張り裂け破裂するかのような叫び声を上げた。ああ、本当にどんなに明るい人間でも、こうやって大声で泣いてしまうことがあるんだと、初めてそれを知った。
当時の僕の知的好奇心は、それを知って大いに満たされて、新しい知識を得ることができたと、誇りを持っていた。
僕がそんな事件を起こして学校に来ることができなくなってしまった彼は、ほどなくしてこの街から消えていった。当時の僕はそこに知識を得られた快感以外何も感じなかった反面、おばさんがその人気者の子の親に土下座して謝っていた。和解金としてかなりの額の金銭を渡していたようだが、何故か僕に対して何も怒ったり、怖がったりはしなかった。ずっとずっと、いつも普通に僕と接していた。当時の僕は、子供ながらに不思議に思っていた。
当然その暴れっぷりに周りは警戒したのか、テキトーに廊下を歩いてたら勝手に道が開けてたり、誰も僕の口を利かなくなった。
僕が起こした大問題の数々はこの街中に知れ渡っていたため、中学に上がっても当然の如く周りはずっと僕を警戒しており、やがて僕を排除しようとする働きができた。最初は陰口だけで事は済んでいたが、放っていくうちに所有物が破壊されたり消えてたり、給食にゴミや虫が混ぜられたりと、まあ、大層な嫌がらせ大会が繰り広げられていた。
その上教師からの反感も買っていたため、嫌がらせ大会がどんどん苛烈になっていた状況下にあっても「まあ、当然か」という目で見過ごされていた。
中学終盤辺りで大会はピークを迎えて、ようやく僕は自分の異常さを自覚した。とある朝、僕の席の机の上に僕の遺影と思しき似顔絵が置かれて、そこに汚く彩られた沢山の白い花が置かれて、クラス、そして学年のみんながそれを囲って。
「春薮ノルは、とても嬉しいことに。死んでしまったようです」
「えっ!? マジで!!? やっとかっ!!!」
「みんなで最後に労って……いや、ドロドロに罵倒してやろうぜー!!!」
ぎゃいぎゃいとその声はドンドン広がって。
「お前が死んで良かった」
「犯罪になっちまうからしなかったけど、できることなら四肢をもいで殺してやりたかったよなぁ」
「マジそれなっ!!! ほんっとにあんな人間、いやゴミ虫っ!!
生きてて害悪でしかなかったもんなぁ!!!!」
「おいおい!! それはそこら辺のゴミ虫に失礼だろー!!!!!」
「あははははははははー!!!!!」
彼らはそんな声を上げて、彼らは僕の遺影らしき似顔絵に唾を飛ばして。形容し難いほどの汚い罵倒の言葉の羅列を、僕の絵が見えなくなるほどに書き込んで。挙げ句の果てにビリビリにそれを破いて、最っ高に楽しそうな声を上げる。そんな『お葬式ごっこ』が、学年の中でお祭り騒ぎのように繰り広げられていた。
その光景をその教室の入り口で目撃した僕は、ようやく自覚する。僕は、彼らをこんな殺意に歪ませてしまうほどのことをずっとやらかしてしまったのかと。自分がどれだけ周囲に迷惑をかけて、どんな不快感、不利益を彼らに与えてしまったのか。この地獄絵図のような場面を見て、ようやく理解した。生まれて初めて、僕はその場から逃げ出した。
それからというもの僕は、自分がどれだけクソみたいな人間だったかを自覚して、家に閉じこもった。ただ、どれだけクソみたいな自分を自覚していようと、自分の欲望が満たされていく様は最高に気持ちが良かった。それで周りがどんな被害を被ろうと、どれだけの罵声を浴びせられようと、あの子の目を潰して知的好奇心を満たしたように、自分の欲望を叶えていく絶頂感の前には、そんな雑音なんてミジンコも同然だった。
だけど何らかの理性が育ったのか、学校で問題を起こして大きな被害を出すよりかは、自分の家で欲望の限りを、身勝手の限りを尽くすようにして、被害の規模を小さくすることを今の僕は選んでいた。これでも僕は色々譲歩したつもりだ。客観的に見れば、おばさんに果てしない苦労をかけて、そのスネを骨になっても貪りつくしているトンデモ我儘野郎なのだが。でも自分の欲望が満たされる快感には耐えられなかった。
