表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/135

古の大占い師 14

「そういえば、ホラッタばあさんの占い、みんなはどんな感じでした?」

 トンフィーが言うと、ニレはがっくりと肩を落とした。「……は~」

「まーた、溜息か! 何なんだお前は!」

 グッターハイムに怒鳴りつけられて、ニレはビクビクしながら言い訳するように言った。

「だ、だって、ひ、髭が……」

「あん? 髭がどうした?」

「おばあさんが、その……。私の好きな女性は髭もじゃもじゃ男と結婚するのだと……。だから、彼女のハートを射止めるためには髭を伸ばさなきゃいけないと言ったんです……。でも、私は、――剃る必要も無いくらい髭が少ないんです! ……もじゃもじゃなんて、夢のまた夢……」

 一瞬グッターハイムは真顔になり、その後大声で笑った。

「ガーハッハッハッ! そりゃ、お前、あのホラ吹きババアにからかわれたんだよ!」

「そ、そ~ですかね~?」

「くっくっく! ま、試しに毛生え薬でも試してみるんだな……ひ~ひ~!」

 後ろでどうやら顎をさすっている雰囲気を感じて、トンフィーは笑いを堪えながらペッコリーナ先生を見た。

「ぷふふ……せ、先生は?」

「私のもくだらない占いよ。……本当は九二歳まで生きられるのに、甘いものを控えないと八六歳までしか生きられないんですって。大きなお世話よ! 八六まで生きられりゃ十分よ……ぶつぶつ……」

「そりゃ占いじゃなくて診断だな」

 グッターハイムが呆れた声を出し、頬を膨らませるペッコリーナ先生のお腹を見た。

「えっと……ラインさんは?」

「………………」

 皆が注目するなか、ラインは無言で前を見ている。トンフィーは不思議そうに首を傾げた。

「……ラインさん?」

「私も皆と同じ様なものだ」

 相変わらず無表情で前を向いたまま答えるラインの横顔を、トンフィーは更に不思議そうに見る。

「でも……何だか他の人より長い時間占ってましたよね?」

 すると、ラインは不愉快そうに目を瞑った。

「……そもそも、ホラッタばあさんの占いなど当てにならないだろう。ほとんどボケてしまっているのだからな。くだらない占いばかりじゃないか」

 くだらないと言われて、トンフィーはシュンとして黙ってしまった。本当は、メルメルが勇者だと言われた事を最後に発表しようと思っていたのだ。

「……どうしたのライン? なんだか、あなたにしては珍しい言い方ね。何かあったの?」

 ペッコリーナ先生に顔を覗きこむように聞かれて、ラインはハッとした。

「……いや。すまない――少しイラついていて。……嫌な言い方をしたな。悪かったトンフィー」

 トンフィーは無言で首を横に振った。一体何をイラついているのか不思議に思ったが、聞く事は出来なかった。そして、ある事に気付いて首を傾げた。

 ――そういえば、メルメルが会話に入ってこない。ずっと黙っている。見てみると、何か思いつめた様な顔で下を向いていた。しばらく見ていると、ちらりとグッターハイムの顔を覗き見ている。

「……メルメル?」

 トンフィーの呼びかけにも気付かないで、今度はニレの顔を覗き見ている。

「ねぇ、メルメル!」

「え! な、何?」ハッとした顔でトンフィーの方を向く。

「どうしたの? 何か……変だよ?」

 首を傾げるトンフィーに、メルメルは慌てて首を横に振った。

「な、何でもないわ……」

「メルメル」

 呼び掛けられてメルメルがそちらを見ると、ラインが青い目で真っ直ぐに自分を見つめていた。

「……な、何?」

 何だか後ろめたくて上目遣いに見ると、ラインはフッと笑った。

「こちらに来ないかメルメル?」

「へ?」

 意味が分からなくてメルメルが首を傾げていると、ラインは道案内の為に再び乗り込んでいたワーチャを抱き上げた。「ミギャー!」

「ちょっと交換しよう」ラインはペッコリーナ先生にワーチャを押し付けると、

「きゃ!」

 メルメルをフワリと持ち上げ前に座らせた。

「少し眠くてボーっとしている様だから、ひとっ走りしてこよう」

 言うなり馬の腹をバンと蹴った。猛スピードで馬は走り出す。

「きゃ、きゃー!」

「しっかりつかまっていろ!」

 言われなくとも必死で馬にしがみ付くメルメル。

 急な事で驚いてしまったが、なれてくると風を切るように走る馬の背は、案外気持ち良い。メルメルはモヤモヤが吹き飛んで、いつものワクワクドキドキの笑顔になってきた。

「と、と、と」

「ん? 怖いか?」

「とっても気持ち良いわ!」

 ラインはフッと笑い、更にスピードを上げて、先にある高い丘に駆け上って行った。

頂上に辿り着いた所で馬を止める。先程の丘よりも更に高い場所だ。あの湖すら見えなくなってしまった。トンフィー達でさえ米粒の様に小さい。

「ここなら悲鳴さえ聞こえないな……」

「……ラインさん?」

 メルメルは首をひねってラインを仰ぎ見る。やはり表情に乏しく、相変わらず何を考えているのか分からない。ラインはゆっくりと、その透明な青い瞳をこちらに向けた。

「ここなら、お前を殺しても誰も助けに来れないな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