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古の大占い師 13

 一行は小さな丘にさしかかっていた。振り返れば遙か遠くに、鬱蒼とした森に囲まれたホラッタばあさんとフレンリーの、あの湖が見える。メルメルが目を凝らしても湖の真ん中に有るはずの島は見えなかった。いや、小さな黒い点があるような気もするから、あれがそうかも知れない。

「は~」

「………………」

 ニレが大きい溜め息を吐いて、皆無言で一瞥する。メルメルが数えたところによると、もう三五回目になる。最初のうちはあれこれ慰めていたが、正直少しうんざりしてきてしまった。

「島はちゃんとあるわよ。家は魔法がかかっていて見えないけれどね」

 ペッコリーナ先生が言うので、メルメルはもう一度目を凝らす。――やはり点すらあるかも怪しい。

「あ、フレンリー達だ!」

 トンフィーが指差すのでそちらを見る。――また何も見えない。

「ど、どこどこ? どこだい?」

 トンフィーの後ろでニレが精一杯首を伸ばし目を凝らしている。どうやらニレの目にも見えない様だ。森を抜けてフレンリー達と別れてからかれこれ二十分は経つ。いくら向こうが豚の足でも、こちらは馬なのだから結構離れてしまった筈だ。

「み、見えないな……。どうだいトンフィー、フレンリーに変わりはないかい? 元気に歩いているかい?」

「元気も何もないでしょうに。さっき別れたばっかりよ」

 呆れた声でペッコリーナ先生に言われて、ニレはシュンとする。

「――元気そうだよ。何だか楽しそうにブーちゃんとお喋りしてる」

「そ、そんな事まで見えるの?」

 メルメルは驚いて、トンフィーの見つめる先をもう一度見た。……やはり何も見えない。

「僕、結構目は良い方だから……」

 それは知っている。メルメルも良い方だが、トンフィーはメルメルよりもっともっと目が良いのだ。

「ホラッタさんはもう居眠りし始めているわね……」

 ペッコリーナ先生が呟いて、メルメルは驚いて後ろを見上げた。

「せ、先生にも見えるの?」

「ウフフフ、見えるわよ~。目が良くないと、良い弓使いにはなれないのよ」

 では、トンフィーはやっぱり弓使いに向いているのだ。ちょっぴり羨ましくてメルメルが見てみると、トンフィーはまだ誰も誉めていないのに、耳を赤くして頭を掻いていた。

「ハ~……」またニレが溜め息を吐いた。三六回目だ。

「おいニレ! いい加減にしろ! こっちまで気が滅入ってくるだろうが!」

 どうやらグッターハイムの堪忍袋の緒が切れたようだ。可哀想だが、メルメルはちょっぴり賛同してしまった。

「す、すいません……。でも、心配で心配で。ああ……やっぱりついて行けば良かった」

「そうは言っても、あっさりお断りされちまったんだからしょうがねぇだろうが!」

「う、う~ん……」ニレが頭を抱えた。

 そう、今から二十分程前――。


「それじゃ~私たちは隠れ家に向かうから~、ここでお別れね~」

 森を抜けた先で二股に道が別れており、フレンリー達は右の道、メルメル達は左の道に行く事になった。

「じゃあね! バイバイプー助!」

 メルメルが胸に抱いていたプー助にチュウをして下ろすと、プー助はフガフガと、ミミとシバと鼻面を合わせてから、ブーちゃんの元へ行ってしまった。

「ふ、フレンリー……やっぱり私がついて行った方が良いよ」

「ど~して~?」

「だ、だって危険じゃないか、もし、敵が出たら――」

「ニレが来ると~敵がでないのかしら~?」

「そうじゃないけれど、私が二人を守ってあげなければと……」

「ニレは~私より弱いのに~?」

「うぐっ!」

「ニレがついてきたら~私はニレまで守らなきゃいけなくなるじゃない~?」

「う、うぐぐっ!」


 そんな訳で、それからずっとニレは、肩を落として溜息ばかり吐いているのだ。まぁ要するに足手まとい扱いされたのだから、ニレが肩を落とすのも無理はない。

「でも、そもそも敵が狙っているのはグッターハイムさんだから、あちらが襲われる事はまず無いでしょう。それに、そんなにフレンリーが強いなら、万が一敵が出ても大丈夫じゃないかな?」

 トンフィーが慰めるように言う。ニレは力無く微笑んだ。

「そうだね……。ありがとうトンフィー……。は~。女性が強すぎると、男は苦労するよ」

「そうなの?」

 トンフィーが首をひねってニレを見上げると、ニレはメルメルにちらりと視線をよこした。

「トンフィーはそんな経験ないかい? 男のくせに、女の子に負けてしまうような事……」

 トンフィーはメルメルの方を見つめる。

「うん――確かにあるね。僕の場合はメルメルに負けっぱなしだもの。木登りも、かけっこも、腕相撲も」

「情けなくならないかい?」

「……なる。……かな?」

 ニレは、まるで同士を得た気になって嬉しそうにうんうん頷いた。

「そうだろう! あんまり相手が凄すぎて、ついつい、何で自分はこんなに駄目なのかと落ち込んだりしちゃって……」

「確かに!」

 トンフィーが力強く同意すると、男同士しばし見つめ合い、ガッチリと握手した。すると、グッターハイムは呆れた顔でケッと言った。

「情けない事言ってんじゃねぇよ。男なら自らを鍛えて鍛えて鍛えぬいて、女なんかねじ伏せてやれ! 負けてうじうじ悩むなんてもってのほかだ!」

「そ、そりゃあ私だって、なんとかフレンリーに勝ちたいとは思いますけど……。なかなか相手が強過ぎで……。ね? トンフィー」

「いや……。僕、別に負けていても構わないし」

「あ~! なんだい裏切り者!」

 ビクッ! とメルメルの体が震えて、ペッコリーナ先生は首を傾げる。

「どうしたの? メルメル」

 メルメルは、無言で首を横に振った。

 ――裏切り者。

「だって、女の子の方が強くたって良いと思うし……。ラインさんだって、ペッコリーナ先生だってとっても強いし。そりゃあ、僕も頑張らなきゃな~とは思うけど」

「ま、まぁそうだけどさ……」

「よし。お前等俺が鍛えてやろう!」

「ひえ~! 結構です!」

 メルメルは、じっくり周りを見回す。グッターハイム、ニレ、ライン――。この中に、裏切り者がいる? ――そんな訳無い……。でも……。

 今一気持ちがすっきりしない。トンフィーに相談しようと思っていたが、残念ながら二人きりになれるタイミングが無かった。仕方なく、移動中にこっそりペッコリーナ先生に話そうと思ったが……。 

 メルメルはチラッと横をみる。メルメルとペッコリーナ先生の乗った馬の隣に、ラインの乗った馬がピッタリと付いている。

(……何なのよ、もうっ!)

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