ギリギリで受かったド底辺高校にも結局すぐに通いたくなくなり、こうやって引きこもりでぐうたらな生活の限りを過ごしていた。やがては出席日数が足りなくて退学の手続きがトントン拍子に進み、晴れて見事に無職のクソ人間がここに出来上がったわけだ。
………………実際、おばさんはなんでまだ僕を養ってるんだ? 彼女からしたら、僕はただの時間を奪う寄生虫のようなものだろう。
正直、これからも一生働くなんてことはしたくなんてないし、食事は食べたい時に勝手に現れてほしい。ネットゲームでガチガチに課金して無双したい。そんな生活を今までずっと否定せずに全部叶えてくれたおばさんが消えたら、僕はどう生きていけばいいのだ。
だからこそ、彼女の「私がいなくなったらどうするの」という僕への問いに、僕と同じような状況に置かれていればどんな馬鹿な生物であろうとフツーに、容易に想像がつくであろう、そんな単純明快な答えを口にした。
「死ぬんじゃない?」と。
ああ、やはり。駄目だ。僕の人生は馬鹿ガキだった頃に、自分の欲望が最高で最悪の形で叶ってしまう快感を知ってしまった時から。どう考えても、もっともな人生を送れるわけがなかったのだ。それが一種の麻薬のように、永久に僕の脳を蝕み続けて、中学終盤でやっと芽生えたであろう理性をも無視して、周囲の人間に極限までの苦労、迷惑をかけてきた。今回の思考で、そんなどうしようもない事実を再確認した。
「はは、ははははははははははははははは」
思わず、笑いが溢れる。
「あは、はは。
あはははははははははははははははははははははははははははははは」
止まらない。今までの僕の全てを覆い隠すように、笑い声で全てを塗り潰すように。
「はは、はははは、はははははは。くふふふふふ………
アァーーーー………」
僕の理性が、僕のこの有り様を最大限に貶すように、ドブカスを見るような目で、嘲笑っている。
そうして、彼女が僕の部屋から去って、数時間ほど僕のくだらない人生を振り返って、十数分。ずっと、ずっと。僕は笑い続けていた。
その末、僕はひとつの結論を導き出した。
「ああ、あぁ…………………
僕は、僕という人間は、死ぬべきだ」
これ以上、身勝手に。半永久的に周りに迷惑をかけて地獄を見せるよりは。
最後に多大な迷惑をかけて、それでこのクソみたいな人間の被害を終わらせよう。その方が、まだマシだろう。
…………………そうだ。
半永久的な迷惑よりも、今この瞬間の大きな迷惑の方が、多分被害は少ないだろう。
……僕は、化け物だ。僕自身だけの欲望を振るって、どれほどの人間を壊してきたのだろうか。もう欲望を少しも満たさない人生なんてこれっぽっちも考えられない。こんなどうしようもない奴は、この世界から消えるべきだ。
そう、僕の理性が冷静に考える。考えて、考えて、考えて。そうして僕は部屋にある限りのお小遣いを握りしめて、玄関の扉に手をかける。すると、
「ノル、どこに行くの?」
と、純粋にそう思ったであろうおばさんが、僕を呼び止める。
「散歩だよ散歩。いつも普通に行ってなかったっけ?」
「えー本当に? 今のノル、何かすっごい笑顔だけど、何か企んでるの?」
「いやあまさかー! 今までずっと歩きたいから歩いてたじゃん! 今回もその延長線だよー!」
いつもよりも不自然なほど明るい声のトーンで、何とか言い訳をする。普通であれば、その不自然さに着目して僕が何を企んでいるのか探ることが正常な反応のはずなのだが。
「ふーん? ま、良いよ。気をつけて行ってきてねー?」
おばさんも不自然なほどに軽く、それに納得したのか。僕を普通に見送った。
え? 良いの? おばさん、僕これから死にに行くんだよ? そんな僕に目もくれず、普通に見送るんだ? ふーん……………。
*
「………あれ? あれれれれ?
