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プロローグ

 アルドランド帝国の最果て──エヴァレント領。

吹き荒れる風が谷を渡り、荒涼とした大地を切り裂くこの辺境で、ひとりの少年が生まれた。


ロイド・エヴァレント。


彼の母は、ロイドを産んで間もなく命を落とした。

残されたのは、幼い息子と、領主としての責務を背負う父だけだった。


父は不器用ながらも愛情深く、ロイドを育てた。

そして十五歳の誕生日──その日、運命は容赦なく牙を剥く。


《モンスター・テンペスト》──魔物の大侵攻。


辺境の谷で突如として発生したそれは、黒い嵐のように魔物を吐き出し、村々を蹂躙した。

ロイドの父は領主として軍を率い、最前線へと向かった。


「ロイド。必ず戻る。……領民を頼むぞ」


それが、父の最後の言葉だった。


激戦の末、魔物の群れは退けられた。

だが代償はあまりにも大きかった。

父は深手を負い、帰らぬ人となった。


ロイドは天涯孤独となり、十五歳にして領主の座に就くことになる。


◆ ◆ ◆


それから三年。

十八歳になったロイドは、幼馴染のメイド・リーナと、寡黙な執事セバスに支えられながら、どうにか領地を守ってきた。


だが現実は厳しい。


魔物の襲撃は止まず、畑は痩せ、作物は育たない。

流通は途絶え、領民の生活は苦しくなる一方だった。


「領主様……このままでは……」


不満の声が、少しずつ、しかし確実に広がっていく。


そんな折──帝都から豪奢な馬車がやって来た。

降り立ったのは大貴族ゲルドラン公爵家の使者。


「ロイド殿。領地の経営は限界だろう。我々に明け渡すのが賢明だ」


「……断ります。この地は、父が命を懸けて守った場所です」


使者は薄く笑い、何も言わずに立ち去った。


嫌な予感だけを残して。


◆ ◆ ◆


数日後。

再び公爵家の使者が現れ、一通の書状を突きつけた。


──皇帝の名で記された勅命。


『半年以内に経営不振を回復できなければ、エヴァレント領を没収し、領主を交代させる』


「……これが現実だ、ロイド殿。せいぜい足掻くといい」


ニヤニヤと笑いながら、使者は去っていった。


ロイドは拳を握りしめた。

悔しさと無力感が胸を締めつける。


◆ ◆ ◆


その夜。

書斎でひとり、机に突っ伏していたロイドの前に──光が満ちた。


「……え?」


光の中心に、白い衣を纏った女性が立っていた。

その姿は、古い伝承に描かれていた“創造の女神アウレリア”そのものだった。


「ロイド・エヴァレント。あなたの苦悩、努力、そして願い……すべて見ていました」


「女神……アウレリア様……?」


ロイドの一族は、かつて女神と深い信仰の絆を結んでいた。

だが、まさか本当に姿を現すとは思わなかった。


女神は優しく微笑む。


「あなたはまだ終わっていません。

 この地を守りたいという想い──それこそが、あなたの力となるでしょう」


女神の手がロイドの胸に触れた瞬間、眩い光が身体を包む。


──《スキル:職人ガチャ》が覚醒した。


「これは……?」


「あなたの領地を再び繁栄へ導くための力。

 防衛、経済、流通、娯楽……あらゆる分野の“職人”を呼び出す力です」


ロイドは息を呑んだ。


「ロイド。あなたは一人ではありません。

 この地を守りなさい。あなたの手で──」


そう告げると、女神の姿は光となって消えた。


静まり返った書斎に、ロイドの鼓動だけが響く。


「……守る。必ず、この地を……」


若き領主の運命は、ここから大きく動き出す。


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