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戦士ライン 11

 欠伸をしながらもワーチャは、ちゃんと道案内をして(間違った道を進もうとすると、「ミギャー!」と鳴くんだ)日は傾き、辺りはどんどん暗くなってきた。

「そろそろ休むか……。馬も人もくたくただ。なあ、ペッコリーナ」

 グッターハイムが言うと、ペッコリーナ先生は、「まったくだわ……」と、カの鳴くような声で呟いた。

 街道から少し林の奥に入り、手頃そうな木にそれぞれ馬を繋ぐ。グッターハイムは大きな袋を馬から下ろした。

「これに色々材料が入っている」

 メルメルとトンフィーがのぞくと、芋や人参など、色々な食材が入っていた。

「何か適当に作ってくれ。男は薪拾いでも行こう」

「少し戻ったところに川がありましたね。私は水を汲んで来ますよ」

 ニレが言って皮袋を持って走って行った。

「……じゃあ、私も薪拾いでもするかな」

 ラインが呟くと、グッターハイムは首を横に振った。

「いや、薪拾いは一人で十分だ。お前は子供達を手伝わせて料理を作ってくれ。……ペッコリーナを少し休ませてやれ」

「助かる。そうさせてもらうわ……」

 すっかり疲れた様子のペッコリーナ先生は、大きな布を広げて横になってしまった。

「それじゃあよろしくな、ライン」

「あ、ああ……」

 グッターハイムが去って、頼りなさそうな顔で突っ立っているライン。トンフィーは袋をあさった。

「玉ねぎ、人参、ジャガイモ……。干し肉でもいれて、シチューかなんかにしますか? ……ラインさん?」

「ん? あ、ああ。そうだな。そうしよう……」

 そう言いながらラインは腕を組んで、トンフィーが袋から材料を取り出すのを眺めている。メルメルは、馬の背から大きな鍋を下ろしながら、不安げな様子のラインを見た。そして、ある事を思い出した。隠れ家で見た、ラインのあの部屋。散乱した料理の本に、不気味な液体の入った鍋……。

 メルメルがチラッと見ると、やはり何かを思い出したような顔をしてトンフィーも同じようにこちらを見た。二人で目を合わせ、こっそり頷く。

「と、トンフィーは料理がとっても得意なのよ!」

「そ、そうなんだ! ぜ、是非、みんなに披露したいから、今日は僕が作ってもいいですか?」

 ラインは明らかにホッとして、トンフィーを見た。「そうか。それじゃあ、よろしくお願いしよう」

「は、はい。えっと、メルメルこれを切ってくれる? 僕はこっちを……」

 二人でナイフを取り出し、せかせか切り始めた。すると、ラインがじっとその様子を見つめてきた。

「上手いな……。どうしてそんな風に上手に切れるんだ?」

 ラインは首を傾げる。心底不思議そうな顔だ。メルメルだっておじいちゃんのお手伝いをするから、皮むきくらいは出来る。横ではトンフィーが芸術的な早さと美しさでジャガイモの皮をむいていた。

「す、すごいな……」

 ラインが感心する。メルメルはニッコリした。

「トンフィーは本当に料理が上手なのよ! 家でもご飯の支度はトンフィーがほとんどするんだもの!」

「それは――えらいな。いや、本当に上手い。お見逸れした……」

「いや~それ程でも……」トンフィーは耳を赤くして頭を掻いている。

「実は、私は――」

 ラインが呟いて、メルメルとトンフィーは首を傾げる。

「料理が、下手なんだ」

 思わずメルメルとトンフィーは、首を傾げたまま固まってしまった。

「そ、そうなの……?」

 二人は目を泳がせる。

「だ、誰にでも、苦手なものはあるから……」

 トンフィーが言うと、ラインは頷いた。

「そうだな。だが、トンフィーのような旦那様なら良いが、世間一般の男は、料理をあまりしないものだ」

首を傾げる二人。

「だから、その……。つまり、女性は料理くらい、出来た方がいいだろう?」

 メルメルとトンフィーは顔を見合わせた。そうかもしれない。「う~ん……」

「だが、どうにも上手くならないんだ……」

 何だかしょんぼりしたラインが、メルメルは可哀想になってきた。

「下手って、でも、人から見たら、それ程でもないんじゃないかしら?」

 なんとか慰めようとする。しかしラインは首を横に振る。

「――見てくれ」

 ラインはそう言うと、腰に差していたナイフを抜いて、クルクルと回して手の平に掴んだ。

(そうよ! こんな剣の達人は、皮むきなんてお茶の子さいさいね! ……問題は、味付けかしら?)

 ラインはメルメルの手の平からジャガイモをむんずと掴んだ。そして、ナイフの柄をしっかりと握り締めたまま、皮を剥き始めた。

「わ~! 危ない危ない!」トンフィーが青くなって止める。

 ラインは目をパチクリさせる。「……やっぱり駄目か?」

「だ、駄目って言うか、危ない――手を切っちゃいますよ。こうやって持つんです」

 トンフィーは、ラインの手を取って、刃に親指を添えさせる。

「ほら、こうやって……。力は入れなくていんです。親指を滑らせながら、そうそう……」

 二人が見守る中、ラインはなんとか十分くらいかけて、ジャガイモの皮を一つ剥き終えた。

「やったー! 出来た!」「わ~! すごいすごい!」メルメルとトンフィーは大喜びする。

「は、始めてだ。こんなに上手に剥けたのは……」

 上手に剥けた、と言ったジャガイモは、かなりいびつな形をしていた。

「これからはトンフィーの事を師匠と呼ぼう」

「よっ、トンフィー師匠!」

「いや~そんなぁ~」

「なーにが、そんな、なんだ?」

 突然グッターハイムが会話に入ってきて、三人共飛び上がりそうになってしまった。

「薪を集めて来たぞ」

「あ、ああ。ありがとう……」

「水、組んできましたよ!」ニレも戻ってきた。

「あー! 腹へったな! まだ出来ないのかー?」

 トンフィーとメルメルは慌てて残りの食材を切る。

「こんな感じでいいですか? ラインさん」

 トンフィーがニッコリして聞くと、ラインは腕を組んで胸をそらした。

「ふむ。いいだろう」

 メルメルとトンフィーは必死で笑いを堪える。二人がこっそり覗き見てみると、ラインはニヤリと笑った。

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