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カルバトの塔 14

遂に5000アクセス(ユニーク)を達成いたしました……感無量です(TーT)皆様本当にありがとうございますm(__)m今後とも、少しでもおもしろい小説にするべく努力していきますので、この先もお付き合いのほど、よろしくお願いします。

「何の音かしら?」

「下がっていろ」

 声も顔付きも厳しくラインが言って、メルメルとトンフィーは寄り添うようにラインの後ろに下がった。

 カシャン……カシャン……カシャン……カシャン……

 音は、だんだん大きくなってきていた。静寂した広間に鳴り響く不気味な音に、メルメルとトンフィーはドキドキとしてきて、お互いの手をギュッと握った。

 カシャン……カシャン……

「――!」階段の上から黒い足の先が現れて、トンフィーは一瞬ビクリとする。

 ラインが右手のスリッフィーナの剣を構えなおし、「まさか……」何がまさかなのか、そう呟いた。

 カシャン……カシャン……カシャン……カシャン……

 一歩階段を降りる毎に不気味な音を響かせ、徐々に明らかになってきた姿にメルメルとトンフィーはゴクリと息を飲み込んだ。

 その男は――上から下まで真っ黒な甲冑をつけて、右手に大きな抜き身の剣をぶら下げていた。

 二人が男だと思ったのは、単純に女性にしては背が大き過ぎるという理由だけで、全身にまとった鎧は体のラインを隠すどころか、顔までも完全に覆ってしまっているから、実際には男だという確信があるわけではなかった。その鎧の人物は、今やメルメル達の近くまで寄って来て無言のまま立ち尽くしている。

「まさか……こんな所で貴様に会うとはな。……随分久しぶりじゃないか」

 やけに気さくなラインの言い方に、メルメルは驚いてその背中を見上げた。

(お友達なのかしら?)

「…………」

 特にラインの言葉に答えようともしないで黙ったままの鎧の人物に、メルメルは眉をひそめる。

「相変わらず無口な奴だな――黒騎士よ」ラインはわずかにからかうような調子で言った。

「…………」

 ――黒騎士。それがこの鎧の人物の呼び名なのだろうか? だとすれば、ちょっと親しい友達とは言いがたいかもしれない。メルメルは首を捻って、もう一度鎧の人物――黒騎士なる者をじっくり見つめた。とても重厚感のある鎧だ。先程までの音は、この鎧が歩く度に擦れて出ていたのだろうが、こんな重そうな物を着ていては上手く動く事が出来ないのではないのかと思えた。それから、右手にだらりと下げた大きな剣。その刃はギラリと黒光りし、そこからもやもやと湯気のようなものが出ている。一体どんな素材を使っているのだろうか? 

 不思議に思って見つめていると、黒騎士がその剣をゆらりと持ち上げた。

「………………?」

 

 ガキーン!


「――!」

 突然目の前で起こった出来事に、メルメルとトンフィーは目が点になってしまった。

 全身に重そうな鎧を着ているとは思えないような素早さで、大きな間合いを一気に詰め、黒騎士がこちらに襲いかかって来たのだ。

 ラインが軽やかにその剣を受け止めていた。そして、ちらりと後ろを振り返る。

「あわわわ……」

 不意の出来事に驚いて、トンフィーが転びそうになっているのを支えながらメルメルは壁際まで後ろに下がった。ラインと黒騎士は剣を合わせたまま睨み合っている。するとラインがまた一瞬、後ろを振り返ってメルメル達の方を見た。その瞬間を逃さず、黒騎士が合わせた剣に力を込める。

「くっ……!」

「ら、ラインさん……!」

 一気にラインの体が後ろに押されるのを見て、メルメルは拳を胸の上で握りしめた。そして、今や完全に「お友達」の可能性が無くなった黒騎士をムッと睨み付ける。

「お前と……力勝負をする気は……無い!」「――!」


 キン! ――ガキーン!


 ラインは一度相手を突き放すように後ろに引くと、すぐさま左手にカルバトの剣をスラリと抜き、立て続けに黒騎士に襲いかかった。

 キン! ガキン! キン! ガキン!

 息もつかせず切りかかるライン。しかし黒騎士も呆れる程の俊敏さでその剣を全て受けている。

「な、なんて早いんだ!」「あんな重そうな鎧をつけているのに……」

 メルメルは握り締めた拳に汗を掻いてしまった。まさかラインが負ける事はないとは思うが、明らかに今までの敵とはレベルが違う。メルメルは、トンフィーの手を握り締めた方の手にぐっと力を込めた。

「いてててて……」

 痛みに、思わずトンフィーが体を曲げる。その時、またラインがちらりと二人の方を見た。

 

 ガキーン!

