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古の大占い師 1

「あれが、ホラッタばあさんの家だよ」ニレの指差した先には湖がある。

「……どれ?」メルメルは首を傾げる。

 湖の真ん中に草がぼうぼうと生えた小さな島がある。しかし、ホラッタばあさんの家らしきそれは、どこにも無い。

「どこ? ねぇニレ?」

「ふふん。まあ、ぐだぐだ言わず付いて来い」

 グッターハイムは何だか得意気な顔をして、馬の腹を軽く蹴った。馬は早足で歩き出す。――湖に向かって!

「あ、あ、あーーー!」

 メルメルとトンフィーはビックリして、飛び出さんばかりに目を見開いて叫んだ。ところが――馬はポクポクと、何事もなかったかのように歩き続けている。――水の上を。

 二人のおったまげた顔を見て、ニレは声を出して笑った。「ハハハハ! 二人共驚き過ぎだよ」

「だって、だって馬が――」

「この湖には、様々な魔法がかけてあるんだ。見えない橋もその一つさ」

「見えない……橋?」

 メルメルとトンフィーは目を細めて、悠々歩く馬の足元に目を凝らした。しかし、やっぱり水の上を歩いている様にしか見えない。いや、若干馬の足と水面には隙間が開いている。あの隙間に橋があるのかも知れない。

「無理さ。いくら目を凝らしても橋は見えないよ。魔法で見えないように消してあるからね」

 ニレはそう言いながら自分の馬を湖に進めた。そして水面に踏み出した瞬間、メルメルには、ニレの前に座るトンフィーが首をすくめたのが分かった。ペッコリーナ先生がニレに続いて馬を進める。 

 水面に一歩足を踏み出した瞬間、トンフィーの気持ちが良く分かった。落ちないと分かっていても、なんとも頼りない気持ちになるものだ。

「どうして橋を見えなくしたの?」振り返ってペッコリーナ先生に尋ねる。

「ここには、ホラッタばあさんと孫娘のフレンリーの二人しか暮らしていないの。もし悪魔の兵隊にでも見つかったら大変でしょう? だからみんなで魔法をかけたのよ」

 二人しか暮らしていない……と言っても、その二人の暮らしていそうな家はどこにも見当たらないのだ。

「どうしてこんな所で二人きりで暮らしているの?」

 前を行くニレが、首を捻ってメルメルを振り返る。

「隠れ家で一緒に暮らすようにと言ったんだけどね。どうしても嫌だって言うもんだから……」

「どうして?」

 ニレの、更に前を行くグッターハイムが、馬の横に体を飛び出させてメルメルの方を振り返った。

「年をとると、みんな我が儘になるのさ!」それだけ言って、また前を向いてしまった。

「フフフ。我が儘って訳じゃないのよ。ただ、占い師なんかやっていると、たくさんの人と生活するのがちょっと大変みたいなのよ」

 メルメルはペッコリーナ先生を振り仰ぐ。「どうして?」

「見たく無くても、勝手に人の未来や過去が見えて仕舞うんですって。そして、人の未来や過去を見ると、とっても疲れてしまうらしいの」

「そうなんだ……」

(それじゃあ、二つも占ったりしたら、おばあちゃん疲れちゃうわね……)

 メルメルは、仕方ないからおじいちゃんの行方だけを占って貰おうと決めた。本当は、もう一つ占って貰いたい事を思い付いたのだが……。

「ニャー」腕の中で、ミミが懸命に顔を突き出して下を見ている。メルメルはミミと同じように顔を突き出して水面を覗いた。

「……わ! でっかいお魚!」

 メルメルの倍くらいありそうな魚が、うようよと足元を泳いでいる。鋭そうなヒレと歯が見えて思わずゾッとした。

「落ちたら大変だよ。一瞬で骨までかじられてしまうよ~?」

 ニレが振り返り、メルメルを脅かそうと少し怖い声で言った。ニレの前に座ったトンフィーがビクッとした。

「このお魚も魔法なの?」メルメルは首を傾げる。

「魔法ではないよ。遥か南にある、ダイール川に住むピラニークと言う魚なんだ。その稚魚を水槽一杯、馬車で運んで来たんだ」

「そこまでする必要はないと言ったんだがな……」

 後ろからラインの声が聞こえて、ニレが興奮した声を出した。

「な、何言ってるんですか! 大切なホラッタばあさんと、ふ、フレンリーに何かあったらどうするんですか!」

「何かあったって、そうやすやすとどうにかなる娘でもないがな」

 ラインが聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟いた。

 確かに頑健な守りだ。島に渡る橋は見えず、泳いで渡ろうとすれば凶悪そうな魚ピラニークに骨までしゃぶられてしまう。しかし、

「二人はどこに住んでるの?」

 あと五十メートルの所まで来た。しかし、やっぱり島の上には何も見えてこない。

「ねぇ、一体どこに――」

 メルメルがペッコリーナ先生を再び振り仰いだ、その時、

「――わ!」前を行くトンフィーが驚いた声を出した。どうやらトンフィーは前方の小島を指差している様だ。メルメルは島に目を凝らした。変わった物は何も見えない。

(何よ。トンフィーったら、何も無いじゃな――!)

「い、家が……」

 さっきまで、いくら目を凝らしても何もなかった島の上に、突如として薄紫色の屋根の可愛らしい家が現れた。

「あ、あれれれ?」

 メルメルがビックリして目をパチクリしていると、してやったりと言う顔でニレが体を捻って振り返る。

「フフ、驚いたかい?」

「驚いたわ! 一体どうして――あ!」

 その時、家のドアが開いて、中から髪の長い女性が現れた。

「あら、フレンリーね!」

 ペッコリーナ先生が手を振る。フレンリーと呼ばれた女性もニコニコと手を振り返してきた。

「ふ、フレ――うわ!」

 ニレが慌てて前を向いたせいで馬から半分ずり落ちた。前に座ったトンフィーもニレに捕まれて少しずり落ちる。

「わ~!」トンフィーは青くなって悲鳴をあげた。

 メルメルは、二人が湖に落ちてピラニークに食べられてしまうんじゃないかと(だって、さっきよりやけにたくさんピラニーク達が集まって来たんだ)ドキドキした。

「は~。随分大きくなったわね~」

 背中から聞こえてきた溜め息まじりにの声に、メルメルは首を傾げる。「久しぶりなの?」

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