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戦士ライン 4

「こら! 待ちなさいミミ!」

 ミミは一瞬立ち止まると、チラリとメルメルを振り返った。そして一度大きく尻尾を振って、目の前にある桜の木の一番下の枝に、驚くほどの跳躍力で飛び乗った。

「ムムム~」

 見上げるメルメルをあざ笑うかのように、ミミはのんびりと伏せをして、腕の毛を舐めてくつろぎ始めた。ところが――

「やっ!」

 メルメルが、これまた驚くほどの跳躍力でミミの乗っている木の枝に飛び付いた。そして、ブゥン、ブゥンと体を前後に大きく揺らし、その反動でクルリと回転して枝の上に飛び乗った。ミミはビックリして舌を出したまま固まってしまった。

「へ~っへっへっ!」メルメルはニヤ~っと笑った。

「メルメル~!」ようやくトンフィーが追い付いて来て、木の上で向かい合った少女と猫を見上げた。その腕に、やる気無さそうにびよ~んと伸びたシバを抱えている。「もう、諦めようよメルメル~!」

「待って! もう少しだから……」メルメルはミミににじり寄りながら、「つ~か~ま~え……たっ!」

 ミミはサッと隣の木に飛び移ってしまって、スカッとメルメルの腕は空を切った。

 メルメルはキランとミミを見すえて、素早い動きで隣の木に飛び移った。ミミはまたまたビックリして、慌てて一つ上の枝へと飛び移る。もちろんメルメルはそれを追いかけて行く。

 一つ上、二つ上、隣の木、一つ下、二つ下、右の木、左の木、トンフィーは首を振り振りメルメル達を目で追いかけている。そして遂に一人と一匹は、木から隣接している小屋の屋根へと飛び移った。屋根から木、木から屋根へと隠れ家の中をグルグル回り始める。  

 屋根の上をドカドカと走り回る足音に、小屋からは、「何だ何だ?」とたくさん人が出て来てしまった。

「一体どうしたんだい?」ニレも小屋から出て来た。

 日も落ちてすっかり暗くなった隠れ家の屋根の上を、猫と一緒にぴょんぴょん走り回るメルメルを見上げて唖然とする。

 ミミは猫らしくピョンピョンと木の上を飛び回っている。ところが、それに負けじと同じ様に木から木に飛び移るサルも真っ青なメルメルを見て、ギャラリーは段々呆れるを通り越して感心し始めた。

「頑張って!」

「ほら、もうちょっと!」

「行け~! そこだ~!」

 応援する声に励まされて、メルメルは少しずつミミとの距離を縮めて行く。今や、疲れきって眠るグッターハイムとペッコリーナ先生以外は、隠れ家にいる全員が出て来て、メルメルとミミの追いかけっ子を見守っていた。そして遂に、

「いまだーーー!」

 柵の際まで追い詰められたミミに、メルメルが飛び付いた。

 しかし、

「あ、あ~!」

 ミミはヒラリと柵の外へと飛び降りて、悠々と歩きながら森の中へと消えて行った。

「あらららら……」

 メルメルは名残惜しそうに、少しの間ミミの消えて行った森を見つめる。まさか追いかける訳にはいかないので、諦めて木をスルスルと降りた。夢中で走り回っていた時は気付かなかったが、余りにもたくさんの人が集まっているのでメルメルはちょっとだけ驚いた。トンフィーを見れば、ペコペコとあちこちに頭を下げてまわっている。

「す、すいませんでした! お騒がせしました。あの、ゆっくりお休み下さい……」

 それでやっとみんな散り散りに、「惜しかったわね~」とか、「お嬢ちゃん凄いわね~」とか言いながら去って行った。残ったニレは宇宙人でも見る様な目でメルメルを見つめている。