どうしてかなあ? 散歩に行ったはずなのに……どうして君は、これまでの十数年の散歩の経路の中の、すべてと違う道へ行っているのかなあ? おかしくない?」
私は、その右手に持つスマホの画面をよく凝視して、異変に気づく。
「どうして? 彼は外に出る直前に、何か不自然に笑みを浮かべていた。いつも自分の欲を満たした時にしか、笑みを浮かべない癖に。彼が美味しいハンバーグをいっぱい食べたいと頼んで、その言葉通りに作って渡した時のような。そんな、無邪気な、笑顔」
なのに、何の意味も無く、無邪気に笑ってた。
………………おかしい。
どう考えても、おかしい。
どうにも嫌な予感が、私の中を渦巻いていた。私の大切な、大切で大切で大切な、私のノルが。どこかに消えてしまう気がして。
「………行かなきゃ」
私の身体は足早に、勝手に動いていた。
*
彼女の見送りを最後に、歩く。歩く。歩く。歩いて、ホームセンターに着いた。
そこで、僕の身体の重さに耐えられそうな太い縄を物色して、少ないお金をはたいて購入する。それを背負ったリュックサックに詰め込んで、最寄りの駅へ向かう。その道中で誰かの視線を感じたが、気にしないことにした。
残った所持金で行ける、できるだけ遠い駅の周辺をスマホのマップアプリで探す。あまり開かれていないであろう深い森を見つけたので、そこに向かうことにした。
辺りの景色が田んぼや畑で寂れていく景色を眺めながら、一時間ほど。僕が行ける限りの遠い駅に到着して、僕は電車を降りる。それからまた足早で一時間ほど歩く。
こんな時のような遠出をいつかするために、日頃から散歩して体力を保って正解だったな、と純粋に思う。
そうして歩いて、歩いて、歩いて、歩いて、歩いて。目的地に、辿り着いた。
あとは、僕に死ぬべきと叫ぶ理性と、死にたくないと喚く生命としての本能との、戦いだ。
だけどもうお金は残っていない。
もう、後戻りはできない。
探す。探す。探す。探す。探す。
僕の理性に従って、今までの馬鹿でクソみたいな、くだらない僕の人生に幕を下ろすために、もう二度と僕によって被害に遭う人間を生み出さないために。丁度良く僕の身体を吊るせる木を、無我夢中で探していた。
そうして、日がもうどっぷりと落ちて、夜特有の肌寒さが漂っていた頃だったか。
…………見つけた。見つけてしまった。
この深い森の中心で、この森の中の長とも言える雰囲気を醸し出した、その巨大な樹木を。
躊躇いなんて全部捨てろ。だって僕は、欲望に忠実過ぎて、沢山の人々を歪めた死ぬべき人間だから。
その樹木から伸び、分かれる途轍もなく太いその枝にホームセンターで買った縄を括りつけた。
そこに僕の身体を吊るそうとして………、
ガッッッッッッッ、ズザァアアアアッ。
僕は、何者かに思いっきり押し倒された。
「見つけた。見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた」
僕の身体全体に、硬く巨大な岩石を思いっきり打ちつけたような。そんな、身体の細胞が悲鳴を上げるような、そんな痛みが響いて。視界に星が飛んで、散っていく。
そんな感じでぐわんぐわんと揺れる視界を数分かけて慣らすと、そこには。
「危なかった。危なかった危なかった。
ノルがちゃんとスマホを持って起動してくれてたから、GPSで…………間に合った。追いついた………」
数時間前に、僕を普通に見送ったはずのおばさんが、僕を絶対に離すまいと、とんでもない力で押さえつけていた。女の力とは到底思えなかった。
その表情には、何かに最高の快感を覚えているような、世界の全てが彼女によって輝いているかのような勘違いをしてしまうほどの光をその双眸に宿らせて、最高峰の興奮を現すかのように、その頬を果てしなく真紅に染めていた。
彼女は、僕の保護者は、四〇代半ばのおばさんのはずだった。見た目は何かと取り繕って二〇代前半のような雰囲気を醸し出していたが。
