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古の大占い師 15

 猛スピードで走り去ったラインを、一同はポカンと見送った。

「どうしちゃったんだろ?」トンフィーが唖然とした様な顔で呟く。

「女は女同士色々あるんでしょうよ。……こら! じっとしなさい!」

 取り残されたミミとシバが、乗り込んで来たワーチャにじゃれついている。

「ミギャー!」ワーチャは少し迷惑そうだ。

 トンフィーは、仲間に加わりたくてうずうずしているアケを抑えながら、おずおずと口を開いた。「あの、さっきの続きなのだけれど……」

「ん? 何だい続きって?」

 ニレに聞かれて、トンフィーは後ろを振り返る。

「あの、占いの話しなんだけれど……」

「占いがどうかした? トンフィー」

 今度はペッコリーナ先生に問われて、トンフィーはいよいよ緊張してきた。

(……バカにされちゃうかな?)

「メルメルが、占いで、その……実は……」

「何だ何だ! ぼそぼそ言ってないではっきり言え!」

 グッターハイムに怒鳴られて、トンフィーは眉毛をキリリとさせ、息をすーっと吸い込んだ。

「勇者だって言われたんだ!」

 シーン……。皆呆けたようにトンフィーを見ている。最初に口を開いたのは、やはりグッターハイムだった。

「勇者……だと?」一応呆れたような声で言って、再び黙り込んでしまった。

 周りの様子を見て、全く相手にされない、という事はなさそうなのでトンフィーは少し安心した。

「……勇者って――あの、勇者?」

 後ろからニレが言って、トンフィーはこくりと頷いた。

「七色の勇者だよ。おばあさんはっきりそう言ってたもん」

「ばかばかしい!」遂に大声でグッターハイムが言った。しかし、すぐに賛同を得られそうになく、眉をハの字にしてペッコリーナ先生に助けを求める。「……なぁ?」

 ペッコリーナ先生は、顎に指を当てて考えている。トンフィーは、そわそわしながら見守った。ペッコリーナ先生がくだらないと言えばそれまでだろう……。何せ、あのホラッタばあさんの占いなのだ。

「……有り得ないとは言い切れないわね」

 トンフィーはパッと顔を輝かせた。グッターハイムは眉根を寄せる。

「しかし……」

「だって、何せ七色の勇者はまだ現れていないんだから」

「い、いやしかし……」

「しかも預言者本人の占いなのよ? ……そりゃ、確かにかなりボケてきてはいるわ。でも、私はあの古の大占い師の頃の、寸分違わず全て現実となる預言を何度も見てきた……。くだらないの一言で切り捨てる事は出来ない」

 グッターハイムは、腕を組んで押し黙ってしまった。ニレは驚いて口を出せずにいる。ペッコリーナ先生は、その場にいる全員を見渡した。

「何にせよ、いきなり百パーセント信じる事は出来ないけれど、この事は心にしっかり留めておきましょう……。――メルメルの事を見守りながら」

 ニレとトンフィーが頷き、グッターハイムがしぶしぶ頷いたその時、トンフィーの腕の中から遂にアケが飛び出し、ペッコリーナ先生の馬の上に乗って、そこに悠然と座るワーチャの尻尾に噛みついた。

「ミギャギャー!」


 メルメルは体を固くしてラインを見つめた。そんなメルメルを見て、ラインはふと頬を緩めた。

「フフッ……。冗談だ。そう怯えるな」

 あんな事を言われたら誰だって怯える。

 ――いや、そんな事はない。

 メルメルは周りを疑うように見ていたから、ラインの言葉に思わず怯えてしまったのだ。普段なら、言われなくともすぐ冗談だと気付く筈だ。

 メルメルがしょんぼりと黙り込んでしまったので、ラインは小さく溜息を吐いて語り出した。

「……実はあの時、メルメルを助ける寸前にあの女との会話が聞こえたのだ」

 メルメルはハッとして後ろを仰ぎ見る。ラインはこくりと頷いた。

「そうだ。裏切り者云々と聞こえた……。――メルメル、人に裏切られる事が怖いか? 裏切られて、傷つく事が恐ろしいか?」

「え、えっと……」

 ラインは恐らく疑わしい目で見られた事を怒っているんだろう。あるいは、仲間を不信に満ちた気持ちで見ていた事を怒っているのかも知れない。メルメルは、何だか居心地悪そうにそわそわとトンフィー達の方を見た。まだまだここまで来るには時間がかかりそうだ。

「私は何も怒っている訳じゃない。そりゃ、疑われてしまえば悲しいが、信じるに足る程メルメルとの関係をまだ築けていないのならば仕方ない」

 何だか本当に悲しそうな声に、メルメルはいよいよシュンとしてしまった。「……ごめんなさい」

俯いて言うと、ラインは声を上げて笑った。

「ハハッ! メルメルは素直だな。それでいい。……メルメル、人を疑うと言うのは良い悪いは抜きにして、悲しい事だ」

「ごめんなさい……」メルメルは、やはり責められている気がして、つい謝ってしまった。

「謝る必要はない。ただ、人を疑って生きるような人間になって欲しくないだけだ。だから、言ってみればこれは私のわがままだな」

「…………」

「疑う事をしなければ、裏切られる事も、騙される事も増えるかも知れない。騙される様な人間を馬鹿な奴だと笑う者もいるだろう……。だが、人を信じ、心を委ね通わせる事によって生まれるかも知れない大切な関係もある」

「……友達、とか?」

 ラインは頷いた。

「それに、メルメルには早いかもしれないが恋人などもな……。そういう、たくさん生まれるかも知れない、人を愛する気持ちというものを、疑いの心はかき消してしまう。人の性格とは癖の様な物で成り立っている。疑う事を繰り返すうちに、それが癖になって、人を疑わずには生きられなくなる」

 メルメルには難しい話しだが、疑わずに生きられなくなるというのは、とても恐ろしい事の様な気がした。

「それに、もし信じて裏切られたり、騙されたりしても、メルメルの何が傷つく訳ではないのだ。裏切った者、騙した者に問題があるだけなのだから……」

 そう言って、ラインはメルメルの首に赤い石の付いたネックレスをかけた。

「え! ……これって――」ラインが今まで付けていた物だった。

「……私はメルメルを信じている。その証にプレゼントしよう……。ダサいなんて言うなよ?」

 メルメルは顔を赤らめ、慌てて何度も首を横に振った。

「だ、ダサいなんて! ……と、とっても嬉しいわ! ……ありがとう」

 ラインはフッと笑い、メルメルの両肩に手を乗せた。

「メルメル、覚えておくといい。人を疑う事は、人に裏切られたり騙されたりする事よりも、失うものが大きいのだと……」

 丁度その時、下から上がって来るトンフィー達の姿が見えて、メルメルは大きく手を振ったのだった。

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