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カルバトの塔 1

「一体どういう事なんだ! この猫助!」

「ミギャ~!」

 再び旅立ったメルメル達一行の前に立ち塞がった、大きな樫の木。その木を挟むように二本の道が斜めに伸びている。

「……ちょっと間違っちまっただけだろ? よしよし……」

 グッターハイムはワーチャを持ち上げて、優しくあやすように右の道へ行こうとした。しかし、

「ミギャ~!」ワーチャは抗議するように鳴いて暴れる。

「いだっ! こ、こら!」

 グッターハイムを蹴っ飛ばして、ワーチャはその手を逃れ猛スピードで走り出した。そうして左手の道へと進み、少し行った所で振り返り、再び、「ミギャ~」と鳴いた。まるで、こっちへ来いと言っているようだ。

「まったく……どういう事なんだ」グッターハイムは頭を抱えた。

「さて、どうしたものかしら……。ねぇ?」ペッコリーナ先生が顎に指を当ててラインを振り仰いだ。

「ふむ……」ラインは腕を組んでワーチャを見つめている。

 メルメルとトンフィーは分かれ道の真ん中、つまり樫の木の前にさされた立て札を見つめた。右を向いた板には『ミデル』左を向いた板には『カルバトの塔』と書かれている。

「――ふんっ。所詮は猫助だからな。行き先を間違えちまってるんだろう……。よし! ミデルはこっちだ。みんな行くぞ!」

 グッターハイムはひらりと馬に跨り拳を掲げ、ずんずんと右手の道を進んで行った。その背中がどんどん小さくなって行く。それを見送って、メルメルとトンフィーは顔を見合わせた。

「でも……。――ねぇ?」メルメルが呟く。

「今まで迷いなく進んできたのに、急に行き先を間違えたりするかな?」

 トンフィーは首を捻りながらワーチャを見た。ワ~チャはメルメル達が動き出すのを根気良く――と言うよりは、のんびりと寝そべってくつろいぎ、大欠伸をしながら待つつもりの様だ。

「この、『カルバトの塔』ってどんな所なのかしら?」メルメルは木に書かれた文字を指差した。

「昔――今から五百年くらい前、この辺りはまだカルバト族の領土だったんだ。その頃、カルバト族が建てたから『カルバトの塔』と呼ばれているんだよ」

「カルバト族?」ニレの説明にメルメルは首を傾げた。

「あらメルメル……。まるで初めて聞いたような顔ね? この間の歴史の授業で出てきたはずだけれど?」

 少し意地悪な顔でペッコリーナ先生が言って、メルメルは思わずおでこに汗を掻いてしまった。

「あ、あー……。カルバト族……あー……」メルメルは助けを求めるようにトンフィーを見る。

「えっと――カルバト族は手先の器用な部族で、主に武器や防具を作るのを得意としていて、昔はトキアの国とも仲良くやっていたんだよね。ほら、トキアにはあの――例の石が、あったから……」

 トンフィーの言葉は最後の方がやけに小さくなってしまった。そんなトンフィーにちらりと視線を投げてから、ラインが続きを語り始めた。

「トキアの国で取れる命の石は、たくさんの魔力を含んでいる。それを使ってカルバト族が作る武器や防具は、とても性能が高いと各地で評判だった。しかし、ある時仲良くやっていたカルバト族とトキアの国の間で争いが起こった。何故争いが起こったのか――トンフィーなら知っているんじゃないかな?」

 突然ラインに問いかけられて、トンフィーは驚いてしまった。

「え……? ――あ、はい! か、カルバト族が、と、トキアの国の領土を侵したと言って、トキアの国の、じょ、女王が怒ったからです!」

 トンフィーは顔を赤らめてつっかえつっかえ喋った。ラインは少し苦笑いのようなものを浮かべて頷いた。

「その通りだ。カルバト族とトキアの国は争い、結局トキアの国が勝利を収めカルバト族はこの地を追いやられ、姿を消した。その時の争いで、カルバト族が建てた見張りの為の塔が、『カルバトの塔』と呼ばれるものだ」

 ラインの言葉にメルメルは首を傾げた。

「じゃあ……カルバトの塔って言うよりは元カルバトの塔って感じね。五百年も前に作ったのじゃあ、もう崩れて無くなってしまっているのでしょう?」

「いや……。カルバト族の作る武器や防具があまりに素晴らし過ぎて、そちらの印象ばかりが残ってしまうが、要は、カルバト族とは手先が器用で、何か物を作らせると大概優れた作品が出来るという事なんだ。武器や防具の他にも衣類や食器、装飾品や家具。――そして、建造物を作る技術にも、とても秀でていた」

「凄いのね……。カルバト族って」メルメルは感心したように溜め息を吐いた。

「そうそう。だから、五百年も前に作ったカルバトの塔もいまだに朽ち果てずに残っているんだ。大分傷んではいるけどね」

「すご~い」

 ニレの言葉にメルメルはまたも溜め息を吐いた。どうやらカルバト族にすっかり感心してしまったようだ。

「そうか……」

 何か思い付いた様にトンフィーが呟いた。皆が気になってそちらを見れば、トンフィーは考え込む様に一点を見つめている。

「――トンフィー?」メルメルが首を傾げて覗きこむ。

「うん……。カルバトの塔は、五百年前の争いでカルバト族が敗れこの地を去ってから使われなくなって、勿論人も住んでいないはずなんだ」

 トンフィーの言葉に、ニレが笑った。

「そりゃあそうさ。こんな偏狭の地に、しかもあちこち傷んでボロボロの塔なんかに誰が好き好んで住むもんか。もしも住んでるとすれば――コウモリくらいかな?」

 冗談ぽく言ったニレに、トンフィーは真面目な顔で頷いた。

「生活するには確かに快適ではなさそうだけれど……。悪者の根城としてはどうかな?」

「悪者の根城?」メルメルは首を傾げる。

 トンフィーはメルメルの目をじっと見つめた。

「例えば――さらってきた誰かを閉じ込めて、敵を迎え討つには最適の場所かも知れない」

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