回想
2
吾は視覚を持たぬ。
先に述べたモノは基本、音や感覚にて判断をしている。
だが、――言っても信じぬかもだが――。
⋯⋯意味が分からないだろう。
その、『おなご』をその刹那。地についた刹那。その姿を見たのだ。
―――美。それを初めて捉えたのだ。
嗅覚や聴覚などではない。はっきりと、確認したのだ。
奇跡とは、こういう事を指すのだろう。
その妖。――いや、女神は吾を見て微笑んでいたのだ。
―――だから、その容姿を説明など出来ぬ。
色というものを説明されても理解は出来ぬ。
その一瞬のみ視覚を得たのだ。
そのおなごの匂いのみ、はっきりと覚えている。
⋯⋯桔梗のような、馥郁とした香り。それに血の匂いが混ざっていた。
声色は覚えていない。
だが、鶯のようだった氣がするのだ。
――虚言では無い。曖昧なだけだ。
―――そのおなごに対し、吾は問うたのだ。
「吾を合戦で打ち負かしてまで欲しいものは何か?」
「それとも、吾を殺すことで人間側に見栄を張るためか?」
対し、おなごはなんと返したか?
―――妖と人間の調を計る為、貴殿を刈った。
無駄な殺しはせずとも、双方の最大の利となるための尽力。その第一歩だと。
―――その旨をすぐに理解できたと思うか?
――否。吾は殺生を所望した。
理合いは二つ。
当時の落ち武者というのは死が決定づけられていたらしい。
それが理だと無意識に信じていたというのが前。
もう一方。
妖同士の戦、または人間との戦における命の取り合い。
その戦での敗北というのは『命を奪う』ことを前提にしているのだ。
以上の信条に基づいた答。それが『殺生の所望』だったのだ。
―――だがしかし、おなごは赦してはくれなかった。
⋯⋯馬鹿馬鹿しいと、吾に吐き捨てた。
妖同士の戦というのは、先方を喰らうことで決着する。
―――だが、おなごは肉吸いだった。
つまるところ、ヒトの肉しか喰らわない。
吾の血肉にはもとより興味などあるはずがない。
だから一半はすぐに腑に落ちた。
だが、もう一半。
――ならばなぜ、『調を図ろう』などと、口を開くのか?
最期の力を以て、奴の口を二度と開けぬようにしてやろうかと――気が湧いた。
―――無き牙を剥き出しにして飛び掛かる。
しかし、吾は出遅れたのだ。
―――おなごに出し抜かれた、その瞬く間に――。
⋯⋯吾は頭を、諄々と撫でられたのだ。