「どうしてミミを追いかけていたんだい?」

 メルメルはポケットから例の青い首輪を取り出した。

「……首輪をつけようとしたのかい?」

 こっくり頷くメルメル。良く見ると首輪を持ったその手も、可愛い顔もあちこち引っ掻き傷だらけで、ミミとの激しい戦いの模様が伺える。

「ミミったら何であんなに嫌がるのかしら! いいじゃない? 首輪を着けるくらい」

「だから、諦めてシバにしておこうって言ったのに……」

 プリプリするメルメルに、トンフィーは情けない声を出した。こちらも同様に体中ひっ掻き傷だらけになっている。

「どうしてミミの方が良いんだい?」

 ニレは、既にこれまでの経緯をメルメル達に全て聞いていたので、特にミミじゃなければいけないとは思えなかった。二匹は同様に特別な力を持っているのだ。

「ま、別にシバでもいいんだけれど……。でも、その……。ねぇ、ニレ。ペットにするなら、リーダーの方が良いのでしょう?」

 ニレは、あっちこっちに話が飛ぶメルメルに、思わず目をパチクリさせた。

「あ、ああ。――そりゃあ、群のリーダーなら、その群全部を操れる事もあるし……。あ! そういうことか!」ニレはようやくピンときた。しかし……。と再び首を傾げる。「でも、別にミミがリーダーって訳でも無いだろう?」

 メルメルはトンフィーに大人しく抱かれているシバをじっと見つめた。

「でも、どちらかと言えばミミじゃないかしら? だって、いつでもミミが前を歩いてシバがその後ろを付いて歩いているじゃない?」

 確かにその通りだが、果たしてそれだけでミミがリーダーだと言えるのか?

「別にリーダーとかペットとか関係ないんじゃないかい? これまでだってミミとシバはメルメルを助けてくれたんだろう? 他の猫達も道案内してくれたりして、二匹に協力してくれているみたいだし」

 そうなのだ。だからメルメルだって最初は一応ミミをペットにしとこうかな、くらいの気持ちだったのだ(だけど、ミミがあんまり嫌がるから何となく意地になっちゃったんだ)。

「じゃあ、シバに決定って事でいいわ。それでは、気を取り直していよいよ緊張の首輪つけの儀式を始めます!」

 何だかメルメルは勝手に仕切り直して、仰々しく首輪を両手で摘みあげた。

「ちゃちゃちゃちゃ~ん♪」

「ちゃちゃちゃちゃ~ん♪」

「ちゃちゃちゃちゃん♪」

「ちゃちゃちゃちゃん♪」

「ちゃちゃちゃちゃん♪」

「ちゃちゃちゃちゃん♪」

「ちゃんちゃちゃ~ん、ちゃ~んちゃちゃちゃ……♪」

 メルメルとトンフィーはノリノリで効果音をつけながら、ぼけっとしているシバに必要以上にゆっくりと首輪をつけた。

(それじゃ結婚式だよ……)とニレは内心思ったが、取りあえず黙って置くことにした。

「…………………」

「メルメル?」

 トンフィーの呼びかけにも答えず、首輪をつけた瞬間からメルメルはじっと目を瞑ったままだ。

「ね、ねぇメルメル?」

「おかしいわ」「へ?」

 メルメルは目を開いて、トンフィーに抱えられたままのシバをじっと見た。そして少しだけ関係ない事を考えた。

(なんだかシバったら少し目が離れているのね。宇宙人みたい……)

「何も感じないわ」

「ど、どうゆうこと?」

 何だか妙なメルメルの様子にトンフィーはおどおどしている。

「だって、ペットの契約をしたのよ? これからはシバと色々影響し合うんでしょ? 何か――、何か感じる筈だと思ったのよ」

「何かってなんだい?」笑いを含んだ声でニレが聞いた。

「例えば……雷に撃たれたみたいに、ビビビビ! ……とか」

 今やニレは声を殺し、体をくの字に曲げて笑っている。

「あはは! 別にペットにしたからって、特別何かを感じたりはしないよ。メルメルって面白いな~」 トンフィーにまで笑われて、メルメルは少し膨れた。

(何よ! それじゃあ今までと、本当に何も変わらないじゃない)

 何となく恨みがましくシバを見つめる。相変わらずシバはぼけっとした、ちょっと宇宙人みたいな顔をしていた。

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