たった今、この瞬間は。本当に純粋で、無垢で。まるで恋する少女のような雰囲気で、僕をとんでもない力で押し倒していた。
僕はその表情を、その所作を、純粋に。
………………可愛いと、思ってしまった。
「……死ぬつもりだったでしょ」
返事ができなかった。
「ねえ、ノル」
彼女の声が、やけに近い。
「それ、私が許すと思う?」
「………………………………」
「やっとだ。やっと君は、私の望みを叶えてくれる」
彼女が何を言っているのか、よく聞こえない。彼女のその表情に、圧倒的に目を奪われてしまったのだ。
「君がとんでもない欲望をずっと抱えていながら、君がその欲望を、周りへの危害を無視して叶えていながら。君がとんでもない事件を犯しながら、何故私が君を育てていたか分かる?」
彼女のその青みがかったほどよい長さの黒髪が、大きくぱっちりと見開かれたそのルビーとサファイアのような双眸が、四〇代とは思えない、その少女のような綺麗で整った輪郭と肌が、その頭に括りつけられている白いフリルのついた紫の大きなリボンが、僕の視覚を、脳内を、奥地まで支配して焼きつけていく。
「私は、君にそう育ってほしかったから。私が、君をそういう風に育てたから」
彼女の無難な、血に濡れたような赤さのエプロンとその他の服から漂う、太陽の光のような、向日葵のような香りが、鼻腔をくすぐり、僕の嗅覚を支配する。
「これからはもう何も、我慢する必要は無いよ? 君のやりたいことはなんだってさせてあげるし、イライラしたら私を殴ればいいし、寝たいなら寝たい分だけ好きなだけ寝ればいい。何か分からないことがあったら、私が何でも調べて教えるし、全部、ぜんぶぜんぶぜんぶ。君が望むことは叶えてあげる。それが私の幸せだから」
彼女の狂気的で、且つ果てしなく慈愛を込めた猫撫で声が、甘い甘い声が、僕の聴覚を支配する。
「ごめん、ごめんね。本当にごめんね。私の勝手な躾で、私の甘さで、君をこんなにも我儘に育ててしまって。でも君には絶対に幸せになってほしかったから、君の欲望は全て叶ってほしかったから、星の数ほどの人たちを苦しめてしまった。それによってノルをこんな行動に出させちゃうくらいに苦しめてしまった。謝っても許してもらえないと思うけれど、本当にごめんなさい」
彼女の柔らかく、でも力強く僕の両腕を押さえつけるその指が、僕に馬乗りになって体重をかけるその温もりに満ちたその重さが。僕の身体中の触覚を奥まで支配する。
「だから私は、君をこんな目に合わせてしまった罪を、途方もない人に迷惑をかけてしまった罪を、償うために。私は君に全力の、この世界で実現できる中の最高峰の幸せを。私が作ってあげる」
なんだか、彼女の全てが頭の中でぐるぐるして、何も動けない。頭が真っ白になって、何も考えることができない。
「私は、君と同じだった。親に捨てられて、孤児になって。親の、家族の愛を何も知らずに何十年も生きてきた。だから私は警察署の前に捨てられた君を私に重ねて、君を拾った。君に、愛とは何かを知ってほしかった。私も、愛とは何かを知りたかった。歪んだ形かもしれないけど、こうやって君がやりたいことをすべて叶える。これが私の愛だった」
「…………………………………………」
「だけど結果的に、君がこうやって自身の物語を自分で終えようとしてしまうくらいに、私が君の生きる意味を奪ってしまった。だから新しく、私が君の生きる意味を提案するよ」
「…………………………………………」
「私は君を、ここまで愛してる。本当に、大好きなの。でなければ君をここまで育てられていない……」
「…………………………………………」
「だからノルは私を、同じくらいに。
いや、それ以上に。思いっきり愛して………?」
「…………………………………………」
これが、彼女の。このおばさんのような少女の、望んでいること………? 僕が好き勝手に、欲望を満たすことが。ミアナシという人間の、幸せ……………?
