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戦士ライン 2

「何か手掛かりがないかと色々見ていたら、机の上の、木箱の中に大事そうに入っていたのを見つけたんだ」

 横でペッコリーナ先生が頷く。「プラムがあなたにと用意した物よ」

 メルメルは首を傾げる。どうしてそんな事が分かるのだろうか? プラムじいさんもペットは飼っていない。自分が使うつもりだったかも知れないのだ。そんなメルメルの心を読んだかのようにグッターハイムが言った。

「手紙が一緒に入ってたんだ」

 懐から可愛いピンクの封筒を取り出しメルメルに差し出す。メルメルは中身を取り出し読み上げた。

「メルメルへ。ペットは愛しい子供の様でもあり、頼れる友の様でもあり、また時には自らの一部の様でもある。大切にして、命分かつまで共に生きなさい。おじいちゃんより……」

 プラムじいさんの、優しく力強い字を見てメルメルは涙ぐんだ。

(おじいちゃん、きっとワタシがいつでもすぐペットを飼えるように、用意してくれてたんだわ……)

 実は、メルメルがなかなかペットを飼うのに踏み切れなかった原因の一つに、プラムじいさんが日頃から、「安易にペットを飼ったら駄目じゃ」と言っていたのがあったのだ。

「なかなか重い手紙ね。プラムのペットは青暗戦争の時に死んでしまったから、ペットに対する思い入れがとても強いのね……」

 初めて聞く話にメルメルが驚いていると、同じ様に驚いた声が隣から上がった。

「メルメル! 君のおじいさんはプラムさんなのかい?」

 メルメルがコックリ頷くと、ニレは驚いて見開いた目をそのままに、盛大な溜め息を吐いた。

「私は青暗戦争の時に、プラムさん達と共に逃げ出したんだ。その時、プラムさんの抱いていた赤子の君を見ている。こんなに大きくなったのか……」

「おじいちゃんと一緒に……」

 ニレとメルメルはそれぞれの思いを抱いて、しみじみと互いに見つめ合った。

「プラムさんは元気かい?」

 ニレの何気ない質問に不意をつかれてメルメルはまたしても涙ぐむ。それを見て慌ててグッターハイムが口を挟んだ。

「それについても色々あるが、説明は後だ。――さあ、着いたぞ」

 一同の行く手に、人の背丈の三倍程ある木の柵があり、それが左右に長く伸びていた(如何にも要塞といった風情にメルメルとトンフィーはドキドキしたんだ)。どうやら柵の一部が扉のようになっているらしく、それがゆっくりと内側から開き初めた。そうして開いた柵の中から、先程の歯の出た男が現れた。

