第10話 『異常個体《ブラックホーン・キング》──砦総力戦、激化!』
第10話 『異常個体──砦総力戦、激化!』
北の森の奥から、地鳴りのような振動が響いた。
木々が揺れ、鳥が一斉に飛び立つ。
「ロイド! 来るわよ……!」
エルナが塔の上から叫ぶ。
その声には、普段の冷静さとは違う“恐怖”が混じっていた。
ロイドは剣を構え、森の奥を見据える。
そして──それは姿を現した。
◆ ◆ ◆
[異常個体出現]
黒い巨体。
全身を覆う硬質な毛皮。
額には、漆黒の巨大な角。
《ブラックホーン・キング》──
通常のアースベアの三倍以上の体躯を持つ、異常個体。
バルドが目を見開く。
「おいおい……あんな化け物、聞いたことねぇぞ!」
レベッカが険しい表情で分析する。
「ロイド様……あれは“自然発生”ではありません。
魔物の巣を刺激し、強制的に進化させた……
公爵側の禁忌の手法です」
ロイドは歯を食いしばった。
(……公爵。
ここまでして領地を潰す気か)
ブラックホーン・キングが咆哮を上げる。
その声だけで、砦の壁が震えた。
「来るぞ!!」
◆ ◆ ◆
[砦総力戦、開始!]
巨体が地面を蹴り、砦へ向かって突進してくる。
「防壁が持たねぇぞ!!」
バルドが叫ぶ。
「エルナ! 弱点を狙え!」
「わかってる! でも……硬すぎる!」
エルナの矢が何本も放たれるが、毛皮に弾かれてしまう。
ラウルが叫ぶ。
「ロイド様! 正面からは無理だ!
側面か、足を狙うしかねぇ!」
レベッカが即座に指示を出す。
「全員、左右に散開!
正面は囮部隊だけ残して、側面から集中攻撃を!」
ロイドは剣を握り直し、声を張り上げた。
「みんな、俺に続け!!」
◆ ◆ ◆
[側面攻撃作戦]
ロイドが先頭に立ち、側面へ回り込む。
兵士たちが続き、バルドが罠を仕掛ける。
「ここだ! 落とし穴、起動!!」
ブラックホーン・キングの足元が崩れ、巨体が一瞬だけバランスを崩す。
「今だ!!」
ロイドが跳び込み、剣を振り下ろす。
「はぁぁぁぁッ!!」
剣が毛皮を裂き、血が飛び散る。
だが──
「ぐっ……硬い……!」
深くは刺さらない。
エルナが叫ぶ。
「ロイド! 角を折れば弱体化するわ!」
レベッカが続ける。
「角は魔力の集中点です!
あれを破壊すれば、力が大幅に落ちます!」
ロイドは息を呑んだ。
(……角を折る。
それしかない)
◆ ◆ ◆
[ロイド、決死の突撃]
ブラックホーン・キングが怒り狂い、砦へ向かって再び突進する。
「防壁が……持たない!!」
バルドが叫ぶ。
ロイドは剣を握り、走り出した。
「ロイド様!? 危険です!!」
レベッカの声が響く。
だがロイドは止まらない。
(守るんだ……
この領地を……
みんなを……!)
ロイドは巨体の正面に飛び込み、角へ向かって剣を振り下ろす。
「うおおおおおッ!!」
剣が角に当たり、火花が散る。
「折れろぉぉぉ!!」
バキィィィン!!
角の先端が砕けた。
ブラックホーン・キングが苦しげに咆哮し、動きが鈍る。
「今だ! 総攻撃!!」
エルナの矢が飛び、兵士たちが槍を突き立てる。
バルドの罠が次々と発動し、巨体が崩れ落ちる。
そして──
ロイドの最後の一撃が、魔物の心臓を貫いた。
「……終わった……!」
砦に歓声が響き渡った。
◆ ◆ ◆
[しかし──公爵の陰謀は続く]
その頃、帝都ゲルドラン邸。
「……異常個体が倒された、だと?」
公爵はワインを落とし、怒りに震えた。
「小僧が……小僧が私の計画を……!」
側近が震えながら報告する。
「ですが、公爵様……
“次の段階”の準備は整っております」
公爵はゆっくりと笑った。
「よかろう。
ならば次は──
“帝国法”そのものを使って追い詰めてやる」
その目は、魔物よりも冷酷だった。
◆ ◆ ◆
[ロイドの胸に灯るもの]
砦の上で、ロイドは静かに空を見上げた。
(……勝てた。
みんなのおかげで……守れた)
レベッカが隣に立つ。
「ロイド様。
本当に……立派でした」
エルナが笑う。
「無茶しすぎよ。でも……かっこよかったわ」
バルドが豪快に笑う。
「領主様、やるじゃねぇか!」
ロイドは照れくさく笑いながら、静かに拳を結んだ。
(俺は──もっと強くなる。
この領地を守るために)
こうして、砦防衛戦は勝利に終わった。
だが、
公爵の“帝国法を使った策略”が、すでに動き始めていた。




