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ミミとシバ 8

 ―― はてさて、その頃のメルメルと言えば……。


「弓の授業ってどんなかしらっ? やっぱりマトに向かって撃つのよねっ? ねっ、トンフィー!」

 もう楽しみで仕方ない、といった様子のメルメル。

 一方トンフィーは、

「ハー……。どうして今日は体育が三時間もあるんだろ……」

 すっかり肩を落としてのろのろと体操着に着替えていた。

「いーじゃない。とっても楽しみだわ!」

 勿論メルメルはとっくに着替え終えて、すっかり準備満タンだ。

「そりゃあメルメルはどんな運動だってお手のもんだからいいけどもさ……ハー」

「何よトンフィー! あなただって得意な運動がきっとあるわよ。例えば……あ! もしかしたら弓が凄く得意な可能性だってあるじゃない? 試してみなきゃ分からないわよ。ちょっと構えてみてよ」

 じっと見つめられて、トンフィーは仕方なしに弓を構えるポーズをしてみた。

「うん! とってもいいわ。きっと上手に打てるわよ」

 メルメルに背中を叩かれて、トンフィーは頭を掻き掻き、ちょっと嬉しそうな顔をした。

「そ、そ~かな~?」

「そんなわけ無いだろうが?」

 またまた二人の後ろからドミニクが現れた。メルメルは怖い顔で振り返る。

「なによ、ドミニク」

 ドミニクがニヤっとして、トンフィーは嫌な予感がした。

「お~いみんな! こいつが弓をかまえたら必死で逃げんだぞ! でないとマトじゃなくて、自分のケツに矢が刺さっちまうからなぁ! ハッ、ハッ、ハッ、ハッー!」

「そんな事ないわよ! 失礼ね!」

 メルメルが怒鳴ってもドミニクは、「ハーッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ!」と笑い続けている。

 その周りで何人かはドミニクに睨まれ仕方なさそうに、「はっ、はっ、はっ……」と笑っていた。

「もう! 行きましょう!」

 メルメルはプリプリしながら、まだ上着の袖を通しきれてないトンフィーを引っ張ってガラガラ! と、ドアを勢いよく開けて教室を出た。

「ドミニクって本当に頭にきちゃう! 何であんなにねじくれてんのかしら!」

 メルメルは怒り冷めやらぬ様子で、廊下をプリプリどんどん歩いていく。

 アケが後ろからチリチリと鈴を鳴らして追いかけて来たのを抱き上げて、トンフィーは慌ててメルメルの背中を追いかけた。

「案外寂しがり屋で、僕らと仲良くしたいだけなのかも知れないよ?」

「まさか! ――か~、やめてよ! 仲良くなんて……」

「ナカヨク! ナカヨクシナキャダメヨ!」

 突然のキーキー声にギョッとして二人は立ち止った。廊下に置いてある止まり木にペッコリーナ先生のペットでオームの「ピッピー」、マーヴェラ園長のペットでカナリアの「トリンケトラ」が寄り添っていた。

「ドウシテケンカバカリスルノ!」

「ダッテ、アノヒトッタラ、クチバッカリデ!」

「ソレヨリキイタ? アノハナシ!」

「キイタ、キイタ! オドロイチャッタ!」

「アハハハハ!」

「ウフフフフ!」

 メルメルとトンフィーは耳を塞いで大急ぎでその場を離れた。あの二匹のお喋り(?)が始まったら一時間は(多分飼い主達はそれに輪をかけて喋り続けている筈なんだ)止まらない。二人は廊下を抜け、校庭に飛び出した。

「あ! ちょっと待って。ちょっとだけあそこに……」

 言いながらメルメルの足は既にそちらに向かっている。トンフィーはその後ろを心得顔でついて行く。向かった先は校舎の裏で、そこにはグターっと横になっているオスライオンの後ろ姿があった。

「クスタフ?」

 メルメルが話しかけると、ピクッと動いて顔を上げ、振り返る。しかし、またすぐやる気なそうにグターっとなってしまった。

 もう一度、「クスタフ?」と呼びかけると、今度は面倒臭そうに尻尾の先を少しだけ上げた。

「よしよし」

 メルメルが満足そうにして校庭に戻って行くのを、トンフィーは慌てて追いかける。

「どうしていつもクスタフに会いに行くの?」

「う~ん……会いに行くっていうか、確認してるのよ」

「確認?」

 トンフィーが目をパチクリさせて言うと、メルメルは大きく頷いた。

「あんまりヨボヨボのクタクタだからね。ちゃんと今日も生きてるかなって、心配になるのよね」

「なるほど。確かに、ほとんど動かないもんね。ドラッグノーグ先生、ちゃんとかまってあげてるのかな? ご飯とかさ」

 クスタフはドラッグノーグ先生のペットなのだ。

「餌は貰ってるみたいだけど、ほとんど面倒見てるのはペッコリーナ先生みたいね。自分で面倒見られないなら、ペットなんて飼うなー! って、ドラッグノーグ先生に怒鳴りつけてたもの」

 一番最近聞いた喧嘩の内容だ。

「見栄で飼うな、とも言われてたわ」

 これには、思わずトンフィーは可笑しそうに口元を押さえた。「見栄? クスタフが?」

「だって、仮にも百獣の王よ!」

 メルメルが人差し指を立てながら、わざとらしく真面目顔で言うと、いよいよトンフィーは堪えられなくなった。

「ぷぷ! 百獣の王! クスタフが? アハハハハ!」

「ウフフ! 百獣の眠り王ねきっと! フフフフフ!」

「アハハハハハ~!」

 お腹を抱え、二人で大笑いしながら校庭へと向かう。しばらくすると、校庭の真ん中にたくさんの木の板が立てられていて、それに丸いマトが張られているのが見えてきた。メルメルがワクワクしながらウキウキ歩いていると、校舎の中からペッコリーナ先生が両手一杯に矢を抱えて出て来た。その肩には、ちゃっかり先程のお喋りオウム「ピッピー」が止まっている。

「さー! みなさーん! 始めますよ~!」「ハジメマスヨ! ハジメマスヨ!」

 ペッコリーナ先生が大声で呼びかけると、校舎から出てきたばかりの生徒数人が慌てて走り出した。アケを抱き上げメルメルも駆け出す。後ろから聞こえてくる、「は~……」と言うトンフィーの溜め息を聞きながらメルメルは、「やっぱり、ペッコリーナ先生が教えるんだわ……」と呟いていた。

 集まった生徒の数を確認して、ペッコリーナ先生は満足そうに頷いた。

「それでは体育、弓の練習を始めます」

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