「すべて用意出来てますよ! まずは食事ですか?」

 グッターハイムが頷きながら中に向かって歩き出したので、皆ぞろぞろそれに続く。

「そうだな。まずは飯だ。みんな腹が減っているだろう? それと――ラインを呼んで来てくれ」

 歯の出た男はキョトンとした。「あれ? ラインさんならいませんよ」

 今度はグッターハイムがキョトンとした。「なに?」

「出掛けてます」

「またどこかに行っちまったのか!」

「ええ。もう一週間になるし、もしかするとそろそろ帰って来るかもしれませんが……。ラインさんに用事でしたか」

 グッターハイムは頭をバリバリ掻いた。

「そうさ! 参ったな。あいつめ、どうせまた行き先も告げてないんだろ?」

「そうなんですよ」

 歯の出た男が頷くのを見て、メルメルはガッカリした。力強い味方が増えると思っていたのもあるし、単純にラインという戦士を見てみたいというのもあった。

「仕方ないわね。明日の朝まで待って、戻って来なければ諦めましょう」

 ペッコリーナ先生が言っても、グッターハイムがそれでは納得いかないという様な顔をした。

「ちょっとあいつの部屋を見てみよう。もしかしたら行き先の手掛かりか何かあるかもしれん」

 するとニレが慌てて手を横に振った。

「だ、駄目ですよ! ラインさんは絶対に部屋には誰も入れるなって――」

 グッターハイムがニレに向かってニヤリとした。

「知っているさ。そして、だからこそ入ってみたいと思っていたんだ」

 とっても悪そうなグッターハイムの笑顔に、ニレは青くなる。

「ラインさんに知られたら殺されちゃいますよ!」

「ごちゃごちゃ言わないで鍵を寄こせ! これはリーダー命令だぞ」

「そ、そんな~」むちゃくちゃを言うグッターハイムにニレは泣き出しそうな顔をしている。

「私達は先にご飯を食べて休みましょう。さすがに疲れたわ……」

 心底疲れたようにペッコリーナ先生が言った。

「お食事はこちらです」歯の出た男が先に立って案内し始めた。

 メルメルは少し迷ったが、「私もラインさんのお部屋を見てみたい!」

 グッターハイムがニヤリとした。

「ぼ、僕も行こうかな……」

 トンフィーが言うと、グッターハイムは勝ち誇ったようにニレを見た。

「子供が言うんじゃ、しょうがないな。――よし、行こうか」

「とほほほ……」

 諦めてすっかり肩を落としたニレ。その背中をつつく様に歩きだしたグッターハイム。それについて行こうとするメルメル達の背中にペッコリーナ先生が声を掛けた。

「しょうがない人達ね。なるべく早く休むのよ!」

「は~い」

 振り向きもせず、手をあげて生返事をするメルメル。ペッコリーナ先生は少し呆れた顔をしながら去って行った。

 メルメルは、ずんずんと進んで行くグッターハイムに付いて行きながら、改めて隠れ家の内部の様子を眺めた。同じような大きさの小屋がたくさん建てられている。小屋と言っても、おそらくはそれぞれの住居になっているのだろうが、家と呼ぶには殺風景で、木を組み合わせただけの簡単な造りになっていた。それらが円を描くように外側の柵に沿って並べられて、その中心が大きな広場になっているのだ。その広場だけは木も抜かれ草も短く刈られて綺麗に整備されているが、他の部分は柵の外と変わらず、小屋と小屋の隙間にも木や草がぼうぼうと生えていた。上から見ても丸い広場が見えるだけで、高い木々に覆われた建物は全く見えないだろう。

「見てトンフィー!」

 メルメルの指差した先には、大柄な女が一人木の上の方に登って洗濯物を枝に干しているところだった。波打つ黒い長髪が印象的だ。女は視線に気が付いてこちらを振り向いた。

「……リーダー! お久しぶりです!」

「よおマリンサ! 変わりないか?」

 マリンサは応えるように笑顔で手を降っている。すると、すぐ傍の小屋から若い女性が二人出てきた。

「あ! やっぱりリーダーじゃない」

「声が聞こえたから、まさかと思ったけど……。あら? いつの間にこんなに大きな子供作ったのよ!」

「やだ~! お前だけだよって言ったのは嘘だったの~」

 キャッキャッはしゃぐ若い女性にグッターハイムはニヤリとしながら手を叩いた。

「こらこら。子供がビックリしているだろうが。それに俺の子供じゃあないのさ。忙しいんだから、あっちに行ってろ」

「あ~ん! つれないわね~」「たまには相手してよ~」

 グッターハイムの言う通り、メルメルとトンフィーが驚いて目をパチクリしていると、投げキッスをしたりしながら女達は小屋へと戻って行った。

「相変わらずモテますね、リーダーは」

 ニレがニコニコして言う。グッターハイムはフフンと鼻を鳴らした。

「まぁな。どっかの誰かさんにはオジサン何て言われたが……。俺もまだまだ捨てたもんじゃないな」

 メルメルは、(まだ根に持っているのね……)と少し呆れたが、心なしか胸を張っているグッターハイムを見上げて、(言われてみれば、まぁ確かにハンサムだわ。オジサンだけれど)などと考えていた。

「メルメル、やけに女の人が多いね」

 トンフィーが指差した先を見てみると、広場の向こうに井戸があり、四人の女が文字通り井戸端会議をしているところだった。

「本当だ……」

 今のところ男はニレと歯の出た男しか見ていない。すると二人の会話を聞いていたニレが、フフと笑った。

「ここには私とフーバー以外には、男はいないよ」

「えっ! どうして?」

 フーバーとは先程の歯の出た男だろう。ペッコリーナ先生は十数人の仲間がいると言っていた。ニレとフーバー以外、残り全部が女とは……。メルメルとトンフィーの驚いている顔を見て、ニレは更に笑った。

「どうしてって……。ここは第一部隊の隠れ家だからさ。第一部隊はほとんど女性しかいないんだよ」

 メルメルとトンフィーは頭にハテナがたくさん浮かんだ。第一部隊というのも知らないし、どうして第一部隊のほとんどが女性なのかも謎だ。

「やっぱり隊長が女性だと、部下には女性が集まるものなのさ。リーダーなんか辞めて、ラインに第一部隊長と交換して貰おうかな~」「え!」

 ニヤニヤと何だかいやらしい顔でグッターハイムが言うと、トンフィーは目をまん丸にして思わず叫んでしまった。メルメルはしばらくグッターハイムの言葉を頭の中で整理して、ようやくハッと気付いた。

「ら、ラインさんって女の人なの?」

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