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裏切り者 8

 先ほどの例からも分かるように、悪魔の兵隊と呼ばれる者は基本的に二種類の存在に分けられる。

 一つは体が腐食し(まれにそうでない者もいる)、喋る事もままならず、主人(自らを復活させた人物)に言われた事を動かなくなるまで続けるだけの人形のような存在。クラスラーの父親もそうだし、ほとんどの悪魔の兵隊がこちらに当てはまる。そしてもう一つが、フィッツィの息子のネムロンのように生前と見た目も中身もほとんど変わらず、やはり主人の命令には絶対逆らわないが、きちんと意思を持った存在。

 一体何故、同じように悪魔の技法で復活した者に、なぜそのような違いが出るのか? 

 どうやらこの事は、その者の生前の能力が大きく関わっているようなのだ。私の調べた限りではネムロンのような状態で復活した悪魔の兵隊は、生前皆一様に、魔法、剣技、柔術などの能力に特に秀でていた。ちなみに、ネムロンはトキアの国の赤軍の副隊長を勤めていたと言うのだから、高い能力を持っていたのは疑いようがない。そのような者ばかりが特別な状態の悪魔の兵隊として復活するのだから、どうやら闇の王国の中でも、皆、かなり上の方の地位についているようなのだ。隊長、武将、文官、将軍など……。

 実はトキアの国で紫の大臣を勤めていた、現在は闇の王国の将軍でもあるマローネなども、悪魔の兵隊なのではないかとの噂があるのだ……。

 まぁ、その事はともかく、今分かっているのは、高い能力の持ち主は、悪魔の技法によって生前とほとんど変わらない状態で復活するのだという事だ。


「――高い能力……」

 トンフィーは思わず口に出して呟いた。手の平にじっとりと汗を掻いている。

「高い能力がどうしたの?」

 突然後ろから話しかけられてトンフィーは椅子から数センチ飛び上がってしまった。慌てて後ろを振り向く。

「め、メルメル!」

 顔色を無くした相手の様子にも気付かず、メルメルは後ろからトンフィーの読んでいた本を覗いて呆れた顔をしている。

「トンフィーったら朝っぱらからまた勉強なの?」そう言いながらヒョイと本を手にする。

「あ!」

「命の石と死者の復活……」

 トンフィーは背中に冷や汗をかいてメルメルを見つめた。

「――さてはトンフィー、ソフィー母さんを……」

「え!」トンフィーは目を見開いた。

「ソフィー母さんを――また喜ばせようと思ってるのね! 今度のテストで百点でも取って。朝からこ~んな難しそうな本を読んで勉強したりして~」

 からかうようなメルメルの言い方に、トンフィーは内心で胸をなで下ろした。「ま、まぁね……ハハ」

 頭をポリポリかいているトンフィーに、メルメルは本を差し出した。

「はい。……私だって今日は珍しく早めに来たのに、トンフィーったらもう教室にいないんだもの。ずいぶん探したのよ!」

 トンフィーは首を傾げる。「何か用があったの?」

「……宿題を写させてもらいたくて。――ほら、昨日ドッジボールを遅くまでやっていて宿題やる暇がなかったから……」

 もごもご言い訳するメルメルを、ニコニコとトンフィーは見つめた。

「そう言えば、ドッジボールどうだったの?」

「ま~たいつもと一緒で決着つかないまんま! ……トンフィーが来てくれたら勝てたかも知れないのに」

 拗ねたように横目で見られて、今度はトンフィーがもごもごした。

「で、でも僕がいっても何にも変わらないと思うよ? ……僕、運動からっきし駄目だし。いてもいなくても――」

「そんな事ないわよ! トンフィーがいれば――トンフィーがいれば、ワタシがトンフィーを守らなきゃって思って、いつもよりいい動きが出来るもの!」

 メルメルはガッツポーズをしている。

「何だか嬉しいような、情けないような気持ちだよ……」

 トンフィーが眉をハの字にして肩を落としていると、メルメルはポンポンとトンフィーの肩を叩いた。

「いいのよ! トンフィーはドッジボールが下手だって弱虫だって何だって……。そのまんまでとっても素敵なんだから。――だからたまには勉強ばかりじゃなくてドッジボールでもするといいのよ」

 何だか話が急に飛んだ気がして、トンフィーは首を傾げた。「へ?」

 メルはまたポンポンとトンフィーの肩を叩く。

「勉強ばっかりしてると、色々深く考え過ぎてもやもやしてしまったりするものよ。――って事で今日こそはトンフィーもドッジボールいこっ!」

「え? あ、うん……」何だか訳が分からないうちに、勢いに押されてトンフィーは頷いていた。

「それと――ねぇトンフィー。困ったり、悩み事があったら何でもワタシに言ってね。ワタシはあんまりお利口じゃないけれど、話くらい聞けるのよ?」

「メルメル……」

 トンフィーは正直驚いた。基本的に脳天気であんまり物事を深く考えないメルメルだ。それでも、トンフィーの様子が少しおかしい事に気付いて、メルメルなりに気遣ってくれたのだ。

「……メルメル……僕――」

 トンフィーは俯いて、手にした本「命の石と死者の復活」をじっと見つめた。

「……トンフィー?」メルメルはトンフィーの顔を覗きこむ。

「……その……実は……」

 その時、ガラガラガラと勢いよく図書室のドアが開いた。

「メルメル、トンフィー! こんな所にいたの!」

「チムシー!」

 クラスメートのチムシーが息を切らして入ってきた。

「鐘が聞こえなかったの? もうペッコリーナ先生来ちゃってるよ!」

 どうやら話に夢中で、始業ベルにも気付かなかったらしい。二人は慌てて立ち上がってドアに向かった。

「ペッコリーナ先生怒ってた?」

 メルメルが聞くとチムシーは片眉を上げてメルメルを見た。

「トンフィーはともかく、メルメルは、こないだのドミニクとの理科室取っ組み合い事件があったから、今度こそ居残りでトイレ掃除だって言ってたよ」

「うへぇ!」

 メルメルががっくり肩を落としていると、隣にいたトンフィーが、「あ!」と小さく叫び、慌ててきびすを返し図書室に戻った。

「どうしたのトンフィー!」

 メルメルとチムシーが首を傾げて待っていると、

「ごめんごめん! 忘れ物しちゃって……お待たせ」

 息を切らしたトンフィーの手には、しっかりと「命の石と死者の復活」の本が握られていた。

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