……………そんなの、肯定しない選択肢は無い。僕が好き勝手にやることで、それで本当に、彼女が幸せになれるなら……………。
こくん、とひとつ頷いてしまった。
「私は君に、幸せな人生を送ってほしかった。大切な友達を作って、大切なお嫁さんを見つけて、その人たちにめいっぱいの幸せを分けてあげてほしかった。だけどお話が変わっちゃった。……私は君が大好きだ。君を育てていて、君がこんなことを目論んで。君を失うと思ってしまったら、と。自覚しちゃったんだよ。………恋人のような、母親のような。よく分からない感情だけど、君を私だけのものにしたくなってしまった」
「…………………………………………」
「ねえ…………ノル…………
君を、私のものに………………しちゃって、良いかな?」
おばさんであり、少女でもあるように見えるそこの人間・ミアナシは、僕に顔を近づけて。僕の口を柔らかなもので塞いだ。
その、華のような、何らかの甘い味が。僕の味覚を支配して。
……………僕は、完全に。彼女に全てを支配されてしまった。
*
結局、僕はその選択が合っているかどうかなんて、全く知る由がなかった。だって僕が今までずっと欲望に忠実だったのは、彼女がそう望んで、結果その実を結んだ。それだけの話だった。
……ここは、どこだったか。知らない場所だ。
夥しい量の拷問器具が、天井からぶら下がったり、そこら辺に配置されたりとしている中、僕の手足を鎖で壁に繋げて動けなくしている。
「ねぇ………ミアナシ。もっと……殴って?」
この要求に対して、
「はいはーい! 喜んでー!!」
と彼女は返して。
ボグンッ!! べめたーーーんっっ!!!!
「……あはっ★ くふふふふ………」
………心地良い。彼女の拳によって、生きていると感じる。彼女を、感じる…………。
あれから彼女に全てを掌握された僕は、完全な玩具と化した。彼女は、僕がこれ以上死にに行かないように、何処にも行かないように、大事に大事に僕を保管するために。定期的に分からせてくれるようになった。
彼女は僕に離れないことを望んでいて。僕は、ただただ生きて、彼女をずっと感じることを望んでいる。彼女に、生きることを望んでいる。
「ノルが、悪いんだよ? ノルが、急に何処かに行って、消えちゃおうとするから………。
私、私は…………。君を、離せなくなっちゃった♡」
ボグンッッ!!!ドグンッッッ!!!!!
グヂャアアァアアアンッッッッッッ!!!!!!
