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ミミとシバ 6

 ―― 一方その頃園では……。


「今日はお弁当のデザートに、クリームアップルパイを持ってきたのよ」

 歴史の授業が終わって次の授業までの五分休みに、メルメルはとても楽しみで、思わずトンフィーに自慢してしまった。

「わ、いーなー。おじいさんのデザートは最高だもんね」

「もちろんトンフィーに半分あげるわ!」

「本当に? わ~、嬉しいなー!」

 トンフィーは喜んで、掴んだアケの手を上げたり下げたりしてはしゃいでいる。アケは大人しくされるがままになっていた。先程少しだけからかい過ぎたようで、トンフィーが怒っていたみたいだから、メルメルは半分優しさ、半分ご機嫌取りのつもりで言ったのだ。どうやらそれは成功したようで、トンフィーは口笛まで吹いている。

「お前らの話し声がうるさくて、テストが上手くいかなかったぜ!」

 ドミニクがトンフィーを後ろから小突いた。

「やめなさいよドミニク! テストが出来なかったのはワタシ達のせいじゃなくて、問題を解けるような脳みそが無かったせいでしょ!」

「何だと! お前だって、頭がスッカラカンで木登りが得意な猿女のくせによ!」

「何ですって~!」

「何だよ!」

 トンフィーは、怖い顔でにらみ合っている二人を、どぎまぎしながら交互に見た。

「や、やめなよ二人とも、か、鐘が鳴ったよ~」

 ドミニクは、トンフィーをもう一回小突いてやろうと手を振り上げた。

 そこへ、ガラリとドアを開けて、「おっはよーう! みんな元気かな~?」

 ドラッグノーグ先生が現れた。

「おやおやー、まだ席に着いてない生徒がいまちゅねー」ドラッグノーグ先生はめいっぱい目尻を下げた。「よーし! じゃあ今日は、みんなそれぞれ好きな場所で勉強しようか? じゃあ、私は……ここがい~な~」

 ドラッグノーグ先生は一番前の席に座っている、おさげ髪のリリアンの椅子に無理やり半分座った。リリアンがとても嫌そうな顔をしたが、それにはまったく気付かなかった。

「それじゃあ、調教術の授業を始めますよー」


 ―― 二時間目 調教術 ――


 ドラッグノーグ先生は相変わらず、ウンザリ顔のリリアンの隣に座ったままだ。

「さーて、今日は一年の締めくくりにテストでもしよっかなー」

「えーーー!」

 皆が一斉に不満の声を上げると、ドラッグノーグ先生はやけに満足そうに頷いた。

「何てどっかの鬼ばばみたいなこと言わないよーん。だって、みんなを見てれば分かるんだもん。テストなんかしなくたって、ちゃ~んと真面目に私の話しを聞いてくれている。言われなくても、家に帰れば予習復習を欠かさずしてるなって。ねー、クロックス君」

「え! えーと……」

 ドラッグノーグ先生は、ニッコ、ニッコ、ニッコ、ニッコしながら、可愛らしく(なんてないんだ)首を傾げた。

「だからテストなんてやらなくても平気だよねー?」

 急に言われてふとっちょのクロックスはとっても困ってしまったけれども、テストは嫌だったからあさっての方を見ながら、「あー、はい、平気です……」

 ドラッグノーグ先生は突然真面目な顔付きになって、クロックスの顔をじーっと見つめた。

「調教における二大禁止法は?」

「えっ?」

「禁止法」

「えっと、えっと……。ぺ、ペットは一人一匹以上に首輪をしてはいけない! ――と、あと、あとっ」

 ドラッグノーグ先生はクロックスのあわあわした様子を満足げに見つめた。

「あれ、どうしたの? テストなんてやらなくても平気なんだろ? ほら~、あっとひっとつっ、あっとひっとつっ♪」

「何だっけ……えっと……」

「しょがないなー。他人のペットの首輪を勝手に外してはならない、だろう? 私はすでに園に入る前にこれは知ってたよね。だから、実はこっそり試したこともあるんだよー」

 メルメルは驚いて身を乗り出した。園に入って初めてドラッグノーグ先生の話に興味を持った。

「私は勉強なんて大嫌いでねー、友達と悪さばっかりしてたんだけど、何故か意外に物覚えが良くってね。周りにも良く驚かれたりしてたね。一緒に遊んでばかりいるのに、なんでお前だけテストの点が良いんだよとか友達に言われたりしてね。別にテストとか成績なんて私はどうでも良かったんだけど、一度聞いただけで大体の事は覚えちゃうんだよなー。その気がなくても覚えられちゃうんだよ。そういえば二年生の時こういう事があったんだけど――」  