 ズザーーーー!


 その瞬間を見逃さず、ずっと受け身だった黒騎士がラインの攻撃を受けた剣に渾身の力を込め、跳ね返してきた。ラインは不意をつかれたように後ろに飛ばされる。

「ラインさん! ――!」

 ガキーン!

 ラインは、すぐさま起き上がると同時に地を這うように駆け出し、黒騎士の足元に切りかかった。それを、剣を地面に突き刺すように黒騎士は受け止める。くるりとラインは滑らかに体をひねり、黒騎士が体制を立て直すよりも先に、カルバトの剣を相手の頭目掛けて振り下ろした。

 

 ガキーン!


「――ああ!」「う、腕で……!」

 剣で受けるのは間に合わない。決着はついた。そう――メルメルとトンフィーは一瞬思った。ところが、黒騎士は左手を顔の前に掲げ、ラインの剣を受け止めてしまったのだ。

「そんな!」メルメルが悲鳴をあげる。

 鎧をつけているとはいえ、あのカルバトの剣を腕で受けるなんて――。

「メルメル……ちょっと……」もぞもぞと、トンフィーが握り合っていた手をほどいた。

「……トンフィー?」メルメルはどうしたのかと首を捻る。

 トンフィーは自らの体に引っ掛けていた弓を取り外し、矢をかけた。

 ギリギリギリ……。

「うぐぐぐ……」「――トンフィー!」

「も、もう少し……離れて、くれれば……」

 トンフィーは黒騎士を狙って打ちたいのだが、ラインに当たってしまいそうで恐くて矢を放てずにいる。それでも、慣れない弓を使って懸命にラインを援護しようというのだ。そんな姿を見てメルメルは自らも何かしなくてはと焦り、戦いに興奮して毛を逆立てているミミとシバの方をチラリと見た。

(――駄目よ。まだ十五分経ってないわ……!)

 二匹が次に変身するのには、まだまだ時間が必要だ。メルメルは視線を二匹から外し、ラインと剣をぶつけ合っている黒騎士を睨み据えた。そして、メルメルが意を決し、ラインにもらった剣を抜こうとした、その時――。

 黒騎士とラインの間にわずかな間合いがうまれた。

「――今だ!」


 ビュー!


 トンフィーの放った矢は、思いの外勢い良く、真っ直ぐに黒騎士目掛けて飛んでいった。

 

 ボウ!


「あ!」「や、矢が……燃えた!」

 黒騎士にぶつかる直前で、矢は燃え上がってチリになってしまった。

「――!」

 その目は兜に覆われて見えないが、確かに黒騎士がこちらを見た気がしてメルメルとトンフィーは背筋をゾクリとさせた。そして、二人に向かって一歩踏み出してくる。

「――どこを見ている!」

 ガキーン! ガキーン! ガキーン!

 ラインが立て続けに攻撃を繰り出す。そうして少しずつ、黒騎士がメルメル達から離れて行く。――いや、離されているのだ。ラインは明らかにそれを狙って攻撃している。

「二人とも、行くんだ!」攻撃の手は緩めないまま、ラインが叫ぶ。「先へ進め!」

 メルメルはぐっと唇を引き結んで、ラインの背中を見た。

 とてもそんなに力があるとは思えない程に、女性らしく滑らかな背中だ。しかし、それでいて無駄な肉のなど一切なく、引き締まったしなやかな背中。あの美しい背中は、見た目よりもずっと大きくて、必死で敵との間に立ちふさがるように、温かく、優しく、メルメル達を守ってくれているのだ。

 メルメルは泣きそうな自分に活を入れるように、よし――と声に出した。

「行こうトンフィー!」

「え……で、でも」

「――いいから!」

 ラインを置いて逃げ出す事に戸惑うトンフィー。それを半ば引きずるようにしてメルメルは上への階段へと走った。

 ――ラインさん! 絶対負けないで!

 メルメルは階段を上がる直前でもう一度ラインを振り返った。黒騎士の剣を両手で受けて歯を食いしばっている横顔が、ちらりと見えた。

 その、おそろしく澄んだ青い目が、一瞬だけこちらに向けられる。


「行け!」


 ラインの叫び声と同時に、メルメルとトンフィーは共に駆け出したのだった。

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