常軌を逸した彼女の拳で僕の頭の皮膚がひしゃげて、何やら温かいものが流れる。
………赫い。紅い。緋い。
生命を感じる神秘的な赤が、頭から流れる。
「ミアナシも、悪いよ…………? ミアナシが、あの時……僕のすべてを満たして、支配しちゃったんだから!」
「…………ふふ、お互い様だねー!」
笑い合う。お互いに無邪気に、柔らかな笑みをこぼす。
「………お腹が空いた。焼きそばパン、買ってきて」
こんなパシリの典型的な要求だったりも。
「はいはーい♪ ノルのために私は何でもするよー!」
僕の欲望通り、せっせと動く。
「……ねぇ、人間って美味しいの?」
こんな冗談にも。
「私が狩ってこようか? 絶対に証拠を残さない完璧な殺人計画を考えて、とびっきりに美味しく料理してあげるよっ♡ まーたーはー………、私を別の意味で食べたいってコト??」
こんな風にマジレスされたり。
一般的に見れば、僕が良い年した大人になってもぐうたらと、僕が自殺未遂を犯す前や、馬鹿ガキだったあの頃よりも一層深く身勝手になって、彼女のすごく若かった見た目も、その青みがかった黒髪だけは年を重ねるたびにどんどん白くなっていった中。僕が腹を醜く肥やしても、ずっとずっと僕の欲を喜んで叶えてくれた。本当に異常な、周りからの視線が痛すぎる。そんな汚い一家だった。
だけど、僕たちはすごく、すごくすごくすごく、幸せだった。本当に。……僕が身勝手に欲望を叶えて、それで喜んだ僕の顔を見て、自分も嬉しそうな顔を浮かべるおばさんであり少女でもある人間。本当に、クソみたいで。醜い欲望に塗れた僕たちの望みが、最高で、最悪の形に叶ってしまったのだから。絶頂を感じずにはいられないだろう。恋でもない、家族でもない、そんな不可解なつがいが。とある世界に存在していた。
——たぶん、これが。
僕にとっての、幸せだったのだろう。
……………とまあ、こんな形で。彼女がその物語にピリオドを打つ瞬間まで。僕たちは幸福の絶頂を味わって、僕の、この世界での物語は終幕を迎える。最高のハッピーエンドであり、最悪のバッドエンドの、そんな終幕。
…………………え? 僕はどうやってその物語を終えたのかは、また別の話だよ。この世界の全てが終わる頃には、それが明らかになるかもね。
……………………ブツン。
*
そんな世界の、二人の物語のうちの一部を観測した青年は「うむ……」と何かを悩むように、考え込むように。そんな唸り声をひとつ上げる。
それを大きなモニター越しで覗いていた青年は、無限に広がった世界の外の、真っ暗な隔たりにて。男にも女にも似つかない声音で呟く。
「これもまた、何らかの幸福の形のうちの一つではあるか。何とも理解し難く、何とも醜い形ではあるが、本人たちが幸福であればそれでハッピーエンドなのだろうか? うむ…………何とも理解不能だ……」
青年の年の頃は二◯代前半ほどだろうか。背中まで伸びる長い髪と、少女のような華奢な体躯が特徴的である。
「ただ、彼があの世界で願った望みは、果てしなく歪んだ形ではあるが。そこでは何とか叶っていたようだね。ようやく彼女の呪いから、彼は解放され始めたのかね? 本当に、何とも悲しく歪んでしまった形ではあるがね………」
青年は何か興味深げに、キーボードをカタカタと叩き始める。
「今回は短く、不可解な方向で望みが叶えられたが、どうにか二人が真の意味でハッピーエンドを迎えられるような世界線は無いものか………?」
再び青年はひとつ唸って、莫大な量のファイルの内の一つをテキトーに選んでクリックし、それを開いた。
『ファイル名 : 迷惑の償い Deleted Data』
*
彼女が消えてから、どれほどの時が経ったのだろう。何年?何十年? ──いや、それ以上かもしれない。僕の髪の長さは身長を越し、今もなお伸び続けている。だけど何故なのか。腹も身体も果てしなく醜く肥やして、永久的な身体の汚れもずっと蓄積してきているというのに、僕の身体は全く老いる気配が無い。
何故なのだろう? 通常、人間の寿命の限界は一三〇歳ほどなのだろうが、それ以上の年を重ねても、僕の物語にエンドロールが流れることはなかった。ずっと、彼女の物語が終われば僕の物語もじきに終わると思っていた。彼女は一体、僕に何をした?
