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古の大占い師 5

「何だか不自然よね?」

 ペッコリーナ先生が問いかけるが、ラインは返事もせずに手紙を凝視している。

「どうかした? ライン」

「……いや」

 ラインは手紙をグッターハイムに返し、腕を組んで黙り込んだ。何か懸命に考え込んでいる様だ。

「それでその後~、敵からの呼び出しの手紙を~、グッターハイムお兄様のドジのせいで~燃やしてしまったのね~?」

「ま、まぁな……」その件になると、途端に声の小さくなるグッターハイム。「だが、猫共の案内のおかげで、行き先はミデルの街だと検討がついた」

「でもお婆さまの占いだと~ミデルにはいないって~」

「あんなボケばあさんの占いがあてになるか」

 孫相手に酷い言いようである。

「確かにボケばあさんだけれど~、今日は当たりの日よ~」

「何だよ当たりって」

「当たりの日と~、はずれの日があるのよ~。今日は当たりの日だから~、占いは当てになるわ~」

 メルメルは素直なので、それではミデルにはいないのだな、と思った。しかし、ちっとも素直じゃない男がいた。

「けっ! どうだかな」

「孫が言うんだから確かよ~。毎日お婆さまを見てれば分かるのよ~」

 ガチャッとドアが開いて、やたらと肩を落とし、暗い顔をしたニレが出てきた。

「……は~」ドサッと体をソファーに投げ出し、溜め息を吐く。

「どうしたの~? ニレ~」

「……鏡ないかい? フレンリー」

「……? あるけど~」立ち上がり鏡を取りに行くフレンリー。

「一体どうしたんだ~ニレ~? 何かあったのか~?」

 グッターハイムがフレンリーの真似をして笑いを誘おうとしたが、ニレはニコリともしなかった。

「……は~」また溜め息を吐いている。

「はいニレ~」

 フレンリーが鏡を渡すと、ニレは鼻の下を伸ばして鏡を覗く。

「やっぱり薄いな……生えるかな? ……ぶつぶつ……そうだ、何か薬を……ぶつぶつ」

 鏡を見ながら訳の分からない事をぶつぶつ呟いているニレに、さすがのラインも呆れた声を出す。

「ニレ? 一体どうし――」


「ライン」


 ハッとして声のした方を見ると、いつの間にかホラッタばあさんがドアの前に立っていた。

「来るんじゃライン……次はお前じゃ……」

「…………」

 何となく有無を言わせぬ感じがして、ラインは無言で立ち上がる。ホラッタばあさんは、既に奥に消えている。

「……なんだよ。急にまともな声を出しやがって」

 二人の消えたドアを見つめながら、グッターハイムが呟く。フレンリーが腕を組んで力強く頷いた。

「やっぱり当たりの日だわ~」

 メルメルとトンフィーは少し不安げに顔を見合わせた。グッターハイムは退屈そうに大欠伸をして、ニレは相変わらず鏡を見てぶつぶつ言っている。ペッコリーナ先生はパンパンと手を叩いた。

「さて! フレンリー、そんな訳だから今夜は泊まらせて貰うわ。布団は足りるかしら?」

「二人で~一つくらいなら何とか~」

「じゃあ、ニレとグッターハイムに指示して用意させて頂戴。メルメルとトンフィーは私のお手伝い。夜ご飯の支度をするわよ!」

「は~い!」

 メルメルは、ピョンと立ち上がりペッコリーナ先生のポッチャリした背中に付いて行きながら、ふと奥のドアを見た。そして後ろを振り返る。フレンリーは、占いの部屋とは別なドアの向こうにニレとグッターハイムを入れて、こちらに背を向けてあれこれ指示していた。

「あの……フレンリーさん」

 メルメルが話しかけると、フレンリーは首を捻って振り返った。

「ん~? ……フレンリーでいいわよ~。どうしたの~メルメル~?」

「……フレンリー。当たりの日でも、占って欲しい事を占ってもらう事は無理かしら?」

「ん? ……う~ん。お婆さまの占いは~、基本的に~アバウトな未来しか見れないからね~。何か~占って欲しいのかしら~?」

「………の事を……」メルメルはもじもじしながら、ボソボソ言っている。

「え~?」声がさっぱり聞こえなくて、フレンリーはメルメルに近づいて顔を覗きこんだ。

「……あの、だから、その……お父さんとお母さんの事を……」

 後ろで様子を見ていたトンフィーとペッコリーナ先生がハッとした。

(そりゃそうだよね……。メルメルだって両親の事、気になってて当然だよ……)

 トンフィーは、今までほとんど両親の事を口にしなかったメルメルをいじらしく思った。

「……メルメル。ご両親の事を知りたいの?」

 ペッコリーナ先生が、メルメルの肩を優しく抱いた。メルメルは無言で頷いた。そして顔を上げ、ペッコリーナ先生を見た。

「先生は、ワタシのお父さんとお母さんを知っているの?」

「直接は知らないわ。ただ、お父さまはとても強い戦士だったと聞いているわ」

 ――だった。それだけで、メルメルはその言葉の裏にある悲しい何かを悟った。

「トキアの兵士だったのかしら?」

「そうよ……」

「あの……お母さん……は?」

「プラムはとても優しい方だったと言ってたわ……。あのね、メルメル。あなたのご両親はもう……青暗戦争で……」

「いいの先生。……ワタシ、分かっているから」メルメルは精一杯の強がりを言って笑ってみせた。「さあ! ご飯を作りましょう。ワタシお腹ペコペコ!」急いで皆に背を向けてキッチンに向かった。

「……メルメル」

 ペッコリーナ先生がゆっくり近づいて来て、メルメルは慌てて、意味もなく、洗って伏せてある食器を洗い始めた。その顔を覗きこんだペッコリーナ先生は、無言でメルメルの頭を優しく何度も、何度も撫でた。

「……うっぐ……えっぐ……」

 フレンリーとトンフィーは顔を見合わせ、そっとその場を離れる事にした。

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