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戦士ライン 13

 メルメルもトンフィーも目の玉が飛び出す程驚いてしまった。ニレが二人の顔を見て思わず吹き出した。

「ハハッ! そんなに驚いたかい? これは結構、真実味あるんだ。実際、姫の姿を見た人が何人もいるんだ。居場所まで大体分かっているんだよ」

「ほ、本当に? ど、どこなの?」

「北の国ロスリン。……ハルバルートの次に敵の兵が多くて、守りの固い場所だよ」

「北の国、ロスリン……」

 驚く子供二人には目もくれず、ラインは黙って先程から火に薪をくべている。

「レジスタンスは、いずれ現れる筈の勇者を待ち、そして、暗黒王に捕らえられた姫を救い出し、再びトキアの国を取り戻そうとしているんだ」

 メルメルは改めてニレ、ライン、眠っているペッコリーナ先生、そして、レジスタンスのリーダーであるグッターハイムを見た。そして首を傾げる。そういえば、先程からいびきが聞こえない。

「なーにが古の大予言だ」

 そのグッターハイムが突然口を開いて、メルメルは飛び上がってしまった。

 ガバッとグッターハイムは起き上がる。「そんなもん、もうろくババアの戯言だろうが」

「お、起きてたんですか……。も、もうろくババアって、王宮お抱えの立派な占い師ですよ」

「でした。だろ?」

 意地悪そうな顔でグッターハイムに見られて、ニレはもぐもぐする。

「いや、そりゃ、今でこそ少しボケてはきましたけど、昔はと~っても素晴らしい――」

「素晴らしい占い師だったと言われているだけさ。大体、ババアの活躍ぶりなんて、ほとんど誰も知らないんだ。そもそも、王宮なんて一部の人間しか入れないし、当時のハルバルートの兵士なんて、ほとんど死んじまったんだからな。……くわぁ~」

「そ、そりゃ、そうですけど……」

 言うだけ言ってグッターハイムは眠そうに大欠伸をしている。そして、「何か腹がへったな……」などと言うから、メルメルはすっかり呆れてしまった。シチューを四杯もおかわりしたのだ。

「私は直接知っている」

 ラインの言葉に、ニレは目を輝かせる。

「古の大予言も直接聞いたよ。あれはホラッタばあさんがボケる前の、素晴らしい占い師の頃の事だ」「……ふん」グッターハイムは面白くなさそうに鼻をならす。「勇者や女王なぞ、俺はどうでもいい。俺は、赤の大臣様に再び立ち上がってもらいたいだけだ」

 グッターハイムはラインを見つめる。ラインは小さく溜め息を吐いた。構わずグッターハイムは続ける。

「女王に変わって国を治める事が出来るのは、赤の大臣だけだ」

「それが無理だったから、今、こうなっている……」

 グッターハイムはギラリとラインを見据える。

「それは、お前が自分を卑下しているせいだ。女王が殺されたのも、ハルバルートの都が奪われたのも、何もお前のせいではない。責任を感じるなら、再びお前は立ち上がるべきだ」

「私に女王の代わりは出来ない。女王の代わりは――女王にしか出来ないのだ」

「何故だ!」

 だんだんと盛り上がってきてしまったラインとグッターハイムのやり取りを、全員がハラハラドキドキ見守る。

「民の心とは……人の心とは、時に驚く程頑なだからだ」

「……どういう意味だ?」グッターハイムが不思議な顔をする。

「……すまん。上手く言えないな……」

 なんだか寂しげなラインに、グッターハイムは肩を落として、諦めたように溜め息を吐いた。

「なんだか分からんが、俺はいつでも喜んでリーダーをお前に譲るからな。その気になったらいつでもすぐ言えよ……」

「………………」

 二人の訳の分からないやり取りを、メルメルは分からないなりに考えた。要するに、多分グッターハイムは赤の大臣にレジスタンスを率いて、暗黒王からトキアの国を取り戻して欲しいのだ。そして、その赤の大臣とは――そういうことなのだ、きっと。

「そうだ、どうせならホラッタばあさんに占って貰いに行きませんか?」 

 沈み気味の雰囲気を変えるように、やけに明るい声でニレが言った。

「だから、あのババアはすっかりボケちまってるって――」

「そ、そんな事ないですよ。確かに少しボケてはいますけどね。あの、孫娘のフレンリーが言うには、時に正気を取り戻したようにズバリと占いを的中させるらしいですよ」

 フレンリーという名前を言う時に、何故かニレの声がひっくり返った。

「その、たま~に当たる占いで何を占って貰おうってんだ? お前の、まだ見ぬ未来の嫁さんがどこにいるかでも占って貰うか?」

 グッターハイムが言うと、ニレは慌てて手をブンブン振った。

「いやいや、私の嫁探しなぞ……。そうじゃなくて、プラムさんの行方ですよ」

 メルメルが顔を輝かせた。「なるほど!」

 しかし、グッターハイムは相変わらず気乗りしない様な声を出す。

「プラムの行方なんてミデルの街で大方決まりだろ。そんな当たるか当たらないか分からんような占いを、わざわざ聞きに行く必要ないだろ」

「で、でも、ほとんど通り道ですし……」

 何故かやたらと占い師の所に行きたがるニレ。メルメルは少し「占い」というものに興味を持った。

「その、ちょっとボケてしまった、すごい占い師のおばあちゃんは、この近くに住んでいるの?」

 ニレが瞳を輝かせてメルメルを見た。

「そうなんだ! ミデルの街への、ほぼ通り道の小さな湖のほとりに、孫娘のフレンリーと二人で暮らしているよ。――寄って行こうよメルメル!」

 また、フレンリーと言う時に声がひっくり返った。おねだりするようにニレに見つめられ、自分自身の興味も手伝って、メルメルはつい、「寄ってみたいな」と言ってしまった。ラインも同意するように首を縦に振る。

「いいんじゃないか? あそこなら少しはゆっくり休めるだろう。ミデルに乗り込む前に疲れをとれる」

「じゃあ、決定ですね!」

 ニレがニコニコと手を叩く。心底嬉しそうだ。メルメルはぼんやり考えた。

(おじいちゃんの行方を占って貰って、他にも一つくらい占って貰えるかしら?)

 だからと言って、特に占って貰いたい事が思いつかず、メルメルは首を捻る。

(何がいいかしら? ……おじいちゃんとお菓子屋さんが出来るかどうか? ……でも、もし無理だなんて言われたら嫌だしな~)

「僕、ちゃんと背が大きくなるか占ってもらおうかな……」

 隣から小さな声でトンフィーが呟くのが聞こえて、メルメルは吹き出しそうになってしまった。

「しょうがないな。そんじゃ、たまにはボケ婆さんの様子でも見てやるか~」

 グッターハイムが溜め息混じりに言って、明日からの行き先が決定した。メルメルは、ずーっとニコニコと頬を緩ましているニレを眺めながら、何を占って貰うかを考えていた。

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