第11話 『帝国法の罠──公爵の策略が領地を揺るがす』
第11話 『帝国法の罠──公爵の策略が領地を揺るがす』
砦防衛戦から三日後。
グレイヴ村は静けさを取り戻し、領民たちはロイドたちの勝利を称えていた。
「領主様のおかげで助かりました!」
「砦がなかったら全滅してたよ!」
ロイドは照れくさく笑いながら、皆の声に応えていた。
(……本当に良かった。
みんなが無事で)
だが──その平穏は長く続かなかった。
◆ ◆ ◆
[帝都からの“黒封筒”]
中心街の執務室に戻ると、机の上に黒い封筒が置かれていた。
「ロイド様……これを」
セバスが差し出した封筒には、帝国の紋章が刻まれている。
ロイドは嫌な予感を覚えながら封を切った。
中には、一枚の勅命書。
レベッカが読み上げる。
「……“エヴァレント領は、帝国法第七十二条に基づき、
帝都監査官による特別査察を受けるものとする”」
ロイドは眉をひそめた。
「特別査察……?」
リディアが険しい表情で説明する。
「帝国法第七十二条──
“領地の治安悪化、経済不振、魔物被害の増加が見られる場合、
帝都が強制的に領地を査察し、領主の交代を命じることができる”」
ロイドは息を呑んだ。
「……まさか、公爵が……!」
レベッカが頷く。
「はい。
魔物の大群を誘導したのは、
“治安悪化の証拠”を作るためです」
ロイドは拳を握りかけ──
静かに、しかし強く指先に力を込めた。
(……戦いだけじゃない。
今度は“法律”で攻めてきたのか)
◆ ◆ ◆
[帝都監査官、到着]
その日の午後。
豪奢な馬車が中心街に到着した。
馬車から降りてきたのは、冷たい目をした男。
「帝都監査官、ヴァルター・グレイムだ。
エヴァレント領の査察に来た」
ロイドは前に出て、丁寧に頭を下げた。
「ロイド・エヴァレントです。
どうぞ、領地をご覧ください」
ヴァルターは鼻で笑った。
「ふん……若造領主が。
魔物の大群を招き、領民を危険に晒したと聞いている」
ロイドは言い返したくなるのを必死に抑えた。
(……挑発だ。乗ったら負けだ)
レベッカが小声で囁く。
「ロイド様、冷静に。
監査官は“粗探し”が目的です」
リディアも続ける。
「証拠は揃っています。
堂々としていれば問題ありません」
ロイドは深く頷いた。
◆ ◆ ◆
[監査官の“偏った査察”]
ヴァルターは各町を巡り、次々と問題点を指摘していく。
「砦の完成が遅れている。
領主の指揮不足だな」
「水路工事に予算を使いすぎだ。
無計画の証拠だ」
「交易路の整備?
そんなもの、帝都の許可なく勝手にやるとは……」
ロイドは歯を食いしばった。
(……全部、改革の途中なのに。
完成していない部分だけを見て、悪意を持って評価している)
レベッカが小声で言う。
「ロイド様。
監査官は“結論ありき”で動いています。
このままでは……」
リディアが静かに言葉を継ぐ。
「……“領主交代”の勧告が出されます」
ロイドは息を呑んだ。
(……そんな……!
ここまで頑張ってきたのに……!)
◆ ◆ ◆
[領民の行動と"団結力"]
その時。
「監査官様! ちょっと待ってください!」
グレイヴ村の村長が駆け寄ってきた。
「砦のおかげで、魔物の被害が減ったんです!
領主様は、私たちを守ってくれました!」
ミルダの丘の農民たちも声を上げる。
「水路ができて、作物が育ち始めたんです!
領主様がいなければ、村は滅んでいました!」
ハーベン町の商人たちも続く。
「交易路が整備されて、商売が戻ってきたんだ!
領主様は本当に頑張ってる!」
オルド街の住民たちも叫ぶ。
「治安が良くなったのは、領主様のおかげだ!」
ヴァルターは驚き、後ずさった。
「な、なんだこれは……!」
ロイドは胸が熱くなった。
(……みんな……!)
レベッカが微笑む。
「ロイド様。
領民の声こそ、最大の証拠です」
リディアも頷く。
「監査官も、無視はできません」
◆ ◆ ◆
[監査官の判断]
ヴァルターはしばらく沈黙した後、深くため息をついた。
「……領民の声は、確かに聞いた。
エヴァレント領の改革は、一定の成果を上げていると認めよう」
ロイドは息を呑む。
「では……」
「だが──
“完全な免除”とはいかん。
半年後に再査察を行う。
それまでに、改革をさらに進めてみせろ」
ロイドは深く頭を下げた。
「……はい。必ず」
ヴァルターは馬車に乗り込み、去っていった。
◆ ◆ ◆
[公爵の怒り]
帝都ゲルドラン邸。
「……査察が失敗した、だと?」
公爵は怒りで机を叩き割らんばかりだった。
「領民が庇った?
あの小僧……どれだけ運がいいんだ!」
側近が震えながら言う。
「公爵様……次の策は……?」
公爵はゆっくりと笑った。
「決まっている。
“帝国議会”を動かす。
法で駄目なら、政治で潰すまでだ」
その目は、魔物よりも冷酷だった。
◆ ◆ ◆
[ロイドの胸に宿るもの]
夜。
ロイドは砦の上で、静かに空を見上げた。
(……領民が俺を信じてくれた。
だからこそ、もっと強くならなきゃいけない)
レベッカが隣に立つ。
「ロイド様。
今日のあなたは、立派な“領主”でした」
エルナが笑う。
「領民にあれだけ慕われてるんだもの。
胸を張りなさいよ」
リディアも静かに言う。
「次は“政治戦”です。
覚悟を決めてください」
ロイドはゆっくりと拳を結んだ。
(俺は──絶対に負けない。
この領地を守り抜くために)
こうして、
“政治戦編”が幕を開ける。