そんなことを考えながら、僕はほんの少しの雑音ひとつも感じない自室の中心で仰向けになって、ぼんやりとヒビの入った天井を眺めていた。
いつからこうしていたのだろうか?
髪と髭がまた一段と伸びている。また何年か過ぎてしまったか。………いや。そんなことを考える必要はないか。いついかなる時であろうと、何を考え、何をするか。何を食して、どう動くか。全てを僕が決められる。誰の存在も、気に留める必要はない。それが、もう消えてしまった彼女と、まだ消えられない僕の願いだった。彼女と僕以外、僕にとっては要らなかった。
「君の望むままにして良いんだよ、✖︎✖︎?」
彼女がまだ存在していた時、毎日のようにその言葉を僕の耳に囁かれていた。この状態こそが、彼女の望みであり、僕の望みだった。けれど、何十年か過ぎた後に彼女の残した遺産は尽きて、流石に思うように望みは叶えられなくなっていった。やがて彼女は動かなくなって、僕は一人でずっとこの部屋で考えごとをして、寝て。そこら辺の草を食べるのを繰り返していた。
……だけど、気がつけば周辺の人間もいなくなって、誰も僕たちを注意する者と、僕たちを蔑む目はなくなった。だからこそ誰の目も気にする必要はないし、誰の気持ちも考慮する必要もない。
「ねえ…………✖︎✖︎…………
君を、私のものに………………しちゃって、良いかな?」
……………これは、誰の言葉だったか? もう、思い出せない。
「自由と自分勝手は違う」
僕にとっての太古の昔、中学の頃だったか。偉そうな教師がそう、何回かそう僕を注意していた。自由を手に入れた僕からすれば、どちらも全く違わない。違っていたとしても、そんなのはもう関係ない。
そんな言葉は、自由を手に入れられない人間の負け惜しみでしかない。だからこそ、みんないなくなった。
「…………ふっ、ざまぁみろ」
何十年ぶりだろうか、僕の喉から音が発せられる。音が空気を揺らし、僕の口から発声する空気から、何やらニオイを感じた。………臭い。まるで、何年も放置された犬の死骸のようなニオイだ。
どうやら入浴や歯磨きも僕の自由にしていた場合では、ニオイという問題までも自由にならないらしい。少々面倒くさいな。
だとすると、ひとつ寝る前にどうにか冷凍っぽく保存した肉からも形容し難いニオイが漂っていそうだ。
…………ま、いっか。
それについてどう考えて、どう処理するのか、全部。
──すべてが、僕の自由だ。
そうして、再び眠りにつこうとした瞬間。
ずっと前に長年の劣化によって崩れて外観が剥き出しになった壁の向こうに、眩しい光を感じた。
「……………………………?」
その正体が気になって、確かめようと光の方向に振り向くと。
「─────────────」
そこに、神様なのか、悪魔なのか。
よく分からない存在が、そこに存在していた。
最後まで読んでくださった知的生命体の皆様
本当にありがとうございました
この物語はどうでしたか? 読んでいて不快でしたか?
この文章に負の感情を抱きましたか?
それとも 何らかの楽しみになったでしょうか?
どちらであろうと ここまで読み進めてくださった
知的生命体の皆様に 心からの感謝を……
この物語を読んで 何か思うところがあれば
コメントか何かで書き込んでください
ただ貴方が私に対し
何らかの貶し言葉が浮かぶ知的生命体の方々であれば
どうやら貴方は私と合わないのでしょう
この私の文章から離れて忘れることをお勧めします
私は人間を知りたいです
だからこそ この文章を記しました
色々歪みます 気分が進めば謎のものを書きます
冒頭の通り そういったものが苦手な
観測者様には これから私の名前が出てきた瞬間に
ブラウザバックをすることを強く進めます
それ以外の知的生命体の方々は とりあえず
読みたい欲望があれば読み
それ以外であれば放置してください
私はこの世界のどこかに存在しているだけの
膨大にあるなかの 一つの泡なので。