 ドラッグノーグ先生お得意の『自慢話を織り交ぜた子供の頃の私』の話しが始まってしまったので、メルメルはいつもならほったらかしてうたた寝でもするのだけれど、今日はさっきの話が気になって仕方がなかった。

「先生! ペットの首輪を外した時の話の続きをして下さい!」

「いや、ちょっと待ってね、順序良く色々話してあげるから。それである時、いつも一緒に悪さばかりしてた、足の速いカラカルって名前のクラスメートと――あ、って言っても私の方が速かったんだけどね。私はクラス一、足と食べるのが早かったからねー。その頃近所で評判の噛みつき犬がいてね。カラカルと一緒にその家の庭にこっそり入って、そいつの餌箱を取ってこようって事になってねー。ほら、いわゆる度胸試しだよ。子供の頃はみんなやるんだよねー。君達もやるだろ? でも君達があの頃にいたら、さすがにそんな度胸試しは無理だったと思うよ。だって本当に大きくておっかない犬だったんだから~! 今思えば馬鹿だよね。命の危険もあったんだから。でも何か無謀と言うか、人一倍勇気があったもんだからねー、私は。でも、他のクラスメートは、出来るもんか! な~んて言ったりして――」

 ドラッグノーグ先生の隣では、あまりの機関銃のようなお喋りぶりに(しかも大音声なんだ)リリアンが両耳を塞いでいる。メルメルは段々眠たくなってきたけれど、ペットの首輪を取ると一体どうなるのかが知りたくて、自分の瞼の重さと戦っていた。

「それで噛みつき犬の家に行って、いざ柵を乗り越えて侵入するぞ! って時になったら、カラカルがやっぱり止めようなんて言い出してね。土壇場になって恐くなったんだよ。そりゃあそうだ、こーんな、こーんな大きくて恐ろしげな犬だったんだから。でも私は――」

 メルメルは右の瞼の重さに負けて右目を閉じたり、左の瞼の重さにも負けて変わりに閉じた右目を無理やりこじ開けたりしながら、右、左、右、左、と頑張っていたけれども、気がついたら机に突っ伏して眠っていた。

 カロ~ン クォロ~ンと授業終了の鐘の音が響いて、メルメルはようやくハッと目覚めた。

「……と言うわけで、クラスメートみんな驚いて、私の弟子にして下さい! なんて言い出す奴までいてねー。しかもね――」

「先生! もう鐘がなりましたよ!」

 リリアンが顔を真っ赤にして叫んだ。その様子が、いかにもついに爆発したという感じだったので、さすがにドラッグノーグ先生も焦った様子で立ち上がった。

「あ……そうだねー。うんうん。じゃあ授業は終了で~す」

 言いながらすごすごと教室を出ようとしたので、メルメルは慌てて隣を見た。

「首輪を外したらどうなったか聞いた?」

「その話しは結局してないよ。あふぁ~」

 トンフィーも眠そうに欠伸をしている。メルメルは廊下までドラッグノーグ先生を追いかけた。

「先生!」

「んー?」ドラッグノーグ先生は嬉しそうに振り返った。「メルメルは、よっぽど先生の事がしゅきなんでちゅねー。まだ授業やりたりないんでしゅかー?」

 メルメルは思わずピタリと立ち止まってしまった。

「人のペットの首輪を外したらどうなったのか知りたいんです」

 ドラッグノーグ先生は何だかつまらなそうな顔になった。

「あー、その話し? それは、実はね……外せなかったんだよ」

「へ?」メルメルはつい間抜けな声を出してしまった。

「友達のペットの首輪を外してみようとしたんだけど、どうしても外せなかったんだよなー。不思議だろー? でも不思議でもないか。そもそも、ペットの首輪には能力が高い二級以上の資格を持った魔法使いが、たーっぷり特別な魔法をかけてるんだからね~。二級以上って言ったら元女王の軍官クラスだもんねー。ま、子供にそんな魔法のかかった首輪を外すなんて、無理ですよーって感じだったのかな。多分今の私なら外して外せない事はないだろうけどもねー」

 メルメルはドラッグノーグ先生が二級どころか十級も合格していなくて、ペッコリーナ先生に、「生徒に示しがつかないわ! ちゃんと勉強して、せめて五級の資格を取りなさい!」と怒鳴られているのを聞いた事があるが、とりあえず黙っている事にした。

 メルメルがずっと黙っているのでドラッグノーグ先生は何となく居心地悪そうにそわそわしている。

「ま、わざわざ人のペットの首輪なんて外す必要ないからねー。禁止法でもあるんだから、そんな事しちゃ駄目ですよー。じゃあね~」

 メルメルは心の中でちぇっと呟いた。

(つまらないわ! ドミニクのペットの首輪をこっそり外してやろうと思ったのに!)

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