古の大占い師 12
「だから! 敵が来るかもしれないんだってーの! わがままも大概にしろよ、このクソババア!」
「クソババアとは何事じゃ、このクソガキ! 嫌なもんは嫌なんじゃ!」
大人とは思えないような二人のやりとりをほったらかしにして、メルメル達は荷造りを進めていた。フレンリーを手伝って、水晶玉などの占いの道具を、広げた風呂敷の上へと置いていく。
「あー! もういい! こんな分からず屋は一人でここに残って、悪魔の兵隊にでもなんでも襲われちまえ!」
「ふんっ! だいたい悪魔の兵隊なんて今まで現れた事ないんじゃ! それなのにお前等が来た途端に、敵が来るから逃げろなんて……。もしかしてお前等が連れてきたんじゃないのか?」
「つ、連れてきた訳では……」
「じゃが、お前等に責任があるんじゃろ!」
さすがにグッターハイムもひるんでしまった。連れてきた訳じゃないが、つけられたんだとすれば、やはり自分達の責任と言えるだろう。メルメル達が来なければ、この場所に敵が近づく事はなかったのだ。ボケている割には意外にするどいな、とメルメルは思った。
「さ~、準備が出来たから~出発しましょ~」
フレンリーが、とてもそのか細い腕では持ち上げられそうにない、どでかい風呂敷包みをヒョイと担ぎ上げた。トンフィーはビックリして目を丸くしている。
「出発すると言っても……」
メルメルはちらりとホラッタばあさんの方を見る。腕を組んでソファーにどっかり座っている。てこでも動かないような顔だ。グッターハイムは説得を諦めて外に出て行ってしまった。
「おばあさま~行くわよ~」
「嫌じゃ」
「じゃあ~、おばあさまは残ればいいわ~。私は行くわね~」
「な、なぬ?」
フレンリーは、クルリと後ろを向いてドアに向かって歩いて行く。ホラッタばあさんは、口を尖らしてフレンリーの背中を見つめている。
「あら~? あららら~?」
フレンリーは、背負っている風呂敷包みがドアに引っかかってしまって、身動きがとれなくなってしまった。メルメルとトンフィーが慌てて後ろから押すと、ズボッと風呂敷包みがドアの向こうに消えて、そのままフレンリーは歩いて行ってしまった。
メルメルとトンフィーは恐る恐る後ろを振り返る。ホラッタばあさんは口を尖らしてムスッと押し黙っている。他の人間は外に出てしまっているので、部屋にはメルメルとトンフィー、そしてホラッタばあさんだけになってしまった。二人は顔を見合わせた。
――どうする?
まさかほったらかしにして行く訳にはいくまい。しかし、この頑固そうなおばあさんを、自分達が説得出来る気は全くしない。二人が何だか身動き出来ずにいると、
「メルメル~、トンフィ~」
外からフレンリーの呼んでいる声がして、正直ホッとしながら、こそこそと外に出て行く。ドアを閉める直前にちらりと振り返ったが、相変わらずホラッタばあさんはムスッと口を尖らして座っていた。
「い、いいのフレンリー?」
「え~?」フレンリーは、クッションをブーちゃんの背中に結び付けている。
(フレンリーったらブーちゃんに乗って行くつもりかしら……)
そういえばフレンリーの分の馬が無い。
「おばあちゃん……ちょっと可哀想だわ……」
フレンリーは、メルメルを見てに~っこり笑った。
「いいのよ~気にしないで~。とっとと行きましょ~」
気にしないでと言われても、ちょっとそれは難しい。いくら少し(大分)わがままで減らず口の多いおばあちゃんでも、敵が襲って来るかも知れない場所に置いて行くなんて。
「お、おいおい。ばあさんを置いてっていいのか?」グッターハイムもそわそわと家の方を見る。
「いいから~早く馬に乗って頂戴~。早く~プラムおじいさまを~助けに行かなければいけないでしょ~?」
確かにその通りだ。皆それぞれ戸惑いながらも馬に乗る。メルメルはペッコリーナ先生の前に飛び乗り、不思議そうにフレンリーを見下ろした。
「フレンリーは馬で行かないの?」
「私は~ブーちゃん達がいるから~歩いて行くわ~」
それでは徒歩で隠れ家まで行くのだ。
(フレンリーって見かけによらず、結構力も体力もあるのね)
メルメルは感心してしまった。
「さ~、再び旅の始まりよ~。レッツゴ~」
ライン、グッターハイム、ニレとトンフィー、ペッコリーナ先生とメルメル、フレンリー、――と豚達の順に、ぞろぞろと橋を渡り始める。そして橋の半ばまで来た所で、
「こりゃ~! 待て~!」
メルメルが体をひねって後ろを見ると、ホラッタばあさんが慌てて追い駆けて来るところだった。「あら~? おばあさまも行くのかしら~?」
フレンリーが相変わらずのんびり穏やかに聞く。ホラッタばあさんは、ふんっと鼻をならした。
「しょうがなから、ワシも行ってやるわい!」
「あらそ~」
するとフレンリーは、軽々とホラッタばあさんを持ち上げ、ブーちゃんの上へと乗せた。ようやくホッとして、皆が和やかに見守っていると、
「ん? なんじゃ! 早く行け! 後ろが詰まってるんじゃぞ!」
可愛げのない言い方に、やっぱり置いて来ても良かったかなと、思わず皆思ってしまったのだった。




